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025. 心に芽生えた疑問

「これで大丈夫だ。

 ただ、自動で電気が点かないから、日が暮れ始めたらこれを使おう」


 言いながら晃生さんは靴箱の棚の中から蝋燭と燭台を出しました。


「じゃあ、俺は寝室のほうに行って布団の用意をしてくるから、トウマは冷蔵庫に食料を入れてくれるか? 終わったらその風呂敷の中身でも確認しててくれ」

「――わかりました」


 たぶん……晃生さんは私が話そうとすることを避けている……ような気がします――。


 でもこの生まれた疑問は、自分の中だけでは解決できそうにありません……


 モヤモヤを抱えたまま私は食材の入った籠を開きました。野菜やお肉、果物に、そしてお米が入ってるらしい袋が入っています。


 自炊……あまり得意ではないですが……。頑張らねば――。


 冷蔵庫は小さいながらも冷蔵と冷凍に別れていて、冷蔵庫の中には何かの飲み物と果物、そして氷が入っていました。


 私はお米以外のものを整頓しながら冷蔵庫に入れました。


 風呂敷包みを持って応接室に行くと、アーティファクト達の柔らかい光が心地よく感じます。


「またお邪魔します」


 私は誰にともなくそう呟きました。

 あぁ……私もこの子達と会話ができたらいいのに――――


 応接室のテーブルで、本を横に置いて風呂敷包みを開きました。するとそこに入っていたのは、白い小袖に臙脂色の袴が二枚ずつ――


「……巫女装束……?」


 どこか懐かしい気がするのは、この間の夏祭りでのことを思い出したからでしょう。バイト先の近くにある神社で、おみくじ授与の手伝いをさせてもらったので。

 ただ……袴の裾が短めな気がしますね。これはこれで、動きやすそうですが――。


 そして一番底には、革製のコルセットのような形状の物が。


「革製の……ベルト……でしょうか?」


 それには小さなポーチや、金属製のダブルリング、何かを固定するためであろうパーツがついています。


 その時、隣の寝室からカラカラカラ、と窓を閉じる音と「どっこいせ」という晃生さんの声が聞こえてきました。


 晃生さんに聞いたらわかるでしょうか、これの使い方。

 ですが――お貸しいただいた服がまさか巫女装束とは……。


 私はテーブルの上にそれらを広げたまま、寝室の方へと行きました。


 すると寝室の障子が開いていて、小さな庭のようになっているスペースが見えます。そこには物干しスペースもあって、晃生さんはそこに布団を干していました。


「何か手伝いましょうか?」

「いや、大丈夫だ。これで終わりだから」


 私が縁側から声をかけると、晃生さんはそう言いながらこちらに戻ってきました。

 ふと空を見上げると、ほんのり虫除けアーティファクトの光の色、オレンジがかった光の膜のようなものが庭を囲っているのが見えます。


「この庭にも虫除けアーティファクトの効果が届いているのですね……?」

「あぁ、その木でできた塀に長い組紐を渡してあって、それが境界となるようにしてある」

「――――」


 得意げに言う晃生さん。

 この技術もおそらく本家では認められていないのでしょう……どうして――


「どうして本家の方々は晃生さんを……ちゃんと見ようとなさらないのでしょうね――」

「……それはさっきも言ったが……俺のした事がそれだけのコトだったと言う事だろう」


 晃生さんは寝室から応接兼作業室の方へ行きました。


「では――――」


 私は部屋の入り口に立って晃生さんの方を見ながら問いかけます。


「何故、晃生さんはここに……本家にいるのですか……?」


 晃生さんの能力を認めず押し殺している本家の方々もおかしいですが、晃生さんは何故ここから飛び出そうとしていないのか。


 アーティファクトが生活に欠かせないものというのなら……晃生さんの作り出した新しい技術は様々なところで活用されていくもののはずなのに――



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