058. 呪いを抑える虹色の結界
「外すぞ――」
晃生さんがゆっくり……ゆっくりとカボションを台座から動かしていきます。すると――
「――!――」
カボションから黒いモヤのようなものが吹き出し、その瞬間私は、体全体の力が抜けそうな感覚に襲われました。
「ぅ――――」
晃生さんにも何か異変が起きている様で、小さく唸って、手の動きが止まっています。
「だ……大丈夫ですか――⁉︎」
「なんとか……! だが――結界内にある手の力が抜けて――」
力が抜けて――⁈ マクラメをするには手の力が、力加減が大切だろうに――
その時です、私は一つの可能性に気がつきました。
「ちょっと待ってください。結界の範囲を……変形してみます――!」
イメージする――。カボションの表面ピッタリの結界を、シャボン玉が風に揺られて変形するように――――
「――すごい、結界の形が――――」
黒いモヤは逃さない――!
縮んでいく結界の中で、モヤは凝縮され、濃くなっていきます。
私が感じる倦怠感は酷くなる一方で……でもそれはきっと、漏れてきている呪いを結界アーティファクトが外に出ないようにしている証拠――!
「あなた“助けて”と言っていたのよね……呪いのアーティファクトにはなりたくないのよね――?」
モヤが揺れ動き、カボションが見え隠れしている――
「苦しいかもしれないけど、我慢できる――?」
私も頑張るから――
次の瞬間、揺れ動いていたモヤが固まったように動かなくなりました。
私には……声は聞こえないけど――
何を望んでいるのかはわかる気がします――!
「虹色の結界よ、その子の内側に呪いを留めて――!」
黒いモヤの抵抗がなくなったのか、結界は勢いよく縮んでいきます。
「な――呪いの力をカボション内部に抑え込んだ――⁉︎」
倦怠感がさらに酷くなり、立っているのもやっとの状態な私は、それを覗き込むことができませんが……
直径二センチ弱の小さなカボションは、虹色に輝いていて、私の試みが成功したことを表していました。
「晃生さん……あまり長くは保ちそうにないので――」
「――あぁ、わかってる。すまないがもう少しだけ頑張ってくれ――!」
私が掠れ気味な声を発している間にも、晃生さんは手を動かし長い紐を巧みに操り、みるみるうちにカボションをマクラメのパーツで包み固定しました。
そして、それからの晃生さんの手の動きは……丁寧で、流れるかのような動きで――。
晃生さんの作業が進むに従って、だんだんと倦怠感は軽くなっていきましたが、結界アーティファクトの維持は想像よりずっと難しく。
体力と精神力をどんどんと削られていくとは、こういうことなのかと身をもって知ることとなった私でした――。
「――トウマ、どうだ……?」
しばらくして晃生さんが声をかけてきました。
とにかく結界を保とうと、カボションの虹色部分だけを、結界をじっと見つめていた私は、晃生さんの作業がどれくらい進んだのかも見えていませんでした。
数回瞬きをして見ると、中心部分が出来上がったのでしょうか、カボションは巧みなマクラメによって包まれています。
いつの間にか倦怠感が消えている――
「……たぶん大丈夫です――」
そう言うと緊張の糸が切れたのか、力が抜けていきます――
私は、祈るようにして両手のひらで包んでいた結界アーティファクトを左手に持ち直し、晃生さんの座る椅子の背もたれに右手を置いて、フラつく自分の体を支えました。
「結界を少し広げてみますね」
「あぁ、頼む――」




