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第13話 仮面の男の謎

 ◇SIDE:ルカ


「――ルカくんの話はした。次は、その騎士くんがどうやって洗脳されたのか、くわしく聞かせてほしいものだね」


 大聖堂の一室。

 シオンの言葉をきっかけに、全員の視線がシエラさんに集まった。

 聖女様が、治癒の魔法でシエラさんの傷を治療をおこなっている。

 聖女様の手から発せられる暖かな光が、傷ついたシエラさんの傷を癒していた。

 シエラさんの首元にあったフォルス・アイの紋章は、僕の五十パーセントの魅了と共に消え去っている。

 まだ洗脳解除の影響が残っているのか、肩で息をするシエラさんの美しい青い髪が小さく揺れていた。


 シエラさんが、申し訳なさそうな表情で顔を上げる。

 青い髪に、凛とした瞳。端正な顔立ち。鎧越しでも分かる、抜群のスタイル。

 僕はあらためて、シエラさんの美貌にすこし鼓動が早くなるのを感じた。

 シエラも僕の視線に気付いたのか、目をトロンとさせ熱い視線で僕を見つめ返していた。


 それに気付いたのか、聖女様がコホンと小さく咳をして、僕はあわててシエラさんから目線をそらした。

 ふとシオンを見ると、何か言いたげな顔で僕をねめていた。


「……シエラ。聞かせてくださいますか?」

 聖女様が優しく口を開く。

 不安そうな聖女様のつぶらな瞳が、小さく揺れた。

「私もよくは覚えていないのですが――」

 シエラさんは少し申し訳なさそうにしながら、その時の様子を語り出した。


「……仮面の男!?」

 いかにも怪しい人物の登場に、僕は思わず声をあげた。

「ええ……。素顔は分からなかったですが、声の感じからすると、おそらく四十歳前後くらいではないかと……」

 シエラはその時のことを思い出そうと目を閉じ、眉間にしわを寄せた。

「ちょっと待ってくれ。仮面の男の顔を見ただけで意識が持っていかれたというのかい?」

 シオンの声が少し低くなる。

「何か詠唱を唱えたとか、そういった素振りは?」

 シオンの問いに、シエラさんは即座に首を横に振った。

「……魔法じゃないだと」

 シオンが目を細め、小さく声を漏らした。

「……シオン、どういうことです? 魔法じゃなかったら何か問題でもあるんですか?」

 僕は、シオンが何故難しい顔をしているのか、全く解らなかった。

「いいかい、ルカくん。相手を洗脳するのは、簡単なことじゃないんだ。通常、相手を洗脳するには、相手の精神を弱らせる必要がある。時には何日、いや何ヶ月も掛けて拘束し、拷問や尋問などで揺さぶりをかける。そして精神が弱ったところで魅了や制約の魔法をかけたり、魔道具を使うのさ。精神力の高い騎士を一瞬で洗脳し、意のままに動かすというのは、通常考えにくい」

「つまり、どういうことなんです?」

 僕はゴクリと唾を飲んだ。 聖女様も、シエラさんも、シオンの言葉を待ち、部屋は静まり返っていた。

「たとえ、相手が超一流の精神系の魔導士であっても、一瞬で洗脳するのは容易ではないのさ。つまり、最初に洗脳があったのではなく、魅了などが先あったと考える方が自然だ。だが、それが魔法ではないとなると、考えられるのは一つしかない……」

 シオンは、部屋をウロウロと動き回り、何かを思案しているようだった。

 破壊した窓から入ってくる風がシオンの緑色の髪を撫でるように揺らしている。

「いや……。しかし……」

 一人でブツブツと呟くシオンに、シエラさんが業を煮やしたような表情を浮かべる。

「……はっきりしない、チビ助だな」

「誰がチビ助だっ!」

 シオンは顔を真っ赤にして叫ぶ。

  そして、落ち着かせるように大きく息を吸い込み、続けた。

「確証はない。あくまでも可能性だと思って聞いてほしい。……おそらく仮面の男は、精神干渉系のスキル持ちだ。しかも、かなり高度な。ルカくんのように、相手を見るだけで相手を魅了できる可能性がある……」

「っ!?」

 全員が一斉に息を呑んだ。

「魅了した後に、何か命令を行う紋章を刻み、洗脳のような状態にした可能性がある」

「僕と同じように、相手を魅了する力……!?」

 僕は信じられない思いで、シオンの言葉を繰り返した。


「あくまで推測だがね。しかし、仮にそうだとしたら、奴の力はルカくんの『二パーセント』よりもはるかに強力で、自由に制御できているということになる。……恐ろしい話さ」

 シオンが腕を組み、険しい表情で呟く。

「フォルス・アイ……スキルによる差別の撤廃を掲げる過激派組織ですわね」

 聖女様が、静かに口を開いた。

「彼らは女神への信仰を否定し、教会を激しく憎悪しています。教会の象徴であるわたくしを暗殺することで、社会に混乱をもたらそうとしたのでしょう」

(みんな冷静に話しているけど、これってかなり大事になるんじゃないか……?)

 仮にも、聖女様暗殺未遂事件だ。僕たちだけの秘密にできるわけがない。

「とにかく、聖女くん。君は厄介な連中に目をつけられていることが判明したわけだ。上に報告しないわけにはいかないだろう」

「……ええ。流石にわたくしの命に関わることですので、護衛の在り方も変えなければならないでしょう」

 二人の目がシエラに注がれる。

  いくら洗脳されていたとはいえ、聖女様に剣を向けたことに変わりはないのだ。

「シエラ。あなたを本日より謹慎処分とします。正式な処分は追って沙汰を下します」

 聖女様が重い口を開いた。

 場に重い空気が流れる。


「ちょ、ちょっと待ってください、聖女様! シエラさんは操られていただけで、何も悪くありません!」

 僕は思わず前に出て、シエラさんを庇うように叫んだ。

「……ルカ殿」

 シエラさんがハッとして僕を見る。

 その瞳は少し潤み、僕への強い忠誠心……というか、隠しきれない熱い何かが滲み出ているように見えた。

「お心遣い、感謝いたします。ですが、ルカ殿……今回の失態は私の不覚の致すところ。この処分は甘んじて受けねばなりません」

「そんな……」

「ルカくん、これはもうボクたちだけの問題じゃない。あとは二人に任せるしかない。……帰るよ」

 シオンが、そう言って僕の手をギュッと掴んだ。

「聖女くん、ボクたちはしばらくこの街に滞在している。何かあればギルドまで連絡をくれたまえ」

 シオンに手を引かれ、僕は後ろ髪を引かれる思いで大聖堂を後にした。

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