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ナマズと急転、一

「うなうな、おでかけたのしいうな!」


「あーそれはよかったな」


僕とナマズ少女は仲良く手を繋いで歩きだそうとしていた。もちろん西之園の命令である。たしかにこれなら子どもと散歩してる絵、そのままではあるのだが。


「うー、でもえんかおねえちゃんもいっしょにいきたかったですー」


「そうだな。まあしょうがないよ。彼女は僕らとちがって忙しいし、いろんなとこからひっぱりダコだから」


「たこ?たこうな?おいしいですか?」


「うまいぞー。刺身なんか最高だ」


「う、うなな、にんげんはおそろしいです・・・」


ナマズ少女を引き揚げたあと、結局西之園は学校にもどってしまった。どうやら部活でトラブルが発生したらしく、緊急で呼び出しをくらってしまったのだ。


すごく残念そうにしていたが、しょうがないだろう。


ということで二人でのお出かけとなったわけだ。


「お前はなにが食べたいんだ?」


「どじょうです!」


「どじょうか~まさか柳川鍋にするわけもないし、生食なんだろうな」


「ん?ん?」


どじょう。日本全国の水田や湿地帯に広く分布する淡水魚の一種だ。食用として養殖もさかんに行われており、魚屋にいけば簡単に手に入る。


しかしこいつを連れて街にでるのは避けたいところだ。


「お前どじょうの知り合いとかいないのかよ」


「うー、わかりませんーーーは⁉」


「どうした⁉」


ナマズ少女はくっくっく、と悪者のように笑いだした。


「ヨシヲにいちゃん。すっかりわすれてましたが、うなにはあるんですよ!おそるべきとくしゅのうりょくが」


「な、なんだってー(棒読み)」


「いきますよー!はっ!」


ナマズ少女はビシッと両手で頭を指差す。するとナマズの目がこれでもかというぐらいに見開いた。さらに四本のヒゲがピンと張り、前方をさした。


「こっちですうな」


「え?」


「これはうなぎれーだーですうな。えさばをはっけんし、みちびいてくれます」


「お、おー!」


地味だ。しかし思ったより使えそうな能力である。


「こっちうな、こっちうな!うひょおおお!」


突然イノシシのようなダッシュをかますナマズ少女。裸足でペタペタ駆けていく。


あわてて僕も追いかけた。



「はぁはぁはぁ」


「ぜぃぜぃぜぃ、このアホ。アホっ娘が」


「うーごめんなさい。はりきりすぎてしにそううな」


あれから二十分ほどこのナマズ少女は走り続けた。そして僕も追いかけ続けた。森の中をとんでもない速度で駆けていくので、枝や葉っぱに引っかかり体もボロボロだった。


「それにしても、そのレーダーは本物らしいな」


たどり着いたのは池だった。不沈沼の半分ほどの大きさで、水もそこまで濁っていない。池のすぐそばには『千回池』と書かれた古い立て札があった。


検索しても出てこない、不沈沼と同じように地元民しか知らない場所なのかもしれない。


「あたりまえですうな!みなおしました?」


「見直した!さすがうなぎ様!」


「ふはははは!ヨシヲにいちゃんもやっとうなのすごさがわかりましたか」


単純な子どもだ。ナマズ少女の相手をしてやりながら池を覗き込む。かすかに水面が揺れ、底がすけて見える。この分なら入っても大丈夫そうだ。


しかしよく考えてみれば、どじょうなんて小さな魚をなんの道具もなしに獲れるものだろうか。


よくどじょう掬いなんて言うけれど、さすがに素手では行わないだろう。


「ほれほれどいてどいて。うなにまかせなさい」


「なに?」


「みずべとあらば、そこはうなのりょういきです。にんぎょのようなかれーなおよぎをみせますうな」


ナマズ少女は再び両手を高く挙げて、ナマズ部分を指さした。おのずとそこに目がいってしまう。


「はいっ!」


キュピーンという効果音(空耳?)とともにナマズ部分の目が開く。それは以前と違いぎらぎらと赤く輝いていた。まるね飢えた獣のようだ。


「だ、大丈夫か?」


「いきます!みててください!とうっ」


叫んで、ナマズ少女は池に飛び込んだ。あっという間に潜ってしまい、姿が見えなくなる。


「ふつうに飛び込んだだけかよ・・・」


そう独り言を呟いたときだった。


「アンタ、私の池でなにしてんの?」


「え?」


振り向くと、そこには一匹のどじょうがいた。


ーーーいや、正確にいえばそれは紛れもなくナマズ少女と同類の、どじょうの姿をした童女だった。










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