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少女と王  作者: 咲夜
2/13

王が嫌う少女

柔らかく暖かな光が、奴の小さな掌から溢れる。


治癒魔法を初めて見たのだろう。


負傷した兵士は、驚いたように目を見張り、みるみるうちに塞がる傷を間抜けた顔で見つめていた。


どんな病も怪我も、たちどころに治してしまう治癒魔法。


それを使うのは、私の寵姫ミオの姉にして侍女のリオ……、私が最も嫌いとする人物だ。


奴は、側室入りの話を蹴って私に恥をかかせただけでは飽きたらず、貴重な治癒魔法を三年もの間、隠していたのだ。


しかも、力があると知ったのも偶然。


あんなことが起きなければ、奴はずっと隠したまま、厚かましく城に居続けただろう。


一ヶ月程前、私の兄キースが廊下で急に倒れてしまった。


偶々その場に居合わせた彼女は、何故か直ぐにその力を使わなかった。


慌てて医師だ薬師だと周りが騒ぐ中、彼女は黙って兄を見つめ続け、ややあって兄の側に膝を着いた。


何をする気だと周りが見守る中、震える手を胸元で組み、深呼吸してから、その澄んだ声を響かせた。


「生命を司りし女神ミリアよ。……彼の者に癒しの光を与えたまえ…」


組んだ掌から光が溢れ、その両手を兄に翳すと、穏やかな光が広がり兄を包んだ。


誰もが予想していなかった事態に、皆茫然とその場に立ち尽くし、その光景に見入った。


そして誰もが、とある噂を思い出した。


黒衣の聖女。


黒のヴェールで顔を隠した女性が、無償で人々を癒しているという。


淡い光を纏った彼女は、平凡な容姿なのに他の誰よりも美しく、そして優しい聖女に見えた。


暫くして、光が消えたと同時に兄が目を覚ました時、辺りは歓声に包まれた。


けれど、そこで一つ問題が起きた。


兄に、後遺症が残ってしまったのだ。


下半身が全く動かず、茫然とする兄を慌てて医務室に運び、診察してもらうと、動けるようになるまでかなり時間がかかる上に、完全に元通りとはいかないらしい。


それを聞いて激怒した私は、再度治癒魔法を求めた。


どんな病も怪我も治せるのならば、後遺症も治せる筈。


けれど、それを止めたのは他ならぬ兄だった。


少しだけ二人きりにしてほしいと言われ席を外した私は、奴をどうしてやろうか…とその事ばかり考えた。


そして、思い付く。


長くより続く隣国との小競り合い。


肥大化はしてないが、それでも国境付近で多くの負傷者を出している。


私は、そこに彼女を送る事を決めた。


軍を派遣する中に彼女を混ぜ、送り出したのは半月前。


そろそろ音をあげる頃かと、馬を飛ばして様子を見に来てみれば。


驚くほど痩せこけた彼女が、兵士の治療に中っている最中だった。


苦し気に眉を寄せ、それでも懸命に力を使う彼女に罪悪感を抱いた、その時。


不意に上体を倒し、口元に手を当てた彼女は激しく咳き込み……。


血を、吐いた。


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