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第14話 聖女来訪、そして旅立ち

 あれから数日。僕たちは、また平原で毎日薬草を摘む日々に戻っていた。

 相変わらず、冒険者のお姉さんたちが僕の『二パーセントの漏れ』にあてられ、勝手に平原中の薬草を刈り取っていくのを、シオンがギリギリと歯ぎしりしながら見守るという図式だ。

 その間、聖女様たちからの連絡はなく、あの恐ろしい暗殺未遂事件がまるで夢だったかのような気さえしていた。


 そんなある日の朝。

「ルカくん、大変だよー!」

 宿屋の娘ビビが、血相を変えて僕の部屋に駆け込んできた。

「どうしたんです? そんなに息を切らして」

「せ、聖女様が! 聖女様がルカくんに会いに来たって!」

 ビビさんが、信じられないといった表情で叫んだ。

「……え? 聖女様が?」

 わざわざ、聖女様が宿まで足を運んでくれるなんて、一体何があったのだろうか?

(……もしかして、シエラさんの処分が決まったのかな?)

 聖女様に剣を向けたのだ。下手すると、死刑だってあり得るくらいの重罪だ。

 僕の胸に嫌な予感が走り、心臓がドクンと嫌な音を立てた。


 その時だった。

「ルカ殿!」

 力強く、凛とした声が聞こえた。青い髪の女騎士――シエラさんだ。今日は白銀の鎧ではなく、皮の鎧に身を包んでいる。

 いつもと違うタイトなシルエット。僕は目線のやり場に困り、少しだけ目を逸らした。

「え? なんでシエラさんがここに? 謹慎中なのでは?」

 僕は、シエラさんの無事を喜びながらも、驚いて声を上げた。

「ええ、今も謹慎中です。詳しい話は聖女様から――」

 シエラさんがソウ言うと、僕とバチリと目を合う。

 途端に、シエラさんの凛々しかった顔が一瞬で真っ赤に染まった。

「……っ。ああっ、今日もルカ殿は尊く、愛おしい……! 」

 僕は、今にも襲いかかってくるのはないかと警戒したが、シエラはそのまま、モジモジと内股になりながら一歩下がった。

「ルカ様、お久しぶりですわ」

 シエラさんと入れ替わるように、艶やかな黒髪を揺らしながら、聖女様が顔を見せた。

 聖女様は「少し席を外してくださる?」と神々しい笑顔でビビを人払いさせると、僕に向かって優しく微笑む。

「ルカ様のお部屋で、お話しさせてもらってもよろしいですか?」

「え、ええ、もちろんです」

 僕は慌てて、聖女様とシエラさんを部屋に招き入れた。


 いくらビビさんが一番いい部屋をあてがってくれているとはいえ、流石に聖女様を迎えるには狭くて申し訳ない安宿の一室だ。

「この部屋に、ルカ様が泊まっていらっしゃるのですね」

 聖女様はそんなことは全く気にしない様子で部屋の中をぐるりと見渡し、すーっと深く息を吸い込んだ。

(……気のせいか、今、聖女様が僕の部屋の空気を味わうように深呼吸したような……?)

