027. 渡された装束
「政府の機関で発掘……?」
思わず聞き返してしまいました。
「現在でも地中に沢山のアーティファクトが眠っていると言われているんだが……政府は貴重な能力のアーティファクトを集め、有用な物をレプリカ化して世に広めているんだ」
なるほど……あちらの世界で言ったら石油のようなものかしら。
「そしてこれは……幼い頃に聞いた話なんだがな――母の実家も神職の家系で、本来政府の機関に協力する必要はなかったんだが。末の娘だということと、子供の頃から視る能力があった関係で、政府からの要請を受けたんだとか……」
少し寂しげに告げる晃生さん……。
その声はどこか機械的に聞こえて、何故だか心が少し苦しくなります……
「盗賊と出会して、やりあったこともあるらしい」
なんと――先ほどのお母様の立ち振る舞いからは想像もできませんね、そんな荒事までこなしていただなんて。
「……すごい方、なんですね――」
「怪我することもよくあったそうで、この部分は聖水を入れた小瓶を装着してたそうだ」
何かを固定する物だと思っていた部分を指して晃生さんが言います。
なるほど、まるでポーションのように。
よく見ると細かい傷がついていて、そのどれもが手入れされていて目立たなくなっています。
「あら……少し光って――? もしかしてこのベルト、アーティファクトですか?」
「あぁ。装着者の身を物理的に守る能力があるらしい。外に出るのが久しぶりすぎて混乱してるみたいだな……トウマのことを母上と勘違いしてたようだ」
私と彼女の共通点は。長い黒髪くらいしかないのですが。
「初めましてお嬢ちゃん。よろしく、と言っている」
くすくすと、晃生さんが楽しそうに笑います。
「お母様は何故このような物を……私に貸してくださったんでしょうか……」
意図が読めなくて、ちょっと困惑してしまいます。
「たぶん……風輝から話を聞いたんだろう。
風輝が感じたトウマの能力と印象。もしかしたら“利用価値がある”と思われているのかもしれないな」
利用価値って――。
「巫女装束とこの子……このままお借りしておいて大丈夫だと思います……?」
服とアーティファクトを貸したのだから何かをしろと言われるかもしれない。
それも何か厄介なことをやれと言われそうで、私は少し悩みました。
「大丈夫だろう。たとえどんな無茶なことを言われても、トウマならちゃんと判断して断ることもできるだろう? 判断に迷うものはもちろん俺も相談に乗るし」
晃生さんにキッパリとそう言われ、
「――努力はします」
そうして私は、巫女装束に袖を通す覚悟を決めました。
「ところで、その箱は何が入っているんですか?」
テーブル、風呂敷包みの横に置かれた小さな木箱。先ほど晃生さんが棚から出した物ですが、中に何かアーティファクトが入っているらしく、ゆらゆらと黄色い光がゆらめいて見えます。
「これはだな……」
蓋が外されると、中には小さな毱が入っていました。
地糸は水色で、金、薄紫、薄い桃色で桜の模様が形作られています。
「……可愛い毱ですね」
「使われている糸の長さの分の距離まで、声を届けることができるアーティファクトだ」
まるで電話のよう――。
糸の長さで距離制限があるようですが、ここまで小さければスマホのように使えそうですね――!
「それで本家に連絡を取るのですね?」
「あぁ。俺はこれで本家に虫の事を伝えるから、トウマは着替えてくるといい。あと――」
そう言うと、晃生さんはキッチンの方へ行き、何かを持ってきました。
テーブルの上に置かれたのは、龍石から頂いた聖水の入った瓢箪と、小さな小瓶が三つ。
「聖水をこの小瓶に移して、ベルトに装着しておくといい。聖水は虫の毒にも効くから」
聖水まで装備したら。お母様の若い頃と同じ能力を要求されてるような気分になってしまいますが……
私は私です――他の何者にもなれはしない。
薄れていた、元の世界に戻れるのかという不安を再び、ほんの少し感じながら、私はそう自分に言い聞かせました。
「――わかりました」
挿絵、後ほど入れにきますー!




