004. アーティファクトとは
「アーティファクトとは。人の手によって作られた、過去の遺物だ」
「過去の遺物……ですか?」
「――あぁ。主に、だが――」
人の手によって……。ハンドメイド、ということですよね。
何か思うところがあるのか、少し間を置いてから宏輝さんは続けます。
「現在作られた物でも、明かりとなったり火をつけたり、人の想いや願いから発現するかのような、不思議な力を持っている。
それらのことを総称してアーティファクトと呼ぶのだ」
「不思議な力――」
ここは間違いなく私の世界ではない――。でもまさか……そんな小説みたいなことが――――
混乱、としか言いようのない感覚の中、私はあることを思い出しました。
私を抱えて空を飛んだ男性が言っていた『我の力を増幅するそのペンダント』という言葉……。
じゃあ私が作ったこのドラゴンブレスライカも不思議な力を――⁉︎
「あそこに掛けてもらったマント、あれには虫除けの刺繍を施してある。アレは俺が作った現代の、新作『アーティファクト』だ」
言いながら、手で刺繍をする仕草をしてみせました。
「え。あの精巧で素敵な刺繍は貴方が⁉︎」
布全体に並ぶ紋、先ほど手に持ち一見したところ、紋の入り具合や形にブレは見られませんでした。もしアレを手刺繍しているのなら、物凄い技術だと思って、思わず聞き返してしまいました。
すると宏輝さんはものすごく驚いた顔をして私を見ます。
「素敵――⁉︎」
ぐいっと近づいてきて、私は思わず上半身だけで後退り
「は……はい。とても――」
そう答えると、彼は目頭を押さえながら天井を仰ぎました。
泣く……のを我慢しているのかしら?
プルプルと震えている体。グッと目頭を押さえている彼をじっと見つめていると、
「そんなことを言われたのは初めてだ――」
そう言って今度は私の手をがしぃっと両手で掴みました。
「――!――」
「――ありがとう!」
私の手を掴んだまま、拝むようにして頭を下げている宏輝さん。
何故ここまで――これまで誰かに褒められたことがなかったり……するのかしら……?
あれだけの刺繍ができるのに――
「い……いえ……あの、できたら他のアーティファクトも見せていただけますか? もし持っているのなら……」
私が戸惑いながらも真顔でそう言うと、晃生さんはハッとした様子でパッと手を離し
「すまなかった。突然手を握ったりして――」
そう言いながら懐をまさぐり、小さな巾着を二つ取り出しました。
握られていた手が熱い……気がする……。
「龍石の気配を感じて慌てて出てきたから、普段使いの物を工房に置いてきてしまってな。今持っているのは修復を依頼された、神器と呼ばれるアーティファクトと、レプリカと呼ばれる種類の物だが――」
彼の手のひらにコロンッと転がったソレ。
「――⁈――」
それを見て、私は言葉を失います。
外側に金色で模様の施された透明な球体、その中心付近にはおそらく人工オパールの玉が入っています。
そう……それは先日碧空さんが作ると言って見せてくれたデザイン画にそっくりで、描かれている模様は碧空さんがよく作品に取り入れているもの。
それに、小さな球体にこの細かな模様。間違い無いです――!
そう……それは先日碧空さんが作ると言って見せてくれたデザイン画にそっくりだったのです。
「すみません……手にとって見てもいいですか……?」
「あぁ、構わない」
差し出されたそれを、私は震えそうな手でそっと受け取りました。
自分の手のひらの上で転がしながら描かれている模様を見ると、身体中から冷や汗のようなものが吹き出す感覚がしました。
この小さなビー玉サイズの球体に細かな装飾模様。その模様は碧空さんがよく作品に取り入れているもの……間違い無いです――!
「碧空さんの作品――――」
目を見開いて呆然と私が呟くと、
「碧空作品の事は知っているのか? まぁ有名だからな。
それはある神社で神器として祀られていた物なんだが、顕現する力が落ちていることがわかって俺の所に修復依頼がきたのだ」
え……。ちょっと待ってください。今の言葉に情報が含まれすぎていて混乱してます――
晃生さんは、私の手のひらからそれを持っていくと、もう一つの巾着から出した物をそのまま私の手に乗せました。
透明な、ワンポイント水晶の形をした中には赤い石、おそらくガーネットの細石がランダムに散らばっていて、その表面には虹色に光る銀色やメタリックな緑色で唐草のような物が描かれて――いえ、スタンプされた作品――――
「天空さん――⁉︎」