 そんな僕の困惑をよそに、聖女様はゆっくりとソファに腰を下ろした。


「まずはこちらを」

 聖女様はそう言って、テーブルの上にドンっと重そうな皮袋を置いた。

 チャリン、と硬貨がぶつかる鈍い音が響く。

「こちら、この間の個人的な依頼の追加報酬になります」

「えっ? 報酬なら、ちゃんとギルドを通して頂きましたよ?」

「ふふ。あの恐ろしい事件に巻き込んでしまった、迷惑料だとでも思ってください」

 聖女様が袋の紐を解くと、僕は中身を見て腰を抜かしそうになった。

「こ、こんな大金、受け取れません!」

 袋の中身は、目を疑うほど大量の輝く『金貨』だったのだ。僕たちが一生かかっても稼げるかどうかわからないほどの額だ。


「ルカくん! 大丈夫かい!? 外に聖女くんの馬車が止まっていると聞いたんだが!」

 バンッ! と勢いよく扉を開けて、シオンがものすごい形相で飛び込んできた。

 そして、無事な僕の姿を見つけると安堵するように小さく息を吐き――直後、テーブルの上の大量の金貨を見て、パチクリと目を瞬かせた。

「な、なんだいその金貨の山は……っ!?」

「シオン! 聖女様が迷惑料だって……」

「聖女くん。ギルドに連絡をくれと言ったはずだが?」

 シオンは金貨から強引に目を逸らすと、僕を背中に庇うように前に立ち、キッと聖女様を睨みつけた。

「金に物を言わせて、押しかけ女房みたいなことをされては困るな。ボクのルカくんは、お金なんかじゃ買えないんだからね!」

「ルカ様をお金で買うなんてとんでもないことです。 これは迷惑料と口止め料。それと——」

 そこまでいうと、聖女様は視線をシエラさんに向けた。

「シエラの面倒を見てもらうための、資金とでも思ってください」

 そう言って、聖女様はイタズラな笑みを浮かべた。

「……え? 面倒?」

 僕は、聖女様の言っている意味が分からず思わず聞き返した。

「ええ。ルカ様に謹慎中のシエラの面倒をみていただきたいのです。これからの旅は長い道のりになるでしょう。これ以上ルカ様に悪い虫がつかないよう……いえ、ルカ様をしっかりとお護りできるようシエラを護衛として付けさせていただきます」

「「えええええええっ!?」」

 僕とシオンの絶叫が、宿屋中に聞こえるほどの音量で響き渡る

「聖女くん。ちょっと、待ちたまえ! なんで勝手にそんな話になるんだい? ルカくんの護衛というのであれば、ボクひとりで十分に足りているのだが?」

 シオンが目を吊り上げ、まるで赤いゴブリンのような形相をみせた。

「ルカ様の女神の寵愛の力によってシエラは、今やルカ様のことしか考えられなくなっております。はっきり言って使い物になりません。ルカ様に責任をとっていただくのが良いと判断しました」

「ルカ殿……。このシエラ、一命を賭してお守りいたします。何卒、末席にお加えくださいませ」

「シエラさん……」

 僕はどうして良いものか言葉を詰まらせた。

 シエラさんを狂わせたのは、僕の責任だ。

 僕の両肩が、急に重くなった気がした。

「……ルカ殿。『さん』づけは不要です。シエラとお呼びください。私は貴方のものなのですから」

「ちょっと待ったぁ! なにさらっと、ルカくんの呼び捨てをゲットしようとしてるんだい!」

 シオンが会話に割って入る。

 是が非でも、阻止しようと強い意志を感じさせる表情だった。

 それを見た聖女様が、少しだけ口角を上げ意地悪そうに微笑み、追い討ちをかけるように続ける。

「ルカ様。この際ですので、わたくしのこともフェリシアとお呼びくださいませ。いえ、是非呼んでいただきたいですわ」

「ぐぬぬ……あああぁぁぁああっ!!」

 シオンの言葉にならない奇声が、再度、宿屋中に聞こえるほどの音量で響き渡った。


 ◇


 そのあと、暴れるシオンを尻目に、僕はシエラを呼び捨てにした。

 なんだか、恥ずかしくむず痒かったが、そこは慣れだと思い諦めることにした。

 シエラはシオンの時と違い、呼び捨てで暴走することはなかったが、熟した果実のように頬を赤くし、目を潤ませていた。


 その後は、半ば強制的に、聖女様にも「フェリシアとお呼び下さい」と迫られた。

 だが、流石に聖女様を呼び捨てにはできず、「フェリシア様」とお呼びすることでなんとか許してもらったのだった。

 それでも、僕に名前を呼ばれた聖女様は、シオンの時と同じように暴走して僕に迫ってきたので、シオンの特製ハリセンの餌食となった。

 聖女という存在に対しても、一切の容赦がないシオンのハリセン捌きに、僕はある種の尊敬すら覚えたのだった。


 そんな訳で、なし崩し的にシエラが一行に加わることになったのだが、聖女様的には何やら考えがあるようだった。

 シエラの洗脳が解かれたことを『フォルス・アイ』に知られぬようにしたいという思惑だ。

(暗殺が失敗した事実だけを明かし、こちらの細かい手の内は隠す、ということらしい)


