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第4話 四年間の特訓と、認識阻害の魔導具

 大聖堂での呪いの発現から、どれくらいの月日が流れただろうか。

 僕は相変わらず、町外れにあるシオンの研究室で目隠し生活を送っていた。


「ルカくん、今日の『耐性実験』を始めるよ! さあ、お盆を持って!」

「ええっ、またですか!? 昨日もシオン、開始二秒で気絶しましたよね!?」

「昨日のボクと今日のボクは違う! このお盆には、最高位の『状態異常回復ディスペル』の魔法陣をびっしり刻み込んでおいた! これで物理と魔法の両面から、ボクの理性を完璧に叩き起こす算段だ。さあ、遠慮なく布を外したまえ!」

 僕はため息をつきながら、目隠しをずらした。

 視界が開けた瞬間、シオンは「ああっ……今日も可愛い……ちゅき!」と、よだれを垂らしながら迫ってきて、僕は泣く泣くお盆をフルスイングする。

 ガァンッ!という金属音が響き、シオンが床に沈む。

 これが、僕たちの日常になりつつあった。


 ただ、そんなドタバタな日々の中で、僕の身体に信じられない変化が起きていた。

 シオンの指導のもと、呪いに抗うための精神力を鍛え、魔法や体術の基礎訓練を行っていたのだが――。


「ルカくん……君、もうその基礎魔法を使えるようになったのかい?」

 頭にたんこぶを作ったシオンが、驚愕の声を上げた。

 僕自身も驚いていた。

 孤児院にいた頃は何の才能もなかったはずなのに、スポンジが水を吸うように知識や技術が身についていくのだ。

 暗闇の中で生きていた僕にとって、自分の成長だけが唯一の希望だった。

 僕は必死に修行に打ち込んだ。

 それと、大きな変化がもう一つ。

 シオンとのこの生活を楽しいなって、感じられる余裕が生まれたこと。

 人との付き合い方が下手だった僕が、少しずつだけど確実に変わっている。

 見た目は僕と変わらないのに、ちゃんと大人なところ。しっかりしているようで、ポンコツなところ。

 シオンが僕に良くしてくれているのは、魅了の力のせいだと分かっている。

 それでも僕は、この関係がずっと続けばいいのに、なんて考えてしまっていた。


 ◆SIDE:シオン


「……ありえない。なんだい、この異常な成長速度は」

 ボクはルカくんの魔力数値を測定しながら、一人ごちた。

 この数ヶ月の彼の成長は、常軌を逸している。

 ルカくんの『女神の寵愛』……これはただの魅了の呪いじゃない。隠れ効果として、経験値の獲得量が異常に跳ね上がっているんだ。

 おそらく、あの理不尽な女神は、「世界中から命懸けで愛される(狙われる)のだから、自衛くらいはできるように」とでもいうふざけた気まぐれで、このチート級の成長速度を与えたのだろう。

 だが、これは好都合だ。

 このまま鍛錬を積んで精神力と魔力を高めれば、彼自身の力で、ある程度呪いを内側に抑え込めるようになるはずだ。

(彼がこれだけ必死に頑張っているんだ。ボクも負けてはいられない!)

 ルカくんが修行に打ち込んでいる間、ボクは寝食を忘れて、彼の呪いを物理的にカットするための『魔導具』の開発に没頭した。

 レンズの素材、魔法陣の刻印、視線の波長をずらす認識阻害の術式。

 天才であるこのボクの頭脳をフル回転させて、絶対に彼を外の世界へ出してあげるんだ!


「ルカくん! ついに完成したぞ! 呪いの波長を遮断する『認識阻害メガネ』のプロトタイプ第一号だ!」

 徹夜明けの充血した目で、ボクは高らかにメガネを掲げた。

「ほ、本当ですか!? これでもう、目隠しを外しても……」

「ああ!ボクの完璧な計算上、魅了の力を完全にカットできるはずだ。さあ、かけてみてくれ!」

 ルカくんがおずおずと目隠しを外し、ボクが徹夜で組み上げた銀縁のメガネをかける。

 レンズの奥で、彼の不安げな黒い瞳が瞬いた。

「どうだい?視界は良好か?」

「はい!すごくクリアに見えます。シオンの目の下のクマもばっちり……」

「よし、それなら問題ない! さあ、ボクの目を見るんだ! 今回は対精神結界をあえて解除している。このメガネ単体の力を証明してみせるぞ!」

 ボクは胸を張り、ルカくんの視線を真正面から受け止めた。


 ふふん、全く問題ない。やはりボクの頭脳は天――。

 ドクンッ!

