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039. スーちゃん

 岩の隙間から流れ出る水を眺めながら、私は尋ねました。


「地下のルートって確認できるんですか?」


 再生の日の後――。滅亡の一途を辿るとまで思われていたというのであれば、ありとあらゆるライフラインが破壊され、様々な技術が失われていたのでしょう……。


 ではどのようにして地下にルートがあるとわかったのか。


 アーティファクトの不思議な力を使ったのでしょうか……?


「――数年前に地震でできた崖がある……そこに出現した洞窟の奥に、ルートの一部が通っていると聞いたことがある。

 だが――」

「行きましょう」


 何か、行くのを躊躇うような様子の晃生さんに、私はハッキリと言いました。


「大気を操るこの子がいるので。たとえ岩壁が崩れ落ちてきたとしてもある程度は大丈夫です」


 崩落の規模にもよるでしょうけど、と心の中で付け加えつつ、晃生さんの目を見ます。


「だがその場所は洞窟のかなり奥の方で――」

「この子、なかなか面白い力を持っていてですね。どうやら大気を固定することもできるみたいなんです」


 私は足元に転がる細石を両手で救うように拾い、言いました。


「見ていてください」


 私は手にした細石を空中へと放りました。

 小さな石たちはバラバラになって、宙を舞い、やがて地面へと落ちていきます――


「今です、スーちゃん!」

「すーちゃん⁉︎」


 眩く輝く胸のブローチ。

 ツッコミを入れてくる晃生さんを横に、私は両手を細石たちの方へと向けていました。


 崖の岩肌に、地面に、音を立てて落ちていくかと思われた細石たちは――――


「これは――浮いている……⁈」


 そう……石たちは全て、まるでその場に繋ぎ止められているかのように空中に留まっています。


「石たちの所だけ大気を“固定”してみました。

 どうやら、固定して維持するだけなら、かなりの力が出せるみたいですよ。この子」


 私はここまでの道中にわかったこと、決めたことを晃生さんに話しました。


「ここまでの道中、まるで語りかけてくるように光っていたので、なんとなく心の中で問いかけてみたんですよ。

 するとイエス、ノー方式で返事をくれて。まず“スーちゃん”と呼ぶ許可を本人から得たんです」


 名付けておきながらあれなんですが“空龍の吐息”と呼ぶと、どこかよそよそしい感じがするし……。


「そして、できるだけ負担にならないように力を使わせてね、と話をしていたら……どうやら大気を扱う場合には“維持”する方が得意らしいとわかって。」

「――時々妙に遅れるな、と思ったら……そんな事を後ろでやっていたのか」


 しょうがないやつだな、という雰囲気で、一つ大きめの息を吐きながら言う晃生さん。


「すみません……。

 というか晃生さん、その時のスーちゃんの声は聞こえてなかったんですね?」


 アーティファクトたちのしゃべる声は全て聞こえているのかと思っていた私は、ちょっと驚いて聞きました。


「アーティファクトたちの“声”にも大きさというのがあってな。

 製作者の性格に応じるのかなんなのかわからないが、トウマの手がけたアーティファクトたちは総じて声が穏やかだ。

 狭い室内ならともかく、こういうひらけた場所では直接意識して聞き取らないと聞こえないよ。

 あと、一応言っておくが“聞く”力を閉じることも可能だ。四六時、アーティファクトたちの声が聞こえてたら……なぁ……」

「なるほど……」


 アーティファクトの声が“聞こえる”というのも、なかなか大変なのですね……。


「じゃあ、ここまでの道中に実験してきたのも気づいてないですね?」

「そんなことまでしてたのか?」

「はい」


 私は胸を張って言いました。


「私や晃生さんの体重はもちろん、おそらくそれ以上の重さの物も中空に固定が可能です。

 一度固定したら、私が意識を失うかそれを解くまでその状態が継続するみたいです。

 ちなみに私と晃生さん、二人分のスペースなら丸二日くらいは維持できるらしいです」


 維持できるだけでそこから先、脱出は別の手を考えないといけないですが……

 なぜでしょう、全く不安を感じていない自分に少し驚きながら、私は話しました。


「そうか……。

 じゃあこのまま行ってみるか――」




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