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003. 消えた男と現れた男

「何者だって言われても――貴方こそ何者なんですか⁉︎ どうして浮いて――⁉︎」


 そう。その(ひと)は私を抱きかかえたまま宙に浮いているのです。

 怖くて見ることはできないけれど、私が足を踏み外した石段は、たぶん数メートルは下にあるはずで――


「なんで、と言われてもなぁ……」


 高いところが怖いわけじゃないですけど、人が身一つで宙に浮いているという状況が、理解不能で怖すぎです――!


「ん、まずい……奴が来る。すまぬが一人で立てるか?」


 男がそう言った直後、渦巻く風が私たちを包み込みます。


「――⁉︎――」


 景色が動く――私たちは風に運ばれて、すぐ近くにあったらしい開けた空間へと降り立ちました。


 そこには丸い形をした澄んだ湖と、その中に建つ立派な神社のお社――。


 そこは石段を登り切った場所にあるらしく、木々に囲まれた朱い鳥居の向こうに、石段の脇に立つ石灯籠がちらりと見えます。

 湖の奥には竹林があって、風に揺られ、葉の擦れるサラサラという音が絶え間なく聞こえてきます。


「こんな時間に聖域の外にいては、奴にどやされるのでな。ワシがお社の外にいたことは内密にしておいてくれ」


 聖域――?


 向かい合って立ってみると、頭二つ分くらいは背の高い男はそう言いました。そして次の瞬間、強い風が吹いて私は思わず目を閉じてしまいます。


「そこにいるのは誰だ⁈」


 石段の方から声が聞こえて目を開けると、目の前にいた男の人は消えていて、小さく渦巻く風だけがのこされていました。


 一体どこに――⁉︎


 辺りを見回すも、影も形も見当たらず。声のした石段の方を見ると……


 黒地に白色で家紋のような模様の入った、地につきそうなほどの大きさの布を纏った無精髭の男性が息を切らせながら立っていました。風になびくマントの下からは、神主のような服が見え隠れしています。


「お主……そんな手足を出した格好で何をしている⁉︎」


 手足を出した、って。半袖と七部丈のジーパンなのですが


「とにかくこれを被れ!」


 その人は、肩にかけている布を取ると、私の頭から被せました。


「今は毒虫除けのアーティファクトを使用しなければ神域の中でも安心はできん! 嵐も来るようだから、とりあえず社の中へ行くぞ!」


 その人は私の手を掴み、グイグイと引っ張って社の中へと入っていきます。


 中は普通の社とは違うようで、入ってすぐに段差があり、靴を脱ぎ入れておく場所までがある……神社ともお寺とも違う造り。この社は一体――


「マントはそこに掛けておいてくれ」


 草履のような物を脱ぎ揃えたその人は、靴箱横の上の方にあるコート掛けのような金具を指してそう言うと、社の奥の方へと行ってしまいました。


 その金具。かなり高い位置にあって、身長的にギリギリ届くかどうかといった高さなのですが……。


 何度か失敗しながらなんとかマントを掛け本殿の方を見ると


「すまん、届きにくかったか」


 すまなさそうな顔をしたその人がやってきました。


「いえ、ジャンプすれば届きますので」


 その仕草から、心の優しい人なのだろうと推察して、私はふんわりと笑顔で答えました。


 靴を脱いで上がると、そこはどうやら拝殿のようで、綺麗に磨かれた板敷きの床の両壁側に座布団が積まれています。


「嵐が過ぎるまでここにいるといい」


 神主らしきその人は、座布団を二枚持ってきて片方を私に差し出し言いました。


「ありがとうございます――」


 座布団をお借りして座り、私は背負っていたリュックサックを横に置きました。


「ところで、お主はどこからきたのだ? 湖の水質が落ちたことで、この辺は最近毒虫が発生しておると言うのに」


 歳の頃は20代後半くらい――でしょうか。まだそこまでな歳ではないだろうに、お爺さんのような喋り方でその人は言いました。


「私は――」


 私は、自分の名前と日天寺という名の場所を見にきたのだと説明をしました。


「俺は……一応ここの管理を任されてる者だ。正式な神主ではないが、似たようなことをやっている。歳は二十九、名は高樹晃生(たかぎこうき)という。

 しかし――日天寺? そんな名前の寺は知らんな……ここは龍の力を持つ石の神が祀られている『龍石神社』だ」


 龍石神社? 聞いたことのない名前……。

 わけがわからない。一体ここはどこなの――⁉︎


 ふと思い立って、ポケットに入れていたスマホを取り出して見ると、一番に目に入ったのは『圏外』という文字。


「…………」


 ネットがない――――


 自分では……そこまでネットに依存はしていないと思っていたけれど――


「何だ? その板は」


 愕然としている中、高樹さんの声が私の意識を引き戻しました。


「えっと――」


 スマホを知らない⁈


「色々な物事を調べたり、遠くの人と連絡を取ったりすることの出来る……」

 何でこんな――時代を遡ったか異世界に飛んだ人みたいな説明を私は……まさか――


「いえ……。そういうことが()()()道具です――」


「ほぉう、聞いたことのない物だな。新型のアーティファクトか?」


 まさか私が――流行りの小説みたいな状況に――――⁉︎

 ところで、先ほども言っていましたよねアーティファクトって。


「いえ――そういった名前の物ではないのですが……すみません、そのアーティファクトとはどういう物なのですか?」

「なに……藤崎殿はアーティファクトを知らぬと⁉︎」


 殿って。


「あの、高樹さん。せめてさん付けか呼び捨てでお願いしたいのですが」


 気になるアーティファクトの正体よりも、そちらの方が先のような気がして、私はすかさず伝えました。


「あ、あぁ。じゃあ……真美……さん?」


 とても呼びづらそうに顔をしかめて言う高木さん。

 なぜ下の名前。別にいいけれど……。


「呼び捨てで良いですよ」

「じゃあ俺の事は晃生、と」


 少しホッとした表情をして言う。


「すみません。私は年上の方を呼び捨てにする事はできませんので、晃生さん、と呼ばせてもらいます」


 今まで生きてきて、年上の方を呼び捨てにしたことなどないので。


 晃生さんは少し驚いた顔をしてからクスッと笑い言います。


「真美は何だか大人っぽいな。しっかりとした意思があるって言うか」

「大人に半分以上足を突っ込んでると思いますけど。もう少しで十九歳ですし」

「十九⁉︎」


 驚かれてしまいました。

 まぁ、私の身長は平均より低めの一五三センチですけど……。


「そ……そうか……そうだな、人は見かけによらないからな」


 ボソボソと小声で言っていますが、全部丸聞こえです。幼くみられるのは慣れているので、構いませんけど。


「そんなことより。アーティファクトという物の説明をしてください」


 真面目な顔で言う私を見て、晃生さんはその“アーティファクト”について話してくださいました。


 そして私は、再び愕然とすることとなったのです――――


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