おっさんの領域に少し踏み入れた俺が元の世界に戻るための呪文はこちらの世界の娘の"あれ”だった!?
おっさんのラインって何歳からなんでしょうね~。
何でこんなことになったんだろう……。
俺の名前は"おっさん”。
いや、ちゃんとした名前はあったんだ!
あったのだが思い出せない。
ちなみに俺は今、ズボンの裾がほつれているパジャマを着ている。
その色はねずみ色。
上は半そでで、下は長ズボンな。
しかも、だいぶあせている。
……聞いてないか。
いや! 誰か聞いてくれ!!
何で俺がこんな格好で牢屋に入れられてんのかを!!
ー☆ー
俺は昨日まで普通のサラリーマンだった。
歳は四五。
年収はそこそこ。
一応マイホーム暮らしだが絶賛ローン返済中!
顔もそこそこで、そんな俺にはもったいない可愛い嫁さんと一人娘もいた。
その娘は今年で一八歳になる。
今まで一度も反抗期といったものがなく、自分でも自慢できるよい娘だった。
……だったんだ。
なのに昨日、急に俺を無視したんだ!
それどころか避けたんだ!!
呼んでも返事はしないし、俺が二階から一階に下りると二階に上がるし……。
俺が何したんだ!?
まさか、彼氏ができたのか?
いや、そんな気配はなかったぞ?
なら、 ま、まさか……俺のことが嫌いになったのか!?
俺は娘に嫌われることはしていない……はずだ。
柿しぶ石鹸で体を洗ってるから臭わない……はずだと思う。
デリカシーがないことも言ってない……と思う。
駄目だ。考えてもわからん!
考えるだけで落ち込んでくるから俺はふて寝した。
しかし中々寝付けないので布団の中で、のの字を何百回も書いた。
するとこんな訳のわからん世界で眠っていたんだ。
目が覚めた俺は夢の世界でも疑ったよ。
だってどう見ても変すぎだ。
まあ、気温はそこまで気にならない。
暑くもないし寒くもない。
しかし赤い傘に白の水玉模様でフサは紫の謎のキノコがうにょうにょと動いているとか。
青い空に浮かんでいる妙にデカい太陽にリアルな顔があるとか。
どっかのゲームで見たことのあるような敵キャラがうようよ歩いてるとか!?
そいつらの大きさはまちまちだったが、もうどうがんばっても頭がついて行かねえよ!
変わってなかったのはこのねずみ色のパジャマだけ。
しかも俺は裸足のままだった。
死んでないはずだから異世界転移ってやつか?
にしても、よくファンタジーの世界にあるような
神様が何か凄い能力をくれてどうとかこうとかもない。
どーしろってんだこれをよ?
俺が途方に暮れていた時だった。
「捕まえろ!」
「は? 」
俺がキョロキョロと周りを見渡した時には体をぐるぐる巻きにされるわ、目隠しはされるわで、
わけのわからないままこの牢屋まで運ばれて来た。
そして座ったまま目隠しを取られた俺の前にいたのは……。
「彩鈴!?
そう、娘の彩鈴だった。
彩鈴は立って俺を見つめていた。
顔はそのままきょとんとした顔の彩鈴。
強いて言えば少し化粧が濃い。
しかし何だそのお姫様の格好は?
肩がかなり出ている薄ピンクのロングドレス。
スカート部分はヒラヒラつき。
髪はその盛ると言うのか、茶髪だけでなく、ぼんっと凄いことになっていた。
その頭には、きんきらりんのティアラがついてるし……。
ヅカでもあるまいしよ?
「うぷぷ……ぷはははは!」
だから、つい笑ってしまった。
「無礼者! アリス姫、この者はさっさと処刑しましょう!」
「そーだ そーだ! 我が国で一番美しき姫君に対してそのように笑うとは極刑にすべきです!」
「このようなわけのわからぬ者を拾ってきた輩とともにこの世界から消し去るべきです!」
……おいおいおい!?
こいつら可愛い顔して何て恐ろしいことを平気に言ってんだ?
俺の前にはあのブロックを組み立てて遊ぶおもちゃの中にいる人形のようなキャラが十数人いる。
しかもかなりのチビっ子だ。
どうかすれば彩鈴の腰ぐらいの大きさしかねえぞ?
そしてそれぞれ違う服を着るやら帽子をかぶるやらしているが
全員の目がキッと釣り上がっている!?
