052. 再会
私がその石に見惚れていると、突然小屋の扉が開かれ、男が私と少女を守るように身構えて立ちはだかりました。
「トウマ!」
「晃生さん⁉︎」
扉を開いたのは晃生さんで、男の向こうに垣間見える彼は肩で息をしていました。
「ここにいたのか、よかった――」
晃生さんが私の知り合いだと分かると、男は構えを解いて横へと避けます。
「肩――怪我したのか⁈」
晃生さんはザッと音を立てて土間に膝をつくと、血の滲む左肩の方に、触れぬよう手を翳します。
「もう痛みはありませんが……深追いしちゃったみたいですね」
なんとも力のない表情になってしまったと思うけれど、私は笑いながら言いました。
「――全く――無茶はしないでくれよ…………」
晃生さんは手を引くと、立ち上がって私の頭を優しく撫でます。
この……妙に落ち着く感じがなんとも――。
「それにしても、よくここがわかりましたね?」
「そりゃ……」
「そろそろ入っても良いか、晃生よ」
ぬっとドアの向こうに姿を現したのは、黒い袴を履いた背の高い――
「クロ!」
クロは少し屈んでドアをくぐると、土間の真ん中で腕を組んで立ち、ふわりと微笑みました。
「無事でよかった、トウマよ」
「二人とも……心配かけてしまって申し訳ないです」
「なに、お主は我にとっては大事な存在だしな。突然晃生から……連絡が来たのには驚いたが、お主の……気配を追わせてもらった」
正体は秘密、ということなのでしょう、クロは少し言葉を濁しながら言いました。
「――病み上がりなのに、無理させて悪かったな……」
「いや、問題はない。お主らのおかげで大分調子が良いから」
クロの上着の下で、ライカの光がキラキラと瞬きます。まるで「私が一緒だから大丈夫よ」とでも言っているかのように。
「そちらの御仁も……トウマを助けてくれたそうで――ありがとうございます」
晃生さんが深く頭を下げてお礼を言うと、その人は戸惑うような素振りをしていました。
「いや――俺はここまで連れてきただけだから……」
「それでも、です」
晃生さんは顔を上げると、家の四隅を確認するように見て言いました。
「ところで……虫対策も一応はしてるみたいだが……今の山中は危険だ。子連れなら尚更――
よければこれを持って避難所の方に行くといい……」
懐から組紐付きの木札を取り出すと、男に差し出します。
「俺は高樹家の晃生という。穀潰しの長男と言われてはいるが……ここら近辺の身代わり守りを製作している関係で、蔑ろにはできない存在だ。
それは俺のアーティファクト製作許可証の写しで許可持ちの者が三枚だけ持つ事を許されている物で、俺との関係を保証する事ができる。これを持って行けば悪いようにはされないだろう……」
「おれは――」
その人は木札を受け取ろうとした手をスッと引いてしまいます。
どうして――?
「それを受け取る事は――」
そう言った男の手を、クロが鷲掴みました。
「まぁそう言うでない。
此奴にはわし以外に親しい友もいないゆえ」
晃生さんの手から木札をもぎ取ったクロは、男の手に木札を握らせてさらに言います。
「今は受け取っておけ。そしてほとぼりがさめたら、返してやればよかろう」
「――では……ありがたく」
その人は握らされた木札を見つめながら、そう呟きました。
「ところでお主、ここらの者ではないようだが……名はなんという?」
「――失礼した。おれの名は鈴木陽介、娘は咲という。ここより少し北の方に住んでいたが……訳あってナラへと向かう途中だ」
ここにきてようやくこの男の人の名を聞いていないことに気づきました。
やっぱり大きな怪我とか、大変な事が起きると色々抜けちゃいますね……。
少し気を引き締めようと、私は手の中の白っぽい水晶を見つめました。
「そうか……ならば避難所に行ってしばらく休むといい。ナラへと行く商隊の者たちもいるはずだから、そこで繋ぎを作るといいだろう」




