恋をさせたい自称恋愛上手のギャル
恋愛感情がわからず距離感がわからない少年と、自称恋愛上手だけどもしかしたら距離感を大切にしているのかもしれない後輩のギャルの話。
「いいなあ」
登校する新入生たちを眺めながら、僕は口にする。
昨日、入学式があった。この高校にも、新入生が入ってきたということだ。
やっぱり、『恋』をするのだろうか、この高校で。
告白したり、デートしたり。
うらやましい。
僕もしてみたい、とは、思うんだけど。
「あの子とか、特にしそうだよな」
ある女子が目につく。
入学したばかりなのに、下着が見えちゃうんじゃないかってくらいに短い丈のスカート。
地毛なのか、染めてるのか、髪は金色。
カバンにはキャラクターもののキーホルダーがたくさん付いている。
いかにも恋愛上手、てか、ギャルだ。ここの偏差値は低くない方だと思うけど、やっぱりどの高校にもギャルは存在するものなのか?
僕の学年(2年生)にはいないと思うけど。
「あっ、ハンカチ落とした。気付いてない」
「ちょっと待って」
「は?」
「ハンカチ、落としたよ。君のだよね?」
笑顔で、僕は新入生のギャルに言う。
所で、ギャルという言葉は死語だったりするのだろうか? まあ、今はそれはどうでもいいか。本当にどうでもいいや。
「あー、確かにアタシのっすね」
ほい、と女子は手を差し出す。
僕はそれに応えるように、女子にハンカチを渡そうとする。
そのとき、ついギャルの手に、僕の手が触れてしまう。
物を渡すのは意外と難しい。
まあ、握った訳じゃないし、セーフか、と考えていると、
「…!」
相手の顔は赤くなっていく。
「ど、どうもっ」
振り払うように手を離す。
「大丈夫?」
「な、何でもないですっ」
手をブンブンと振る。
普通の人だったら『もしかしてオレのことが好きなのか?』とか思ったりするのだろうか。
僕には、全くわからない。
謝るようにして、
「ああ、ゴメン。距離感が分からないから」
「距離感がわからない?」
不思議そうに聞いてくる。
僕はうなずいて、
「恋愛感情を1回も抱いたことがないんだ、僕。だから、距離感がわからなくて」
ははは、と僕は苦笑いする。
「恋愛感情がわからない?」
「うん。好きとか、よくわからない」
「…マジ?」
「やっぱり、珍しいのかな。
本当は、恋愛してみたいんだけどね」
アロマンテイック、というらしい。
恋愛感情がわからない。誰かに恋をすることがない。
「高校生だからさ、一応。恋したいよね。
って、何を聞かせちゃってるんだろ、ゴメン」
頭をかく。
『恋愛をしてみたい』と、小さい頃から思っていた。
誰かを好きになってみたい、愛してみたい。
校庭で告白する同級生や、花火大会でデートをするカップルを見ていると、『うらやましい』と心から思っていた。
僕は今、高2。
このまま誰かに恋をすることなく死ぬんじゃないのだろうか、最近そう考え不安になる。
「恋愛をしたことがない。
ふーん」
「?」
アゴに手を当て、ギャルは何かを考えている。
「よしっ」
何かを決め、笑顔でうなずく。
「アタシがさせてあげますよ、恋」
「鈍感な先輩に恋をさせる。
楽しそう。
恋愛上手のアタシが、メロメロにさせてあげます」
やっぱり、恋愛上手らしい。
まあ、スカートは短いし、髪も染めてるし(地毛かもしれないけど)、そうじゃないかとは思っていたけど。ギャルだしそうじゃないかとは思っていたんだけど。
「恋愛が…できる…」
「そ。
アタシ、彼氏いなかった時期って、入学したばかりの今しかないんですよね。
メロメロにさせて、先輩の春も到来、名案じゃないです?」
ニヤニヤ、と。
僕は笑顔で相手の手を握り、
「ありがとう! 本当に嬉しいよ!」
恋愛上手のギャルは顔を真っ赤にし、手を振りほどくと、
「だから…距離…!」
と言い走って去っていった。
…。
僕の距離が近すぎるだけなのか、恋愛上手のあの子が実は『距離感を大切にしている子』なのか、疑問だ。
まあ、いいか。
続かん。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