つまりは怒っているのだろうがどうしたもんか?
俺が苦笑いしているとその人形のような輩の中から緑のフードをかぶってよぼよぼとした奴が
俺の前にカツカツと杖をついて歩いて来た。
「かぁーーーっ!!!!」
その割にはとてつもない大声で怒鳴りやがった。
耳がじんじんする。
すると一瞬だけカメラのフラッシュがたかれたような光で眩しかった。
しかしその他には何事もなかった。
「こら、長老様。無暗に魔法を使ってはなりませんよ?」
そして困り顔の彩鈴がそう言った。
やっぱりその声は俺の娘の彩鈴だった。
「申し訳ありません、旅のお方。私の配下の者達の無礼を許してください」
喋り方は違うな。
俺の娘の彩鈴はこんな上品には喋らない。
「はは……ま、まあ、大丈夫ですよ」
「本当に申し訳ありませんでした。
今、我が国は多くの国から狙われておりまして、配下の者達も気が立っているのです」
「はぁ、そうでしたか……」
何か異世界ってトコも大変なんだなと思いながら俺は苦笑いし続けていた。
「あの、お名前をうかがっても宜しくて?」
「あ、はい。俺は……"おっさん”です」
「"おっさん”? 変わったお名前ですね」
「えっ!? 違います!」
俺は何を言ってんだ?
んなわけあるか!
確かに、おっさんの領域に足を踏み入れたさ。
しかし、そんな名前では断じてない!
「あら、でしたら御聞かせ願えます?」
「えっと……"おっさん”」
「……」
どうなってんだ?
変なことを言ってしまうから彩鈴……アリス姫が黙ってしまったじゃないか!?
俺だって、言いたくてこんなことを言ってるんじゃあない!
自分の名前を言おうとすると勝手にそうなるんだ!!
俺は苦笑いに加え冷や汗が出て来た。
するとアリス姫は、ふぅと溜息をついた。
「長老様。あなた、このお方に何の魔法をかけたのです?」
そして困り顔で長老様とやらに聞いた。
勿論、あの緑フードで怒鳴った奴だ。
よく見れば立派な白髭と眉毛があるじゃないか。
「さあの? 忘れてもうた」
聞かれた長老様の答えはこうだった。
何、ひゃっひゃっひゃって愉快に笑ってやがる?
まあ、何となくはそうなる気がしたよ。
「困りましたわ。何の魔法かがわからないのでは解きようがありませんわ」
「ま、まあ、その内どうにかなるでしょう……ははは」
おろおろするアリス姫に俺は何とか笑ってみせた。
すると大音量の警報音がこの場に響いた。
さすがにさっきの長老様の声よりはデカい。
「敵襲! 敵襲!」
「皆の者! 敵襲に備えよ!」
「大変でーす! 城が破壊されてまーす!」
さらにわらわらとあの人形のようなキャラが続々と沸いて来た。
しかも、こいつらとんでもないこと言ってんぞ!?
「姫様! お逃げください!」
「早く早く!」
「アリス姫様だけはお守りしまーす!」
「あっ!? みんな、ちょっと……」
そしてそいつらはアリス姫諸共いなくなった。
残されたのは縛られたままの俺だけ。
しかもご丁寧にあいつら牢屋の鍵を閉めて行きやがった!
ー☆ー
ってなことがあったのさ。
そうやってアリス姫達がいなくなってもここには色んな破壊音が響いて来る。
どうやら敵襲とやらの攻撃はまだ続いているみたいだ。
まっ、どうでもいいんだがな。
元の世界に戻れそうにないし、戻っても彩鈴から嫌われてるし、名前が"おっさん”になったし……。
俺はまたふて寝した。
「……助けて!」
すると彩鈴の声が聞えた。
いや、アリス姫か?
どっちにしても俺の耳に助けを呼ぶ声が聞えた。
「彩鈴ーーーーっ!!」
俺は叫びながら起き上がった。
「どりゃぁーーー!」
そして腕の力だけで、ブチッ!と俺をぐるぐる巻きにしていたものを切った。
さらに真直ぐその声が聞えた方へ走る。
目の前にある牢なんか関係なく突っ走った。
ガゴーーッ!!!!
