059. 呪いを内に封じて
私はまず、そっと目を瞑り深呼吸をしました。
手が……足が、震える……。
でも――さっきのように体の力を全部持っていかれてるような感覚はもうない――。
気持ちや鼓動を整えて、何が起きても素早く対処できるように――。
それから目を開いた私は、カボション内の虹色の結界を見つめます。
「では……」
小さな風船に、少しずつ息を吹き込むイメージで。
ゆっくりと呼吸をしながら、少しずつ……少しずつ――――
虹色の膜が、私のイメージとリンクするようにゆっくりと膨らんでいきます。
それは拳大になり、やがて作業用コルクボードを包み込むくらいの大きさになり――。
「黒いモヤは出てないようだな――」
「結界を維持するのにあった倦怠感もなくなってるので……」
「倦怠感があったのか⁈」
「え……えぇ」
驚いた顔をしてこちらを見る晃生さん。
「今は⁉︎」
「まったく。緊張が解けてきて、少し力は抜けてますけど。あえていうなら、ずっと立ってたので足が疲れてます」
抜けていた力もだいぶ戻ってきたようで、私は背もたれから手を離しました。
「倦怠感は、アーティファクト使用過多の時に良く出る症状だ――。
古の巫女や……龍の巫女の力を持つ者にとっては違うのかもしれないが……。
次からは――使用を控えたりして、様子を見るようにするんだぞ? 使用過多で倒れる者もいるし、アーティファクトも壊れてしまうことがある――」
「そうなんですか――大丈夫ですかね、この子……⁉︎」
気になって、左手のひらを開いて見てみますが……見た目は特に変わったところは見受けられず。元気そうに光をゆらゆらさせています。
「……大丈夫みたいだな……本人も“疲れはしたけど大丈夫”と言っている……」
「――よかったです」
私は胸を撫で下ろしながら言いました。
「そして――呪いの力も出てはいないと言っている」
「そうですか――!」
「カボション本人からは……まだ声が聞こえないからなんとも言えないが――結界を解いてみてもらっていいか?」
「……わかりました」
私は先程と同じように、ゆっくりと変化していくイメージをしながら言いました。
「――結界解除」
虹色の淡い光がすうっと薄くなっていき、カボションと編みかけのマクラメの色がハッキリと見えてきます。
「大丈夫……みたいだな……?」
「はい……呪いっぽい光も、モヤも見えません、が――」
この子本来の力である浄化の白い光も視えません……と続けようとしたその時――
私の目に、微かな光が写りました。
そしてそれはみるみるうちに強くなって――――!
「――浄化の力、保持できてるみたいです!」
「そうか――よかった…………」
晃生さんもほっとしたのか、椅子の背もたれに背を預けて、深く息を吐きます。
カボションから発し始めた光は、まるで早く完成させてと言わんばかりに、組みかけの紐の先まで光りだしました。
「晃生さん、お疲れでしょうけど……完成させてあげてください。この子はきっと、力になってくれます」
「あぁ、もちろんだ」
カボション内の鉱石レジンは、日の光でその虹色を輝かせています。
おそらくこの鉱石レジンが浄化の力の源なのでしょう……と、私は何故か思いました。
「じゃあ、トウマは寝室で休むと良い。
ここまでの色々で……疲れただろう――?」
「そうですね……」
作業台に落ちる日の光を見て、この光量なら……と感じた私は言いました。
「休む前に、寝室の方で新しいドラゴンブレスライカを作ります。クロ専用の」
クロが今持つ物は、ただ作りたくて作った試作品。
ちゃんと――クロの力になれるように……クロをイメージしながら作ってみたい。
私の中の“作りたい”という衝動に、忠実に――。
欲望、というところがちょっと……アレですけど……。
「そうか――無理のない程度に……でも、よろしく頼むよ……!」




