少女の死と来訪者
紅い血が、押さえた手から溢れ出て、青白い腕を伝う。
そして、音もなく彼女がその場に崩れ落ちた。
目の前の光景が信じられず、ただ茫然と見る事しか出来なかった私を、彼女の目がとらえた。
城にいた頃の姿は見る影もなく、光を無くした目に、愕然とした。
震える唇が、声無き声を紡ぐ。
何故…と……。
すると、黙って私を見つめていた彼女が、不意に柔らかな笑みを浮かべた。
黒の瞳から、涙を流しながら。
血の気が失せた青い唇が、力なく動く。
「ごめ…なさ……い…。どう、か…しあ……せ……に…」
ゆっくりと、瞼が閉じられる。
震える体を叱咤して彼女の側に行き、口元に手を当てれば、何の呼気も感じられなかった。
その手をずらし、今度は左胸に持っていく。
そこにある筈の心臓は、鼓動を刻んでいなかった。
まだ信じられず、今度は紅く染まった右手首に指を当てる。
そこでも、何の脈も感じられなかった。
死。
そう、彼女は死んだのだ。
けれど、そう理解しても頭の中を疑問符が埋め尽くす。
何故、と。
魔法は、体に宿る魔力を消費するが、それが全て尽きて死ぬ事はない。
無意識の内に、体が生きる上で必要な最低限の魔力を残すからだ。
したがって、術を施している最中に気を失う事はあっても、死ぬ事はない。
なのに、何故。
茫然と彼女を見ていると、突然凄い音を立てて扉が開かれた。
「リオ!」
「リオさん!」
「リオ殿!」
先の軍に自ら志願した傭兵ギルバート。
奴と一緒に付いて行った薬師ルイス。
そして車椅子に乗って来た兄キース。
飛び込んできた三人が、驚きに固まった私を押し退けて、彼女に駆け寄った。
ルイスが、先程私がした動作を繰り返す。
最後に首に手を当てて、彼は項垂れて首を振った。
「……お亡く、なり…で……す………」
骨と皮だけの細い手を胸で組ませ、力なく座り込む。
その言葉を聞いた途端、傭兵が私の胸ぐらに掴みかかった。
「何故、リオに力を使わせた!アイツは……」
「いけませんっ!ギルバート!!」
殴ろうとするギルバートに後ろから抱きつき、ルイスは無理矢理私たちを引き剥がした。
「はなせっ!コイツのせいでリオはっ!!」
「落ち着きなさい、ギルバート」
今まで黙ってリオを見つめていた兄のキースが私たちの間に入り、声をあげた。
「ですがっ!」
納得いかないと声を荒げた彼を静かに見据え、キースは言った。
「王であるヴェルグラスに一介の傭兵であるお前が手をあげたとなれば、ただでは済まないでしょう。だから……」
そこで言葉を切り、兄は杖をついて立ち上がったかと思ったら、私を見て言った。
「私が代わりにしましょう」
その言葉を理解する前に。
バキィッ!
思いきり殴られた。