いつの間にこんなに力が俺にあったのかは知らんが、俺は牢を体当たりで吹き飛ばしていた。
しかも俺は痛くもかゆくもない。
よくわからなかったが、これは異世界のあれだと思った俺はそのままアリス姫の元へ突っ走った。
走り続ける間も城内ではいたる所で破壊音が聞えて来た。
目の前には次から次へとどうみても敵っぽいキャラが現れる。
すると不思議なことにそいつらは俺が走ることで生じる風圧で全て吹き飛ばされていった。
しかしこの城には何のダメージもない。
気持ちがいい程に敵っぽい奴だけビュンビュンと飛んで行く。
これこそ向かうところ敵なしってことか?
敵が吹き飛んでいないってことと、敵がゼロの無しってか?
……やめやめ。
これじゃあ本当に、おっさんになってしまう!
気を取り直して……さらに便利なことに味方っぽい輩には俺の攻撃は効かない。
そして俺にはアリス姫の居場所がわかっていた。
屋上だ。
屋上にアリス姫はいる!
そう確信している俺は何百段もあるらせん階段を裸足もまま駆け上がっていた。
冷たい石段からペタペタと俺の足音が聞こえる。
そして信じられないことに息切れ一つしていない。
しかも俺が階段を駆け上がる時に巻き起こした風も渦を作り敵をビュンビュンと吹き飛ばしていた。
前方だけでなく下の方からも敵っぽい輩の叫び声が聞こえる。
現実世界では運動不足で少々腹が気にはなっていたがここではそんなことは関係ないようだ。
こんな有り得ない速さで走れるんならこの世界も悪くないもんだ。
なーんて呑気なことを考えている間に屋上に到着した。
「彩鈴!」
おっさん様!?」
俺の声に応えたアリス姫は怪獣に捕まっていた。
その怪獣はカラフルで、大きさはアリス姫の数倍はあった。
ちなみに二足で立っている。
しかも角も生えてるし、五本指の爪はかぎ爪のようで鋭敏だし、ギザギザな歯まで生えてるぞ?
さすがは異世界の怪獣!
その周りではあの人形のようなキャラ共が、わーわーっと文句を言っている。
そう、ただ文句を言っているだけで何もしようとはしない。
「どけレ●共!!」
俺はそいつらを一括した。
すると、ピョンとそいつらは飛び跳ねて、わらわらと散って行った。
本当にこいつら、何がしたいんだか……。
まあ、おかげで目の前の道は開けた。
「グオゴゴ!? 貴様な」
ブゥーンッ! ゴンッ!! キラーンッ!
あとはこいつをぶん殴るだけだからな。
そう、ワンパンで終わった。
怪獣が喋っている間に俺の右拳が怪獣のぷにぷにしている頬にクリーンヒットした。
すると何かアニメとかで聞けそうな効果音が次々と聞こえたが、
その怪獣は青空高く飛んで行き、星のように光ってきえた。
「あ、あの……おっさん様」
そして残ったのは目に涙をいっぱい浮かべたアリス姫だけだった。
「大丈夫か?」
「はいっ!」
アリス姫は俺に、ひしっと抱き着いてきた。
こんな風に彩鈴とふれ合ったのはいつ以来だったかな。
もう忘れたがきっと今の彩鈴もこんな感じなんだろう。
そう思った俺は優しくアリス姫の肩を叩いた。
「ご無事でなによりです」
「あの、おっさん様! 本当のお名前をお教え願えませんか?」
「本当の名前ねぇ……」
「あっ!? そうでしたわね……あなた様は魔法でお名前を……。
せっかく助けていただいたのに何てお呼びしたら宜しいのやら……」
苦笑いする俺にアリス姫は困惑したような顔を向ける。
どうしたもんかと俺は頭を悩ませたがこう言ってみた。
「では"パパ”でお願いします。勿論、様は不要で」
彩鈴は俺を呼ぶ時はそう呼ぶ。
だからもう二度と聞けないものだと思った俺はそう頼んでみた。
「で、では、パパ……」
すると、アリス姫は頬を赤く染め俺の願いを聞いてくれた。
これで俺は満足だ。
そう思った俺は瞳を閉じた。
ピピピッ。ピピピッ。ピピピ……。
そんな俺の耳に聞こえて来る聞き覚えのある音。
これは……俺のスマホのアラーム音?