「……ああっ!インテリな雰囲気のルカくんも最高にえっちだね……っ! その知的な眼鏡越しにボクを蔑んでぇぇっ!!」

「シ、シオン!? メガネかける前より興奮してませんか!?」

「いいから! そのメガネごとボクを押し倒し――」

 ガァンッ!!

「あだっ!?」

 ボクの頭に金属製のお盆がクリーンヒットした。

「……くっ、計算ミスだ。レンズの屈折率と、君の『メガネ男子属性』による魅力の加算値を考慮していなかった……」

「僕のせいなんですか!?」

 床に突っ伏しながら、ボクは頭のたんこぶを押さえ、開発の継続を誓った。

 この呪い、ボクが思っていたより数万倍は厄介だぞ……!


 ◇SIDE:ルカ


 季節が何度も巡った。

 僕は暗闇の中で魔法を覚え、剣を覚え、何度もシオンをお盆で殴った。

 何十回、何百回。

 シオンがバカになっちゃうんじゃないかと思うぐらい、何度も。


 僕が十六歳になった、ある日のこと。

「できた……! ついに完成したぞ、ルカくん!」

 バタンと勢いよく扉が開く音と共に、シオンの足音が近づいてきた。

 目隠しをしている僕には姿は見えないが、その弾んだ声と荒い息遣いから、彼女の興奮が伝わってくる。

「『認識阻害メガネ』だ。四年間の特訓で、ルカくん自身の精神力による制御で七割。そして、このメガネで残りを抑え込む。合わせれば理論上、女神の魅了を九十八パーセントはカットできるはずだ」

「九十八パーセント……。じゃあ、僕はもう……」

「少し、じっとしていてくれ」

 僕の視界を塞いでいた布が、スッと解きほどかれた。

 まぶたを閉じたままの僕の顔に、彼女の手から、冷たい金属の感触を持つ何かが装着される。

「……さあ、目を開けてボクを見てごらん」

 僕は恐る恐る目を開け、光に目を慣らした。

 分厚いレンズ越しに見えたのは、徹夜明けでボサボサの緑髪を揺らして得意げに笑う、四年前とあまり変わらないシオンの顔だった。

 普段はあまりじっくり見ることができないシオンの顔を、まじまじと観察する。

 少女のままのつぶらな瞳が、寝不足で充血していた。

 唇はカサカサに乾燥し、少し痩せたようにも見える。

(……僕のために)

 胸の奥がカッと、熱くなった。


 少し見下ろすように視線が合わさる。

 こうしてみると、シオンも少しは成長していたが、いつの間にか、僕の方が彼女を見下ろすくらいに、背が高くなっていた。


 ……数秒待っても、シオンはよだれを垂らさないし、僕を押し倒そうともしなかった。

 手元に用意していたお盆の出番もない。

「シオン……! すごいです、シオンが僕を見て、普通に笑ってます!」

「言い方にトゲがある気がするけど……ああ。成功だね、ルカくん」

 シオンはフイッと視線をそらした。

 その顔は、耳まで真っ赤に染まっている。

「あ、あの、シオン? やっぱり顔が赤いですけど、魅了が漏れてますか……!?」

「ち、違う! これは残りの二パーセントのせいだ! 決して、十六歳になって背が伸びてカッコよくなった君の素顔をまともに見て、純粋にドキドキしているわけじゃないからね!」

「……?」

「なんでもない! とにかく、これで外を歩けるようになった。ただし、絶対にメガネを外してはいけないよ。ずれたり外れたりしたら最後、世界が滅ぶからね」

 シオンは照れ隠しのように早口でまくし立てた。


 僕は自分の顔にかかった分厚いメガネに触れ、四年ぶりに自分から彼女の手を握った。

「ありがとうございます、シオン。これなら僕、旅に出られます。あの理不尽な呪いを与えた女神を探し出して、元に戻す方法を見つけるために」

「……ああ。最初の目的地は魔導都市にある『魔法図書館』だ。まずはそこで、女神の呪いを解くための文献を探そう」

 こうして、四年にわたる隠れ家での研究と特訓の日々は終わりを告げた。

 僕はメガネを深くかけ直し、シオンと共に隠れ家を出発する。


 ――そして数日の旅路の末、街道を抜けた僕たちの目に、最初の拠点となるスタッテの街並みが見えてきたのだった。

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