第1話 鏡の審判と、女神の祝福
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「これより、鏡の審判の儀を執り行う!」
街の大聖堂に、司祭の威厳のある声が響いた。
僕はルカ。今年で十二歳になる。
この世界では十二歳になると、「鏡の審判の儀」を受けることになっている。
一人ずつ鏡の前に立ち、剣や魔法など、その子の才能に見合ったスキルを女神様から授与してもらうのだ。
「今年は、百人近くはいるみたいだぞ」と、隣で誰かが話している。
今か今かと、我が子の順番を待つ親たち。
大聖堂は「自分の子供にどんな祝福が与えられるのか」と、期待を抱く親たちの熱気で包まれていた。
孤児院で育った僕には関係のない話だけど、少し羨ましくもあった。
(……こんなに人が多いと、落ち着かないな)
僕は小さくため息を吐いた。
大聖堂の石の床の冷たさが、一人で立ち尽くす僕のボロ靴から伝わってくる。
力もなければ、魔力もない僕にとって、鏡の審判の儀なんて正直どうでもよかった。
人より秀でた才能なんて、何一つ持ち合わせてはいないのだから。
しいて言えば、文章を書いたり、読んだりするのが好きなくらいで、そんな僕に与えられるスキルなんて、たかが知れていた。
良くて、書士とか書記。その程度だ。
隣では「うちの子は賢いから、きっと魔法のスキルよ!」などと、親の方が盛り上がっている。
内心、「変に期待されるのもつらいだろうな」と、子供ながらに思ったりした。
でも、孤児院で育った僕には、期待してくれる人など誰もいないのだ。
この場違いな空間にいるだけで、なんだか鼻の奥がツンとした。
まるで、この世に僕一人だけになったような、そんな気分だった。
挨拶が終わり、「審判の儀を受ける子どもたちは、前に出てきて一列に並びなさい」と司祭が一際声を張り上げた。
我先にと前へ駆け出す子もいたが、僕の足取りは、雨上がりのぬかるみに足を取られるかのように重く、冷えていた。
(あまりにも、残念なスキルだったらどうしよう……)
急に不安になり、指先が小さく震えた。
僕は小さくため息を落とすと、誰にも注目されることもなく、ゆっくりと列の最後尾へ並んだ。
◇
「炎の魔法のスキルだ!」
目の前の少年が叫んだ。
司祭の横のプレートに【固有スキル:魔法(炎)】と文字が浮かび上がり観衆にどよめきが起こる。
(やっぱり、剣とか魔法のスキルってカッコイイよな。でも……)
次が自分の番となり、嫌な予感と、最悪な予感が頭をグルグルと駆け巡る。
孤児院で育った僕にとって、スキルは将来を決める重要なものだ。
いくら興味がないと、うそぶいてみても、なんの役にも立たないスキルが与えられることを想像すると、自然と体が震えた。
「では次の者、前へ、ルカ!」
僕は自分の名前を呼ばれたが、足が前に進まなかった。
無能な自分。
観衆の目。
全ての恐怖が一斉に襲いかかってきた。
司祭が「前へ!」と促す。
僕は、呼吸をすることも忘れるくらい、訳もわからずに前へ進んだ。
目の前にある審判の鏡には、自分が映っていた。
両親の顔も知らない、薄汚い、ただの十二歳の子供が。
「――っ!」
僕は思わず目を背けた。
鏡から感じる、ただならぬ気配。
この一瞬で、自分の人生が決まってしまうかも知れないというプレッシャーが、僕を足元から飲み込んでいく。
僕は鏡を直視することも出来ず、ただ立ち尽くしていた。
『――あら? 私を無視するの? 生意気な坊やね』
頭の中に声が響いた。
優しい口調だけど、威圧を感じる声。
『顔を上げなさい。そんなに私が怖い?』
頭の中の声は、さらに優しく、慈悲深く、僕の耳を包み込んだ。
僕は声に従い、ゆっくりと顔を上げ、自分の目を疑った。
鏡の中で、この世のものとは思えない女性が、こちらへ微笑みを浮かべていたのだ。
優しいけれど、冷たい笑みを浮かべて。
(……これが、女神様!?)
