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第10話 決死の防御と、天才魔導士の衝撃

 僕の渾身の一撃を、シエラさんは難なく剣で受け止める。

 そして、そのまま横に払われて、バランスを崩し片膝をついた。

「つ、強い……」

 あらためて、剣を構え直し、ジリジリと間合いを取る。


 僕には、一つ確信があった。

 このシエラという女騎士に、『二パーセント』は効いていない。

 先程から、何度も目が合っているにも関わらず、目は虚なままだ。

 通常であれば、顔を真っ赤にして僕に好意を寄せてくるはずなのに、そんな気配は一切なかった。

 別に、自意識過剰なわけではない。女神の寵愛の力のせいだ。

 あわよくば、『二パーセント』の力でなんとかなるかと思ったけど、そう都合良くはいかないらしい。


「シエラ、止めてください! なぜ貴方がこんな……」

 聖女様が、悲痛な声で叫ぶ。

 しかしシエラは、そんな声は一切届いていないかのように、「……フェリシア様を殺さないと」と、うわごとのように同じ言葉を繰り返していた。

「ルカ様! 彼女はきっと誰かに操られていますわ!」

「操られている……?」

 聖女様の言葉に、僕はハッとした。

 言われてみれば、今のシエラさんはまるで感情のない人形のようだ。何者かが、聖女様を暗殺するために彼女を洗脳し、操っているということか。


「フェリシア様を……殺す」

「くっ……!」

 シエラさんが再び床を蹴り、一瞬で間合いを詰めてくる。

 鋭く振り下ろされる斬撃を、僕は飾り物の剣を両手で持ち上げてなんとか防いだ。

 激しい金属音が部屋に響き、火花が散る。

(お、重いっ……!)

 四年間の、シオンの隠れ家での特訓で基礎体力は上がっているはずなのに、騎士の放つ一撃は桁違いだった。

 受け止めた腕の骨がきしみ、ジンジンと痺れが走る。

「っ!!」

 僕は気力を振り絞ってシエラさんの剣を弾き返し、そのままきりかかった。

 だが、僕の動きなど完全に見切られているのか、意図も容易く剣の腹で受け流される。

 次から次への繰り出されるシエラさんの無駄のない連続攻撃。右へ、左へ、そして上段から。

 僕はただ聖女様を庇いながら、必死に剣を盾にして防ぐことしかできない。

 何合撃ち合っただろうか。ただでさえ飾りの剣は、実戦用ではなく、分厚くて重い。

 僕の体格にもあっておらず、振り回すだけで体力を激しく消耗していく。

(はぁ、はぁ……、も、もう腕が上がらない……)

 息が上がり、膝が悲鳴を上げている。

 防御の反応がだんだんと遅れ始めていた。

「しまっ――!」

 僕の構えていた重い剣が、シエラの強烈な剣撃に弾き上げられる。

 すっぽ抜けた剣が宙を舞い、僕の態勢は完全に無防備となってしまった。

「ルカ様っ!!」

 後ろで聖女様が悲鳴をあげる。

  シエラさんの虚ろな瞳が、確かな殺意を持って僕と聖女様を捉えた。

 上段に振りかぶられた、鈍色の刃。

(ダメだ……っ!!)

