005. それぞれの持つ力
「これはアーティファクトを元に作られたレプリカ、オリジナルではないんだが……天空作品のことも知ってるのか?」
天空という名も一致している――!
「――アーティファクトが何なのか知らない……のに……?」
晃生さんは、何故だ? どういうことだ? と、訝しげな顔をして呟きました。
私だって――私だってそういう顔をしていたい――!
けれど……
「混乱の境地で……私も上手く説明ができるかわからないのですが……。
おそらく私はこの時代の人間ではありません。もしかしたら世界も違うかも……です――――」
「時代と世界が……違う?」
「はい……自分で言うのも荒唐無稽というか何というか、アレなんですが――」
「……構わない、言ってみてくれ」
流行りの異世界転生系ファンタジー。その小説や漫画をそれなりに嗜んできていた私は、持てる知識を総動員して、晃生さんに説明を試みました……。
「例えば――見えない壁を隔てたすぐ隣に存在する、平行世界という物があったなら。
片方では科学が発展し、もう片方では魔法具のようなアーティファクトというものが発達していったなら――。
この世界と私のいた世界は、そういう関係なんじゃないかと思います。
その証拠は――私の記憶の中にしかありませんが……」
言いながら板の間の上、晃生さんとの間で巾着の上に置かれた二つのアーティファクトを眺めていると、目の錯覚か、それらが淡く光を放っているような気がして私は目を擦りました。
けれどその光は変わらず見えて――
「なるほど。この二つは真美の知り合いの……友人の作品で、だから自分は遠い過去からやってきたのではないか、と……」
「はい、少なくとも私は生きている碧空さんと天空さんと会話した事があり、私のいた世界にはアーティファクトというものは存在していませんでした」
待ってください、どうして二人と私が友人だと――
「遠い過去から来た、と思うのは何故だ?」
私も晃生さんに質問をしたい。けれど、まずは信じてもらうことが先ですよね……何より悪い人ではなさそうですし……
「――作品の状態から、です――」
私は自分の疑問をとりあえず横に置いて、晃生さんの質問に、丁寧に答えていきます。
「太陽の光や紫外線に当たり続けると、黄色っぽく変化していくことを黄変というのですが……お二方は黄変に強いタイプの資材を使用していたんです」
開発され続けているレジン液。物によっては数年経過した物のデータはあります。けれど、十年、二十年といった単位の実験結果はまだなく……。
「一年間、毎日直射日光を浴びても色に変化の見られないような資材を――」
目の前にあるこの作品たちは、どちらも黄変が進んでいます。
「その作品たちがどれだけの日光を浴びてきたのかはわかりませんが、黄変の具合からみても――二、三年といった単位ではないと思ったのです」
相変わらず淡く光の見える作品たち。その光り具合に揺らぎが見えた気がして、今度は瞬きをしながら見つめました。
「そうか――どうやらコイツらの言っていることは本当のようだな」
「コイツら――?」
一体誰のことを……?
「この天空作品はレプリカ、本物をコピーした物になるのだが……大元の製作者のこともほんの少し記憶を受け継ぐらしいな」
記憶を受け継ぐ⁉︎
「晃生さん、もしかしてこの作品たちの――声が聞こえるんですか?」
私がするりと思ったことを口走ると、晃生さんが、少し困った顔をしながら私を見てきました。
「それこそ証明なんかできないが、な――。
どんなに訓練してもアーティファクトの持つ光が見えないのに、声だけは聞こえる体質らしい」
光……
「アーティファクトとは……光って見えるものなのですか?」
「使用時の光は誰にでも見える。だが未使用時のものは違う。生まれつき見える者もいれば、訓練や修行をして見えるようになる者もいる。
それでもその絶対数は少ないはずだが――」
どこか言いにくそうにそう告げる晃生さん。
「真美には見えているようだな? コイツらの光」
「――ボンヤリとですけど――」
「それはすごい! 修復が必要になった状態のコイツらの光が見えるってのは、かなり視る力が強いということだぞ……!」
そんなことを言われても。すごいという実感が全く湧きませんでした。だって――
「声が聞こえる、という方がすごいと思います。できることなら私も聞きたいです――。この子達の声……」
私は心の底からそう思いました。
あちらでは、「何をファンタジーなことを」と言われそうで、一度も口には……文章にもしたことはないですが……
「信じてくれる……のか――?」
羨ましい。そんな思いで晃生さんを見ると、彼は先ほどよりも驚いた顔をして私をみました。
「疑った方が……よかったですか――?」
何か事情があるのかもしれない。そう思って伺うように少し上目遣いで聞き返しましたが――
「いいや、信じてくれて嬉しいよ――」
そう言って、彼はにこりと微笑みました。