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054. 襲撃を受けた本家

 これは――。身体能力向上していなければ息ができなかった……デスネ。たぶん。


 クロの周りには容赦なく風が渦巻いていて、私は風の圧力を感じながら身を縮こませていました。



 しばらくすると晃生さんが叫びます。


「本家の方から煙が――!」


 なんとかチラリとその方向を見ると、黒い煙が上がっているのが見えました。


「――母屋の一部と奥の蔵が――」

「……降りるぞ」


 速度が落ち着き、高度がどんどん下がって行くと、焦げ臭い匂いが――


 母屋の、正門の前に降りた私たちは……焦げ落ちた門を前にして立ち尽くしてしまいました――。


 門の奥には、同じく焦げて崩れ落ちている母屋の入り口があり、そこから中へは行けなさそうです。


「火は……抑えられているようだな」


 クロが辺りを見回しながら言ったその時。

 門壁の内側、左側から誰かがやってきました。


「――晃生様!」


 見ると、そこには台所で見たお手伝いさんが一人。


「君は――! 皆、無事か?」

「はい、突然の襲撃でしたが幸い負傷者は出ておりません。ですが門に設置されていた結界アーティファクトと蔵のアーティファクトが――」


 焼け落ちた門は原型を留めておらず、そこにあったのならアーティファクトも……


「蔵のアーティファクトは儀式用や封印された物が主だ。それは俺を含めた本家の人間がなんとかする。

 母屋の結界アーティファクトは……またすぐに同じクオリティの物を用意するから心配いらないよ」

「ありがとうございます……! それなのですが、今……分家の方が商人と来ていて……」


 そう言うとお手伝いさんは、すぐきて欲しいと、私たちを母屋の裏、蔵のある方へと連れていきました。


 台所のさらにその先に蔵は建っていて、半分以上崩れているらしい蔵は門と同じように焦げて、煙が上がっていました。


 焦げた蔵と母屋の間に、晃生さんのお母様とお手伝いさんが一人、そして見知らぬ背の高い男の人が一人とお母様と同じくらい、男の人にしては随分と背の低い御仁が、何やら話をしているようです。


「必要ございません」

「ですが義姉上、虫の被害も街中まで来ているのですよ? 本家にいる者皆が危険に晒されるのはどうかと――」

「そうですよ、奥様。御当主もすぐには来れない状況なご様子……いち早く屋敷の結界を張り直して御身の安全を図らなくては――」


 なるほど……本家が襲撃された報を受けて、分家の方が結界アーティファクトを持つ商人と一緒になって押し売りしようとやってきた、の図、といったところでしょうか……


 さわさわと風が吹くと、今度は蔵の方からくる焦げ臭さが鼻につきます。


 風になびいて、そこにいる全員の着物の袂が揺らめくのが目に入ります。

 すると突然“キーン”という耳鳴りがして、何故か背筋が凍るような感覚に襲われた私は、その場に立ち止まってしまいました。


「ん……どうした、トウマ?」


 すぐ後ろに立つクロがいうけれど、理由は私にもわからず……。


「大丈夫だ、二人はちょっとここで待っていてくれ」


 そういうと晃生さんは、迷うことなく彼らの元へと歩いて行きました。



「ご無事で良かったです、母上」

「……晃生」

「おぉ、晃生くん久しぶりじゃないか! 元気にしていたかい?」

硄次(こうじ)叔父さん……どうしてこちらへ?

 分家の方は大丈夫なのですか?」

「うちの方は大丈夫だよ。何かあったら光惺と椿にも戻ってきてもらうから。

 それより――私は本家が襲撃を受けたとの報を受けてすぐに駆けつけたんだが……君からも義姉上に言ってくれないか?

 本家には、母屋にも蔵にも重要な物が多い。いち早く結界を張り直すためにアーティファクトを用意した方が良いと――」


 晃生さんへ、親しげに話しかける分家の当主だというこの人――

 その声に聞き覚えはないはずなのに……その言い回しとかからでしょうか、あの人が喋る度に動悸が激しくなってきます。何故――


「そうですよ。ちょうど硄次殿が私の店にいらっしゃっていて良かったです。

 ホレこの通り、上質な結界アーティファクトをすぐにお持ちすることができたのですから」


 言いながら商人がケースを開いて見せているけれど、それらと比べたら離れのアーティファクト達の方が――

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