 僕は聖女様を庇うように強く抱きしめ、ギュッと目をつぶった。

 ――その、絶体絶命の瞬間だった。


衝撃波インパクト!!」

 凛とした声と共に、 シエラさんが後ろに吹き飛んだ。

 窓ガラスが割れ、凄まじい音が響く。

 シエラはそのまま壁に強く打ち付けられ動きを止めた。

 外から、窓を魔法ごとぶち破って現れたのは、息を切らし、立派な杖を構えた賢者候補――天才魔導士シオンだった。

「シオン!!」

 僕は心底ホッとして、安堵の声を上げた

 だが、シオンは部屋の惨状――切り裂かれたソファ、散乱する羽毛、そして僕が聖女様と床で抱き合っている姿を見て、ぴたりと動きを止めた。


「ルカくん……。これは一体どういう状況だい!?」

 シオンが杖を持つ手をプルプルと震わせながら、目を吊り上げた。

「ボクが君の貞操の危機を心配して駆けつけてみれば、ちゃっかり二人でイチャイチャしているじゃあないか!」

「ち、違うんです! これには深い訳があるんです!」

 僕はしどろもどろになりながらも、必死に叫んだ。

「深い訳も何も、君は今、力一杯抱きしめちゃってるじゃあないか!」

 シオンは杖が壊れるんじゃないか思うくらい、激しく床に打ちつけた。

「……ルカ様。こんなにも、わたくしを強く抱きしめてくださるなんて……」

 聖女様が僕の腕の中で頬を赤らめ、潤んだ瞳で僕を見つめている。

「うわぁっ!」

 僕は聖女様を突き飛ばすよう離れると、そのまま後ろに吹っ飛んでテーブルに強く頭をぶつけた。

 僕は打った頭を押さえながら、なんとか起き上がる。

 シオンは聖女様に向かい「この泥棒猫め」と毒づきながら、 シエラさんを見据え、すぐに真剣な魔導士の表情へ切り替わった。

「なぜ、護衛騎士が聖女くんの命を?」

 シオンが聖女様に向かって首を傾げた。

 聖女様は「誰かは存じませんが、ありがとうございます」と頭を下げると、キッとシオンを睨みつけた。

「あ、あなたは、ルカ様とどういう関係なのですか?」

「……どういう関係かだって!?」

 シオンの顔が、見る見ると赤くなっていく。

「そ、そりゃボクとルカくんは、なんというかその。四年間一緒に暮らした仲というか、なんというか――」

「い、一緒に暮らしたですって!?」

 聖女様の声のトーンが急に変わる。

「ああ! 妹さんってことですね! なるほど、なるほど!」

「っ!? 誰が妹だって!? こう見えてもボクは二十二歳の乙女だぞ! ちょっとけしからん体をしてるからって、調子に乗るんじゃあないぞ!」

「ちょ、ちょっと! 聖女様もシオンもやめてください! 今はそれどころじゃないでしょ!」

 僕が二人を仲裁しようとし瞬間――壁の方から音が聞こえた。

 慌てて振り返ると、シオンに壁に吹き飛ばされていた シエラさんが、目を覚ましたように起きあがろうとしていた。

「この人は洗脳されているんだっ! 僕の二パーセントが効かない!」

 僕が叫ぶと同時に、シオンが杖を構えた。


「フェリシア様……お逃げ……ください」

 起き上がり、近くに転がっていた剣をを伸ばしたシエラさんの口から、はっきりとそう聞こえた。

「……シエラ! 意識が戻ったのですね!」

 聖女様が嬉しそうな声をあげるが、シエラは拾った剣を一振りすると、こちらへ向かい剣を構える。

「シエラ?」

「か、体が勝手に……。フェ……フェリシア様、お逃げください!!」

 シエラさんの声と裏腹に、シエラさんの体は床を蹴り、こちらへと突進してきた。

「……やめてえぇぇぇぇ!!」

 シエラさんが涙を流しながら叫ぶ。

「ふん! ボクのルカくんに襲いかかるなんて……百年早いよ!。束縛ホールド!!」

 シオンが杖を突き出すと、シエラさんの体がまるで石にでもなったかのように動きを止め、その勢いのまま前に倒れ込んだ。

「シオンっ!」

 僕は初めて、この小さな魔導士を心強いと思った――のだけど。


「君は、誰に剣を向けたかわかっているのかい?」

 シオンが静かにシエラさんに近づくと、うつ伏せに倒れ込んでいるシエラの背中に片足を乗せた。

「……ううっ」

 シオンが体重をかけると、シエラさんは苦しそうな呻き声を上げる。

「もし! ルカくんに! 何かあったら! どう! 責任を!取るつもり! なんだい!!」

 シオンが小さい足で、一言ずつ背中に体重をかけた。

「シオン! やめてください!」

 僕はシオンを後ろから、羽交締めにしてシエラさんから引き剥がした。

「シオンっ! やり過ぎです、どうしたんです――」

 そこまで言って、僕は言葉をなくした。

 シオンの目から、ボロボロと涙が溢れ出す。

「……ルカくん、ボクは……。本当に心配したんだ……心配したんだよお!」

 ふわっと、シオンが僕の胸に飛び込んできて、「うわああああ」と、大きな声で泣いた。

 初めて見る、シオンの涙だった。


「ぐすっ……ち、違うぞ! これは優秀な研究サンプルを失うところだったという純粋な学術的損失に対する恐怖の涙であって……決して君を失うのが怖かった訳じゃあない……!」

 顔を真っ赤にして強がるシオン。

 いつもの彼女に戻ってくれて、僕は少しだけホッとした。

「心配してくれてありがとう、シオン」

 僕は腕の中にいる、シオンの頭を優しく撫でた。

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