僕は、女神様の持つ神秘的な美しさに、魂が震えるのを感じた。
『ふふ、可愛い顔をしているじゃない。今日はたくさんの《《平凡な》》子供達にスキルを与えて退屈だったのよ』
鏡から手が伸びて、僕の頬を優しく撫でる。
冷たい指先が、僕の細胞一つ一つを震わせた。
まるで、死の宣告を受けるような恐怖。
全身の毛が逆立ち、立っていられないほどに、足がカクカクと震えた。
『ふふふ。そんなに怯えて……私が怖いの?』
僕の頬を撫でる手に暖かい光が宿る。それはまるで、空気に触れるのを嫌がるかのように、僕の中に潜り込んできた。
僕を構成する魂を、ゆっくりと侵食していくかのように、奥へ奥へと。
体が熱く火照り、目の奥にチクリと小さな痛みが走った。
『ふふ、可愛いわね。気に入ったわ、貴方に力を授けましょう。これからは、その力で世界中の視線を独り占めしなさい。もう、怯える必要はないのよ』
女神様がそう告げると、僕の体から眩い光が溢れ出し、そして消える。
目の前の鏡には、不思議な顔をした僕が、ただ映っているだけだった。
「こ、これは……」
後ろの司祭の声が震えている。
その声に振り返り、自分のスキルが表示されたプレートに目をやった。
プレートにはこう書かれていた。
【固有スキル:女神の寵愛】
「こんなスキル聞いたことがない……。け、建国以来の奇跡だ!!」
司祭の声が、今日一番、大聖堂に響き渡る。
そして、遅れるように観衆の声が波のように訪れた。
◆SIDE:シオン
「……なんでボクが、こんなところに来なきゃいけないのさ」
ボクは天を仰ぎ、心の声を小さく漏らした。
王立魔道学院始まって以来の天才として卒業し、将来の賢者候補とまで言われたこのシオン様が、だ。
十八歳にしては見た目が幼いとよく言われるけど、脳みそに栄養が全部いっちゃったんだから、それは仕方ない。
多忙な学院長に「君が今やっている女神の研究の役に立つはずだ! 代理で頼む!」と半ば強引に押し付けられて、渋々参加したけどさ。
なんで、子供のスキル授与なんていう退屈な行事を見学しなきゃいけないのか。
ボクは頭をクシャクシャとかきむしった。
それだけならまだしも、神殿に着くなり、「はい、君はこっちだよ!」なんて十二歳児の列に並ばされそうになるし。
十八歳のレディが十二歳児に間違われるとか、マジで意味がわかんないんですけど!
ちゃんと大人らしく、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んで……来るんだよ、これから!
「では次の者、前へ、ルカ!」
あくびをしたボクの耳に、司祭の声が響いた。
来賓席に座り、退屈で死にそうになっていたが、次でどうやら最後のようだった。
さっきの歓声の後、打って変わり大聖堂は静まりかえっている。
(これで最後か。どれどれ?)
「最後くらいはちゃんと見ておくか」と、姿勢を正し、背筋を伸ばす。
ボクは、自分の目を疑った。
審判の鏡に、なんと《《女性の顔》》が映っていたのだ。
「女神? そんなバカな!」
思わず身を乗り出す。
女神の鏡に映るのは、あくまで将来の自分の姿であり、女神が実際に映り込むなんて聞いたことがない。
驚いた矢先、鏡から手が伸びるのが見えた。
いや、違う。
あれは、異常なほど高密度に圧縮された魔力の塊だ。
ただの人間には見えないだろうが、この天才シオン様の目は誤魔化せない。
少年の頬を撫でるように、その魔力が彼の体へと入り込んでいく。
(幻じゃない、本物だ!)
ボクは、心の底から学院長に感謝した。
こんな場面に出くわすなんて、普通ではあり得ないのだから。
直後、少年の横のプレートに【固有スキル:女神の寵愛】と文字が浮かび上がり、『建国以来の奇跡だ!』という司祭の叫びが響き渡る。
どよめく観衆へと向けて、少年がゆっくりと振り返った。
その瞬間――。ボクの自動魔法結界が、けたたましい音を立てて発動した。
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