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第6話 薬草採取と3人の女冒険者

「まったく。ギルドの受付嬢にあるまじき態度だ!」

 ギルドの重い扉を押し開けて外に出た後も、隣のシオンはプリプリと文句を言っていた。


(……確かに、気をつけないと)

 たったの二パーセントで、イルダさんのあの態度だ。

 女性への対応は細心の注意が必要だと、改めて痛感した。


 そんなことを思いながら、ふと顔を上げると――目の前の大通りを、たくさんの兵士に守られた数台の馬車がちょうど通過していくところだった。

 沿道には馬車を一目見ようと多くの民衆が集まり、歓声を上げている。

 だが、その歓声に混じって、怒声のようなものも聞こえてきた。

 よく見ると、沿道の一部に『スキルによる差別をなくせ!』『不平等な女神への信仰をやめろ!』と書かれた木の板を掲げている集団がいる。

 彼らは厳重に武装した兵士たちに阻まれ、馬車に近づくことはできていなかったが、異様な熱気を放っていた。


 目の前を通過する、白を基調とした一際豪華な馬車。

 その窓のカーテンが少しだけ開き……中からこちらを覗いていた黒髪の女性と、バチリと目が合った――気がした。

(気のせいかな? すぐにカーテン閉じたみたいだったし)

 チラリと見えただけだが、とても綺麗な女性だった。

 まるで、こちらが魅了されたかのように、少しだけ鼓動が早くなる。

 僕は、そんな自分を誤魔化すように小さく頭を振った。


「シオン、この行列はなんですか? それに、あそこで騒いでいる人たちは……」

 孤児院育ちであまり世間の知識がない僕は、隣の天才魔導士に尋ねた。

「ああ、あれは聖女の馬車だね。今日この街の大聖堂で慰問行事でもあるんだろう。きっとそこへ向かっているんじゃあないかな? さすがに今日来たばかりで、街の予定までは分からないが」

 シオンはプラカードを掲げている集団にチラリと視線をやり、小さくため息をついた。

「あっちで騒いでいるのは、反教会、反女神を掲げる過激派組織の連中だろうね」

「反女神の組織……? そんな人たちがいるんですか?」

「ああ。この世界では、十二歳の『鏡の審判』で授かったスキルで人生のほとんどが決まってしまう。強力なスキルを得た者は優遇され、そうでない者は冷遇される。彼らはそうした『スキルによる差別』の撤廃を訴えているんだ」

 シオンは少しだけ険しい顔になった。

「彼らの言い分も分からないでもないが、過激な連中でね。『鏡の中に目』を描いた不気味なシンボルを掲げて、最近あちこちで騒ぎを起こしているらしい」

(鏡の中に目、か……)

 なんだか、物騒な話ではあるが、僕には関係なさそうだ。


 それよりも!

 あの馬車にはなんと、聖女様が乗っているらしい。

 噂に聞くと、弱者を救済し各地で奇跡を起こす、まさに選ばれし者であり、誰もが敬う高潔な存在。

 さっき目にしたのが、聖女様かもしれない。

(一瞬だったけどすごく綺麗な人だった……。でもきっと、僕たちとは住む世界が違うんだろうな……)

