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056. 封印の絹糸

「じゃあ、俺は作業台で調整をするが……トウマはどうする?」

「私も作業しようと思いますが……先に相談させていただきたいことが――」

「なんだ?」


 私はポーチに入れておいた、例のアーティファクトを取り出しました。


「狐面の男が持っていた、呪いのアーティファクト……()()()子です」

「――コイツが⁉︎」


 晃生さんはビクリと体を震わせると、目を丸くして、緊張した面持ちでその首飾りを覗き込みました。


 手の中のペンダントは、今は控えめで柔らかい……白色の光を放っています――。


 その子を見ている晃生さんの表情から緊張の色が消え、だんだんと悲しげな顔になっていくのを見て、私は我慢できずに聞きました。


「声が――聞こえるんですね――?」

「あぁ……とても弱っているようだが――」


 晃生さんはそうつぶやくと、すっと顔を上げて言いました。


「助けて、と――」

「――!――」


 胸が、心臓がズキンと痛みます――。


「あの時も叫んでいたんですよね――」


 この子はおそらく、あの洞窟で――狐面の男に無理やり呪いの力を発動させられていた……


「狐面の男が言っていたんですが……台座から外れると完全に呪いのアーティファクトに変化してしまうそうです――」


 触って確認してみると、レジンカボションはかなりグラグラとしています。

 わずかな接着部分で、ギリギリの状態で台座にくっついているみたいですね……


「仕組みは解明されていないが、呪いのアーティファクトは人を介さずその力を放出する……。それが本当なら、台座がこのカボションの呪いを抑えてくれているんだろう――」


 それを聞いてゾッとしました。もし、川に流された時に手を離していたら、と――


「ちょっと裏側を見せてくれるか?」


 言われるがままに裏返してみると、台座の中央あたりに亀裂が――。


「これが原因ですね……」

「あぁ……。いつ入った亀裂かはわからないが――ここから空気が入り、徐々に接着部分が剥がれていったんだろう」


 心の奥に、冷たい感覚が蘇ってくる――。

 まだ、少し心にしこりは感じるけれど――


「どうやったら……助けてあげれますか?」


 作られた作品に罪はない――。

 それに、これだけの作品を作れる人が……悪い人ではないはず、と――――


「……案はある、が――成功するかどうかは……

 それに、失敗すると離れだけじゃなく、近辺の森も吹き飛ぶくらいの爆発か……何かが起こる」

「近辺の森まで、ですか――⁈」

「その性質上、呪いのアーティファクトに関する資料は少ないんだが……。

 これまで読んだことのある物から考えると、可能性は高いだろう……」


 そうなると、本家の結界アーティファクトどころの話ではなくなってしまいますよね……。


 私は、心の中にあった葛藤を思い出しながら言いました。


「本家の結界のことも急務だと思うんですが……」


 なんなら、今からでも何もかも全て、自分が何に憤っていたのかなどを事細かく話したい――聞いて欲しい――。


 けど……話しません。


 何故なら、それをしたら私はまたあの“瞬間”に戻ってしまう……SNSで作品の画像を見つけたあの時に……


 私はもう、先に進みたい――。


「この子をこのままにしておくのは危ないと思うんです――」


 意を決して、私は言いました。


「晃生さんに頼りきりで申し訳ないとは思うんですが……私に出来ることならなんでも協力します。だから――試してみませんか――?」


 晃生さんは、少し困ったような顔をして言います。


「――守りに徹すると約束してくれるか?」

「はい」

「異変を感じたらすぐに……なんとか逃げるんだぞ?」


 そんなこと、約束なんてできませんが……


「わかりました……善処はします」


 そう言った私に、晃生さんは苦笑しながら答えます。


「…………よし。じゃあ説明するぞ――」


 私たちは応接室のソファに向かい合って座り、話を続けました。


「まず問題なのは、台座から離すと呪いが溢れ出てくる、ということだ」


 そういえば――あの狐面の男はどうして呪いの中で平然としていられたんでしょう――? 


 ……ふと気になったけれど、私は改めて晃生さんの言葉に集中します。

 

「そこで、カボションを台座から外し、処理が完了するまでの間、このアーティファクトで結界を張っていてもらいたい」

「わかりました」


 晃生さんがテーブルの上にあの時使用した結界アーティファクトを差し出したので、私はそれを受け取りました。


「処理って……呪いを封じるための何かをするということですよね?」

「あぁ。呪いだけを封じ、このアーティファクト本来の力を損なうことなく発揮できるようにしたいと思ってる」

「一体どうやって……」


 私がそう問いかけると、晃生さんは窓横にある棚の一番下にある引き出しから、二つの桐箱を出してきました。


 ちょうどカステラが一本まるまる入りそうなくらいの桐箱を二つとも開けると、中には焦茶色と薄い灰茶色の糸……おそらく絹糸が入っていました。


「この糸は身代わり守り用の絹糸なんだが……たぶん呪いを抑えるにはもってこいの素材だろう」

「もしかして、このカボション部分をマクラメで覆うつもりですか?」

「あぁ――俺の持つ技術で一番練度の高いのがマクラメだからな」

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