「ルカ様、シエラのことよろしくお願いします」

 フェリシア様はそう言うと、一人で部屋を後にして、外で待っていたお付きの者たちと共に豪華な馬車に乗り、大聖堂へと帰って行ったのだった。

 というと、さらっとしていうように見えるが、実際はかなり帰るのを嫌がり、ごねにごね、お付きの方に半ば強制的に回収されていったのだった。


 聖女様の計らいで、魔導都市までの馬車も用意してもらえることになり、僕たちの旅はようやくスタートできる体制が整った。


「……さて。ルカくん。思わぬ形でメス猫が一匹……いや、護衛が増えてしまったが、資金と足が手に入ったのは好都合だ。とっととこんな街とはおさらばするよ!」

 シオンはテーブルの上の金貨が入った袋をアイテム袋に突っ込むと、ビシッと街の出口の方角を指差した。

「そうですね。僕たちの目的は、魔導都市にある『魔法図書館』ですから」

 僕は力強く、大きく頷く。

「ルカ殿、私が魔導都市までしっかりとお守りいたします!」

 シエラが、凛とした声でドンっと胸を叩いた。


 ◇


「ルカくーん! 気をつけてねー!」

「また一緒にダンジョン行きましょうね!」

「いつでもうちの宿屋に泊まりに来てね!」


 街の入り口。出発しようとする馬車の前には、ギルドの受付嬢のイルダさん、冒険者三人組のアデラさんたち、そして宿屋の娘のビビさんが、涙ぐみながら僕を見送りに来てくれていた。


(……たった数日滞在しただけなのに、なんだかものすごく大袈裟な見送りだな)

「みんな、ありがとう! 行ってきます!」

 僕が馬車の窓から大きく手を振り返すと、見送りの女性陣から「きゃあああっ!」という黄色い悲鳴が上がる。

「フンッ。どいつもこいつも、ボクのルカくんに馴れ馴れしく手を振りおって……」

 シオンが窓の外を睨みつけながら、ギリギリと歯ぎしりをした。

「ルカ殿、馬車が揺れるので私にしっかりしがみついていてくださいね! いや、むしろ私がルカ殿を抱きしめてお守りいたします!」

 向かいの席に座ったシエラが、顔を真っ赤にしながら身を乗り出して僕に抱きつこうとしてくる……。

 呼び捨てを許可してからのシエラの過保護ぶりは、目に余るものがあった。


 パァァァンッ!!

「痛ぁっ!?」

「気安く触るな筋肉女!」

 すかさずアイテム袋から取り出した特製ハリセンで、シオンがシエラの頭を容赦なく引っ叩いた。

「ぐぬぬ……覚えていろよ、おチビ……」

「何度でも返り討ちにしてやるさ!」

 動き出した馬車の中でも喧嘩を始める二人に、僕は思わず苦笑いをこぼした。


『女神の寵愛』――。

 この、呪いのようなスキルを解除するため、女神の神殿を目指す旅が始まる。

 まずは、魔導都市の魔法図書館へ。

 スタッテの街では暗殺未遂など色々なトラブルに巻き込まれたが、頼もしい(?)ポンコツ魔導士と、熱烈な護衛騎士という賑やかなパーティーになった。


 小さくなっていく街の景色を、分厚い認識阻害メガネのレンズ越しに見つめる。

 僕たちの前途多難な旅が、いよいよ本格的に幕を開けたのだった。


 —— 第1章 完 ——

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


本作は、この「スタッテの街編」をもって、第一章・完結となります。

孤児だったルカが、シオンやシエラという大切な仲間と出会い、一歩を踏み出す……。彼らの門出を無事に見届けられて、作者としても感無量です。


まずはキリの良いここで一旦の区切りとし、皆様の応援を糧に、次なる構想を練りたいと考えております!


もし「九十八%封印しても漏れ出す、二%の魅力に翻弄されるルカたちの続きがもっと読みたい!」と思っていただけましたら、ブックマークや下の【☆☆☆☆☆】評価などで応援いただけますと、執筆の最大のモチベーションになります。


皆様の応援の声こそが、ルカたちを次の街へと運ぶ馬車の燃料になります。


また、別作品の『異世界★魔法少女― 転生初日に聖女扱いされましたが、変身が罰ゲームすぎます! 』も、本作とはまた違ったテイストで元気に更新中です。あわせて可愛がっていただければ幸いです!


それでは、またルカたちの旅路でお会いできることを願って。

ありがとうございました!

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