028. 龍体文字、装束に秘められた力
私は聖水を小瓶に移し、ベルトに装着してから寝室を借りて着替えました。
小袖も袴も、よくみると着た時に隠れる場所に小さな、不思議な模様の刺繍が入っていました。
それぞれがアーティファクトの力を持つようで、ほんのりと輝いていたのですが――
「それぞれ輝きの色が違いましたね、模様ごとに違う力、なんでしょうか……?」
どなたの手の物なのかはわかりませんが、晃生さんの虫除けマントの刺繍とよく似た雰囲気を感じます。もしかしてお母様の――?
「やっぱりちょっと短いですね……」
まぁ、動きやすそうではあるのですが。
ベルトまで装着して、裾の長さを確認しますが、やっぱりふくらはぎの近くまでしかなく。
素足というのも微妙な気がして、浮腫防止に持っていた黒のハイソックスを履いてみました。
袴にブーツは大学の卒業式などで着られる方々もいるそうですが……。
私の今の格好は、赤い袴に黒のハイソックス、そして外に出る時、靴は歩きやすいように履いてきたスニーカー。
どうなんでしょうか……この世界では普通の服装の部類に入るのでしょうか……?
その時です、隣の応接室からガタンという大きな音が聞こえました。そして晃生さんの慌てるような声が――
「トウマ! 本家付近で虫が大量発生したみたいなんだ――俺は急いで本家に行ってくるからお前はここで待って――」
「行きます!」
私は晃生さんの声を遮って言いました。
応接室へのドアを開けると、目の前には深刻な表情をしている晃生さんが……
「一緒にいきましょう」
「――わかった……。
じゃあ、いくつか使えそうなアーティファクトを預ける。持っていってくれるか?」
「はい」
「力の説明は道中でするから、とりあえずそのポーチに入れて行ってくれ」
「了解しました」
晃生さんは、迷うことなく棚からいくつかのアーティファクトを取り出し懐に入れ、私にも渡しました。
そして私たちは、再び本家の方へと向かいます――
一往復しているとはいえ、足元にゴツゴツした岩があったりする道なので、私は晃生さんの後を追いながらも足元に集中して進みました。
「渡したアーティファクトは、毒に効く治療用のアーティファクト、銀細工の指輪と、飲料水を出すことのできるペンダントトップだ」
「では、治療と飲料水を配れば良いですか?」
「治療アーティファクトは聖水が足りなくなってから、でいい。
本家まで行ったら水さしを借りて、そこに小瓶一つの聖水と八分目まで水を入れるんだ。
コップいっぱいで、大抵の者の解毒ができるはずだから」
「了解しました――」
なるほど、聖水は薄めて飲んでも効果はある、と。
器用に木の枝を避ける晃生さんの後を、私はしゃがんでやり過ごしながら追いました。
「そうだトウマ、装束に入っている刺繍は確認したか?」
「はい、何の模様なのかいまいちわからなかったんですが……何か力もあるようでしたね。それぞれに違う力があるように見えましたが……」
規則があるようでいてなさそうな、不思議な模様を思い出しながら言いました。
「そうか――声は聞こえなかったが、力は保っているようだな……。
詳しい説明は省くが、それは龍体文字と呼ばれる文字だ」
「龍体文字……どこかで聞いたことがあるような気がしますけど――」
「それぞれの文字に意味があり、文字自体が力を持つ」
文字に力。ルーン文字なんかと似たような扱いの文字なのでしょうか……?
「俺も毒消し用に持ってきたが、装束には体力を上げるタイプのものが入っているはずだ」
晃生さんがそう言うと、ベルトから――いえ、おそらくベルトの下にある袴の紐先から赤い光が――――
赤い光が私を包み込むと、体が一気に軽くなったよう感じがしました。
この感じ……まるで自分の身体じゃないみたい――!
「あと……身を守る防御、思考をクリアにする、回復力を高める文字が入っている。
それらの力があることを意識しておくといい」
晃生さんがそう言うと、次々とカラフルな光が着ている装束から視えてきました。
まるで晃生さんの声に反応して、刺繍のアーティファクト達が一斉に騒めきはじめているみたい……!
あぁあぁあ。日付変更線をこえてしまったーーー!!
(0:25 in HU )
そして前話にイラストがまだ……!
そしてこの028.にトウマが装束を身に付けてるイラストも入れたかったのですがまにあわず_:(´ཀ`」 ∠):
いつかきっと……!
イラスト入れにきます……!




