043. 呪いのアーティファクト
「トウマ……黒い光の他に、虹色の光が見えるか?」
「見えます。その他にも赤青緑の光が見えます――」
晃生さんの問いに、私は即答しました。
「そうか……トウマ、その黒い光のアーティファクトを、なんとかして止めないといけない――。
昨日渡した結界アーティファクトの用意をしておいてくれ。そしてもし――俺が失敗したら、黒い光のアーティファクトを結界で包んでくれるか?」
「失敗したらって、どうして……」
どこか焦るような声の晃生さんが心配になって、私は目を開きます。
すると晃生さんは、これまでに見たことのないほどに真剣な顔をしていました。
「黒い光は……呪いのアーティファクトだ――」
「――!」
その声色から、それがどれだけ大変なことなのかが聞いて取れました。
「アーティファクトとは、そんな力まで持つのですか……!」
「キヨミズの聖水に黒い影があったのは、この地下ルートで、そのアーティファクトに呪われていたからだ」
聖水の力を無効化する程の呪いって――大変なことなのでは……でも――
「では……中心部分の白い光はどういうことだと思いますか――?」
もう一度目を瞑ってそちらに集中してみると……やはり、黒い光の内側には白い光が見え隠れしています。
「……アーティファクトも、元から呪いの力を持つわけではないらしい。何かのキッカケがあって、そうなるのだと文献で読んだことがある――。
だから……白い光はそのアーティファクトの元の力の色だろう……」
見え隠れしている白い光は……黒い光に抵抗しているようにも見えて、心がキュゥっと苦しく感じてきます――
「――元に戻すことはできないのですか?」
白い光から、とても強い力を感じる気がして……私は聞きました。
その光の揺らぎがまるで……助けを求めているようで――――助けられるのであれば助けたい。私に何ができるのかは分かりませんが――。
「……完全に堕ちきる前ならあるいは……」
「――分かりました。では、行きましょう」
私は、その揺らめく光を薄目で見据えて言いました。
「行きましょう、って……。そこに居るのがどんな奴かもわからないし、戦闘になる可能性もあるんだが……」
何やら晃生さんが小声で呟くのが聞こえました。
逃げ足も遅い私は、戦闘では足手纏いになるでしょう……。
でも、身を守る術なら一つは思いついています。
だからきっと――――
「何かあったら、トウマ一人ででもここから出るんだぞ……?」
「――それは……約束しかねますが、努力はします」
「……微妙な返事だな……」
晃生さんは苦笑しながら言いました。
「よし、じゃあ気配を消して近づくぞ。
相手が視えるタイプだったらまずい。トウマはアーティファクトたちに光を抑えるよう念じるんだ。それだけでたぶんそいつらは思う通りに動いてくれる」
「分かりました」
私は軽く深呼吸をして、目を瞑ります。そして心の中で語りかけました。
――私のアーティファクトたち、お願い。誰にも見つからないように、あなた達の光を抑えてくれる……?
すると、胸の一部で、ポカポカと温かい感じがしていた何かが、どんどんと小さくなっていくのを感じます……
これがアーティファクトの気配――?
「ようし、上手だ。じゃあ俺も――。
頼むぞみんな、この先の人感センサー付きのアーティファクトたちにも伝えてくれ」
晃生さんの言葉に反応してか、今いる場所のセンサーランプも揺らいで消えていきます。
「トウマ、手を」
明かりが消え切る前に、私は反射的に晃生さんの手を取りました。
「ここから先、俺はアーティファクトたちの声を聞きながら行く。
トウマは――」
「スーちゃんの力を借ります」
言いながら私はすでに、凸凹した地面から十センチ程度の空中にいました。
スーちゃんの力で空中に止まり、晃生さんに手を引いてもらう。これで転ぶ心配もありません。
「……!……手を離さないように気をつけてくれよ?」
「はい――」
洞窟の中は少し涼しく、晃生さんの手の温かさに少しドキリとしながら――
息を潜めつつ私たちは進みました。