 ぼんやりとそんな事を考えていると、シオンが怪訝そうな顔で覗き込んできた。

「なんだい。まさか君は、あの聖女まで魅了しちゃおうとか、思っているんじゃあないだろうね?」

「ち、違うよ。僕はただ、純粋になんの騒ぎなのかなと思って」

「それなら、いいんだけど……。そんなことより、さっそく平原へ薬草を採りに行くよ! 残念なことにボクたちは、今晩の宿にもありつけない見事な無一文なんだからね!」

 シオンはそう言って、ズンズンと街の出口へ向かって歩き出す。

 僕たち二人はそのまま街を出て、スタッテの街の近郊にある平原へとやってきたのだった。


 ◇


「……ルカくん。これ、どれが目的の薬草かわかるかい?」

「い、いえ。全くわかりません」

「なるほど」

「シオン、どれが目的の『ウルトラ草』です?」

 僕は這いつくばりながら、いろんな草をかき分ける。

「ルカくん、ボクはね、賢者候補と言われている逸材だ」

「はい、知っています」

「ボクは魔法学には詳しいが、薬学には疎くてね。なんとかなるだろうと思っていたのだが、実際に平原へ来てみると、ボクには全部同じ、ただの雑草に見えてしまっている」

「……それって、つまり?」

「目的の草が全くわからないということだよ、ルカくん」

 シオンはそう言って、なぜか偉そうに腕を組んでみせた。

「ええええ!? じゃあ、どうやって目的の薬草を探すんですか?」

「片っ端から全部引っこ抜いて、持ち帰るしかないだろうね」

 思わず僕は、言葉を無くし天を仰いだ。

 シオンのポンコツ具合は今に始まった事ではないが、クエスト開始早々、僕たちは深刻な問題に直面していた。


 ◇


 二人して平原に這いつくばって草をかき分けていたが、一時間経っても一本の薬草も見つけられずにいた。

 目的の薬草がどれかわからないのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、このまま、夜を迎えるんじゃないか?という、絶望的なシナリオが頭をよぎる。

 無一文な僕たちにとって、このクエストは単なる薬草採取ではないのだ。


「あら? そこの坊やたち、どうしたの? 迷子かしら」

 途方に暮れていた僕たちに声をかけてきたのは、通りすがりの三人組だった。

 大剣を背負った戦士、ローブを着た僧侶、そして軽装の弓使い。

 全員が、身なりの整った冒険者のお姉さんたちだ。

「あっ、すみません。僕たち、今日から冒険者になったばかりで、薬草の見分け方が分からなくて……」

 僕が立ち上がり、ペコリと頭を下げて彼女たちを見た、その時だった。

 戦士の女性と――バチリと目が合った。

「……っ!!」

「あの……?」

「な、なんて、可愛いメガネ男子なの……っ!?」

 戦士の女性の顔が、瞬時にバラのように真っ赤に染まった。

 それだけではない。

 隣にいた僧侶と弓使いの女性も、僕の顔を見た瞬間に息を呑み、熱っぽい瞳で身をよじり始めたのだ。

「ちょっとアデラ、抜け駆けはずるいよ! 名前はなんて言うの? お姉さんは僧侶のニナよ!」

「私は弓使いのカンナ! ねえ、初心者なんでしょ? 私が手取り足取り教えてあ・げ・る!」

 冒険者のお姉さんたちが、僕を熱い視線で囲んだ。

「ちょっと待ったああ! なんなんだね、君たちは! いきなりボクのルカくんに馴れ馴れしくしないでほしいのだが!?」

 たまらず、シオンが顔を真っ赤にして、僕と冒険者のお姉さんたちの間に割って入ってきた。

「何? このおチビちゃんは?」

 アデラと呼ばれた戦士のお姉さんが、シオンを見下ろして鼻で笑う。

「お、おチビ……っ!? ボクはこれでも、うら若き二十二歳のレディだぞ!!」

「ちょ、ちょっと!シオンもやめてください! 今はプライドより薬草のことを聞かないと。僕たち無一文なんですよ!?」

 チビと言われ、今にも魔法をぶっ放しそうな勢いで興奮しているシオンを、僕は必死になだめながら、冒険者のお姉さんたちに改めて自己紹介をして、今の状況を話した。


「「「なるほど、状況はわかったわ。お姉さんたちに任せて!」」」

 冒険者のお姉さんたちは綺麗に声を合わせてそう言うと、全員で一斉に草をかき分け始めた。

 そして、プロの手つきで草の根元を軽く捻るようにしてちぎると、次々と目当ての葉っぱをカゴに入れ始めたのだ。

「え? ちょっと、一体何を……」

 僕は目の前の状況が理解できず、思わず声を上げた。

「いいの、いいの! ルカくんの困った顔を見ていたら、なんだか無性に手伝ってあげたくなっちゃったの!」

「もっと欲しかったら、私たちが平原中の薬草を根こそぎ狩り尽くしてきてあげるからね!」

「ルカくんのためだったら、お姉さんたち頑張っちゃう!」

 女冒険者の三人はそう言って、自分たちのカゴに薬草をドンドン投げ入れていく。

 時折、こちらにチラチラと熱い視線を送りながらも、あっという間にカゴいっぱいの薬草を集めてくれたのだった。


 最初は「……チッ。またメス猫どもが湧いてきやがった……」と毒づいていたシオンだったが、勝手に集まっていく大量の薬草を目の当たりにすると、「……まあ、あいつらが勝手に集めてくれると言うなら、好きにさせてやろう」と、あっさり態度を翻し、草原にドカッと腰を下ろしてのんびりと空を眺め始めた。


(本当にいいのかな、こんな感じで……)

 結局、僕たちはその後、指一本動かすことなく、冒険者のお姉さんたちの過剰な奉仕によって、最初の薬草採取クエストは完了したのだった。

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