俺が目を開けるとそこはいつもの俺のベットだった。
一点だけ、のの字のようにシーツが渦を巻いている。
何だ……やっぱり夢だったのか。
何だか朝からとても疲れた気になった俺は、はあと大きな溜息が出た。
やっぱ、おっさんになったのかもしれないな。
「パパーッ! おはよう!」
するとそこに元気よく制服姿の彩鈴が現れた。
ちなみにブレザーで黒髪の髪型は上の方で結んだポニーテール。
「あ、彩鈴!?」
あまりの驚きに俺の声は大きくなる。
「パパ! 早く起きてよ!」
「彩鈴……」
「ん? どうしたのパパ?」
彩鈴の態度の急変に俺は戸惑ったが、彩鈴も首を傾げた。
「そ、その、怒ってないのか?」
「何で私が怒んなきゃいけないの?」
苦笑する俺に彩鈴はパチクリと瞬きした。
「いや、怒ってないんならいいんだ」
「もうっ! 寝惚けてないで早くしてね?」
「はいはい」
それから彩鈴の先導で一階に俺は下りた。
するとそこにはいつもの朝食に加え豪勢なものがあった。
そう、ホールケーキだ。
大きさは4号サイズぐらいか?
白いホイップクリームの上には桃やみかん、
パイナップルといったカットフルーツが散りばめられ宝石のように輝いていた。
「おぉ……今日はえらい合成なものがあるな。どうしたんだ?」
俺がしげしげとそのケーキを見ていると、
「もうっ! パパったら! 今日はパパの誕生日でしょう?」
と、彩鈴からつっこまれた。
「あぁ……そう言えばそうだったな」
彩鈴につっこまれ思い出した俺は苦笑いした。
「ほらほらパパったら、彩鈴がせっかく作ったんだから早く食べてよ」
そして嫁さんからくすくす笑われた。
「えぇっ!? これ、彩鈴が作ったのか?」
「そーだよ。これ、作るの大変だったんだよ?
時間はかかるし、フルーツって結構お値段するし、
バイトで貯めたお金なんかすぐに消えちゃったんだよ……。
まあ、そこはママが協力してくれたんだけどねー?」
また大声を出した俺を見た彩鈴はにっこり笑って嫁さんを見た。
すると嫁さんもにっこり笑った。
何だ? 昨日の彩鈴の態度は何だったんだ?
あぁ、そうか! これのせいで変だったのか!
納得すると、俺の腹がぐぅーぅと豪快に鳴った。
「ちょっとパパったら!」
「悪い悪い! 彩鈴の作ったケーキが美味しそうだったものだから」
再度、彩鈴につっこまれた俺は思わず腹をさすった。
「……パパ、それ、おっさんっぽいからやめてね?
すると、瞬時に彩鈴の目が冷たいものとなった。
これはマズイ!
本当に嫌われてしまう!?
「わかったわかった! もうしないよ!」
慌てた俺がそう言うと、
「パパにはまだまだしっかり働いてもらわなくっちゃいけないんだから!」
そして私とママをいーぱい養ってくれなきゃ困るんだからね!」
と、彩鈴はにっこり笑って言った。
もう今年で一八歳ともなると何と頼もしいことを言うようになったものか。
しかし、全然悪くないものだな。
これもアリス姫のおかげかもしれない。
あの時にアリス姫が俺の願いを叶えてくれたから俺はここに戻れた気がする。
そう思えた俺はアリス姫に感謝して、彩鈴と嫁さんとで俺の四六歳の誕生日の朝を楽しんだ。
そして、あの世界のように上手くいかないだろうが、
この世界でちょっとだけ"おっさん”の領域に足を踏み入れた俺は今日も家族のためにがんばって働く!
まずはここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!
…いやね、何か「なろう異世界ファンタジーフェス! 2026」の任意のキーワードみてたら
思いついた作品ですわ。
本当は他の作品もあったのですがそれはチャレンジ企画の方で投稿しよっかな~となり、
けど7月にも投稿したくってふざけたものを一発!で投稿しました。
もうちょい"おっさん”っぽいのを書きたかったのですが今回はギリ"おっさん”にしてみました♪
…けど、この歳でそう言われたら悲しくなりそう(汗)
まっ、笑えてもらえたら幸いです!
それと8月も「なろう異世界ファンタジーフェス! 2026」に参加する作品を投稿します。
上記したやつですね。
そちらの方もどうぞよろしくお願いいたします! 紅pでした☆




