037. 力尽きる、その時まで
ひとまず歩を進めよう、ということで、私たちは晃生さんの知る、源泉が地上に出ている場所を目指して、道なき道を進みました。
足元にはしっとりとした落ち葉や小枝があり、踏み締めるたびに、森の土の匂いがいっそう濃くなっていく気がします――。
鬱蒼と木々のしげる中、先を行く晃生さんが通りやすいように枝などを避け、私の歩調に合わせてくれているようでした。
そして少し木々の少ない所に出た時――
「……晃生さんはご存知ですか? 大きな気泡の入ってしまった作品が……年月が過ぎるとどうなっていくのか――」
先ほどの晃生さんとのやりとりから、知らないのかもしれないとは思ったけれど、私は聞いてみました。
「いや……知らない。実は実物を見るのも初めてなんだ……」
どうやら私の勘は当たったらしく、晃生さんは詳しい理由を話してくれます。
「気泡のあるアーティファクトで力の弱いものは、たいていがアーティファクトを使用する練習のために、子供のおもちゃになったりする。
そして力を失い役目を終えると“再利用のため”という名目の元、政府に回収される……。
力の強い物は神器として数々の神社や仏閣に納められていて、有事の際にしかお目にかかれない。
だから大きな気泡の入ったアーティファクトがどのように変化していくのかは……」
「そうですか……」
もしかしたら、変化をした後も力は弱らないのかもしれない……。けれど、力を失うこともあるというのなら――
「大きな気泡の入った作品にはどれも……ある一つの避けられない未来があるんです」
「避けられない未来……?」
それが理由で、どんなに素敵な作品でも、気に入っていても、長い使用には耐えられないかもしれない。
だから私も、他の作家さん達も、できる限り気泡が入らないように最新の注意を払っているのだと思っています。
「大きな気泡の入ってしまった作品は、年月が経つと、表面に影響が出てきてしまうんです」
足を置いたところに乾いた小枝があったのか、パキッという音があたりに響きました。
「気泡の大きさの分、表面が凹んできたり……ある物は背面に影響が出たりして、台座から剥がれ落ちてしまったり――」
「そうか……時々神器の入れ替えが行われているようだが、そういった理由も関係しているのかもしれないな……」
神器と呼ばれるアーティファクトでも……そうなんですね――。
「アーティファクトとして力を発揮することが、本体にどういう影響を与えるかはわかりませんが――……」
「おそらく、だが――――力を使えば使うほど、その寿命は短くなる、のだろうな……」
その可能性が高いことを示しているのか、晃生さんの言葉に反応するように、ブローチの光が不安げにゆらゆらとしている気がします……
「――伝えるぞ……『そうだとしても、自分はトウマに使って欲しい』
ソイツはそう言っている」
そんな――
「役に立てて嬉しいんだとさ……。
力を失っても、形は残る。
だから――力失うその時まで全力でトウマの力になりたい、と」
「――!――」
どうして……
「どうしてそこまで……?」
私の力になりたいだなんて――――
「大好きだからだよ、だとさ――。
手探りしながら、悩んで。大切に大切に作ってくれて……感謝しているんだと」
――――!
ただ作ることが好きで、作りたくて……私が勝手に作り出しただけなのに――――!




