第10章 真実の裁き
フィオレンツァの空は、まるで私の心を映すように澄み渡っていた。
中央広場での大規模な祈りの儀式から数日が過ぎ、民の心は一つになり、ルチアーノ・モレッティの魔女の噂は霧のように消え去った。
だが、彼の執念は、新たな嵐を呼び寄せていた。
隣国の貴族クラウディオ・ヴァレンティーニと結託し、貴族評議会で私を「国家の脅威」と糾弾する裁判を企てている。
彼らの書簡が、ヴィットリオの家臣によって露呈した今、私はその試練に立ち向かう準備を整えていた。
胸に宿る聖女の光が、囁く。
「フランチェスカ、汝の真実は、闇を貫く。」
私は、フランチェスカ・ディ・ロッシ。
聖女として、ルチアーノの陰謀を打ち破り、フィオレンツァの未来を守る。
その決意を胸に、私は新たな戦場へと踏み出した。
朝、礼拝堂でソフィアと向き合った。
彼女の白い髪は、朝の光に輝き、まるで聖女アンナの使者のようだ。
「フランチェスカ、ルチアーノとクラウディオの裁判は、フィオレンツァの運命を左右する。
彼らは、貴族の恐れを利用し、お前を追放しようとするだろう。」
彼女の声は、静かだが、鋭い。
私は、護符を握りしめ、こう尋ねた。
「ソフィア、彼らの嘘を、どうやって暴けばいい?
民の支持は強いけど、貴族の心は揺れている。」
彼女は、古い書物を手に、穏やかに微笑んだ。
「聖女の力には、真実を明らかにする光がある。
お前の心が純粋なら、その光は偽りを焼き尽くす。
今夜、力を強化する儀式を行おう。」
彼女の言葉に、私の胸が高鳴った。
「はい、ソフィア。
私は、聖女として、真実を示すわ。」
私の声に、彼女の目が力強く輝いた。
その夜、礼拝堂での儀式は、神秘に満ちていた。
ソフィアが、古代の祈りを唱え、水晶の祭壇が眩い光を放つ。
私は、祭壇の前に立ち、目を閉じた。
胸の光が、まるで星の輝きのように広がり、頭の中にビジョンが流れ込む。
ルチアーノとクラウディオが、偽の書類を準備し、貴族たちを扇動する姿。
だが、クラウディオの側近が、書類のコピーをヴィットリオに渡す瞬間。
ビジョンが途切れ、私は息を切らして目を開けた。
「ソフィア、彼らは偽の書類で私を陥れるつもり!
でも、クラウディオの側近が裏切った!」
私の声に、ソフィアが頷く。
「フランチェスカ、予見の力は、試練を乗り越える鍵だ。
裁判で、真実の光を使いなさい。」
彼女の言葉が、私に勇気をくれた。
裁判の日、貴族評議会のホールは、緊張に包まれていた。
私は、淡い金のドレスをまとい、護符を胸に、堂々と入場した。
貴族たちの視線が、私に突き刺さる。
ルチアーノは、黒い礼装に身を包み、クラウディオと共に冷たい微笑みを浮かべていた。
ヴィットリオが、私の弁護人として隣に立つ。
彼の緑の瞳が、力強く私を支える。
「フランチェスカ様、貴女の光は、必ず勝つ。
私が、貴女を守ります。」
彼の言葉に、私は微笑んだ。
「ヴィットリオ公爵、貴方の支えが、私の力よ。
共に、真実を示しましょう。」
私の声に、彼の瞳が温かく輝いた。
評議会の長、アルフォンソ・ベネデッティ公爵が、厳かに裁判の開始を宣言した。
ルチアーノが立ち上がり、会場に響く声で訴えた。
「フランチェスカ・ディ・ロッシは、聖女を装い、民を扇動し、フィオレンツァを混乱に陥れる魔女だ!
隣国のヴァレンティーニ家も、彼女の脅威を認めている!」
彼が、偽の書類を掲げる。
クラウディオが、頷きながら続ける。
「彼女の力は、魔術の産物だ。
国家の安全のため、追放を求める!」
貴族たちが、ざわめく。
ヴィットリオが、冷静に立ち上がった。
「ルチアーノ侯爵、クラウディオ殿、貴殿らの書類は偽物だ。
ここに、クラウディオの側近が提供した証拠がある。」
彼が、書類の原本とコピーを掲げる。
貴族たちが、息を呑む。
ルチアーノの顔が、青ざめる。
「そんな……あり得ない!」
彼の声が、震えていた。
私は、護符を握りしめ、立ち上がった。
「評議会の皆様、聖女の力で、真実を示します。
この書類に、偽りの痕跡があるか、確かめてください。」
私の声に、会場が静まり返った。
私は、書類に手を当て、目を閉じた。
胸の光が、護符を通じて増幅され、眩い輝きを放つ。
光が、書類を包み、偽造のインクが黒く滲み出す。
貴族たちが、驚嘆の声を上げる。
「これは……偽物だ!」「聖女の力だ!」
アルフォンソ公爵が、厳かに言った。
「フランチェスカ・ディ・ロッシの力は、聖なるものと認められる。
ルチアーノ・モレッティ、クラウディオ・ヴァレンティーニ、貴殿らの訴えは退けられ、偽証の罪を問う。」
その言葉に、ルチアーノが膝をついた。
クラウディオが、怒りに顔を歪め、彼を睨む。
「ルチアーノ、貴様のせいで……!」
彼らの同盟が、崩れ去る瞬間だった。
私は、ルチアーノを見つめ、静かに言った。
「ルチアーノ様、貴方の闇は、貴方自身を滅ぼした。
もう、民を傷つけないで。」
私の言葉に、彼の瞳に憎しみが燃える。
だが、その背後には、深い孤立の影があった。
裁判所の外では、民の歓声が響いていた。
「聖女フランチェスカ!」「フィオレンツァの光!」
彼らの声が、私の心を温めた。
ヴィットリオが、私の手を取り、微笑んだ。
「フランチェスカ様、貴女の勝利は、フィオレンツァの歴史に刻まれる。
貴女の光に、心から敬意を表します。」
彼の言葉に、私の胸が甘く締め付けられた。
「ヴィットリオ公爵、貴方の支えが、私をここまで導いたわ。
ありがとう。」
私の微笑みに、彼の手が私の手をそっと握る。
その温かさに、私の心が揺れた。
その夜、屋敷に戻った私は、両親に抱きしめられた。
父が、誇らしげに言った。
「フランチェスカ、貴族評議会は、お前の力を認めた。
ディ・ロッシ家の名は、フィオレンツァに輝く。」
母が、涙を浮かべながら頷く。
「私の娘、聖女として、どこまで高く飛ぶの?」
彼らの言葉に、私は笑顔で答えた。
「父上、母上、フィオレンツァを、もっと幸せな国にするわ。
これからが、本当の始まりよ。」
月を見上げながら、私はヴィットリオの緑の瞳を思い出した。
彼の温かさが、私の心に新たな光を灯す。
ルチアーノの敗北は、彼の終わりではない。
彼の執念は、なお潜んでいる。
だが、私は恐れない。
聖女として、民を、愛を、フィオレンツァを守る。
私は、フランチェスカ・ディ・ロッシ。
その戦いは、なお続くのだ。




