024. 晃生さん作“特殊アーティファクト”
襖の向こうに人の気配が――。そして、
「失礼します、朝食をお持ちしました」
どうやらお手伝いさんが食事を運んできてくれたようです。
朝食のお膳が運び込まれると、部屋には魚の焼けた香ばしい香りと、心落ち着く味噌汁の香りが広がります。
「ありがとうございます」
向かい合うように設置されたお膳と座布団。
私たちは、ひとまず食事を済ませることにしました。
美味しいご飯に世界の違いは感じられず……。今日、今、無事にご飯が食べられるありがたさを噛みしめて――
他にはどんな本があるのかなど、たわいのない話をしながら朝食をいただきました。
そして食後――
「とりあえず離れに戻ろう。色々準備もあるから」
そう言うと、晃生さんは作りかけのブレスレットといくつかの物を袂に入れました。
「トウマもそこから本を持ってくるといい」
「はい――ではお借りします」
私はいくつかの本を選んで、お母様から渡された風呂敷の上に乗せて持ちました。
「本当にいいのか? 食料を持ってもそれくらい一緒に持てるぞ?」
「お借りしたのは私なので、私が持ちます。
大丈夫ですよ、これくらいなら」
服と本が三冊。離れまでの道は、上り坂にはなるけれどそう遠くはないので。
「それより、スミマセン。私のお膳まで持っていただいて――」
晃生さんは、お膳を重ねて持ってくれています。
「重ねられるし、一つも二つも一緒だよ」
そう言うお顔は、にこりと優しい笑顔……
無精髭で随分と印象が変わるのでしょうけど、晃生さんの中にお母様の面影を感じて――あのお母様もこんな笑顔でいれば良いのに、と思いました。
朝ごはんで話が中断して良かったかもしれません――。心に感じていたモヤモヤが少し収まっているのを感じます。
台所へお膳を返し、勝手口の所に用意された食料を持って、私たちは離れへと向かいました。
道中、虫の群に遭遇しましたが、お借りしているマントと晃生さんが装備している虫除けアーティファクトのおかげか、一メートル以内に近づいてくることはなく。
「離れまでの道にまで虫の群れが出るのか――後で本家に連絡しとかないといかんな――」
「あれが大量発生したという毒虫なんですか?」
「あぁ……。一匹に刺されたくらいならそこまで問題はないんだが、複数刺されると身体が痺れやがて鋭い痛みに襲われ、命に関わる状態にまでなる――」
それを聞いて、あんな大群に囲まれて刺されでもしたら――と、ゾッとしました。
「先に入ってくれ」
離れに着くと、晃生さんに促され私は先に室内へと入りました。
晃生さんも中に入りドアを閉めると、ドア枠のすぐ横にあるポストくらいのサイズの箱の小さな扉を開き、そこに虫除けアーティファクトを入れました。
「その箱……アーティファクトですね?」
見た目は普通の木箱ですが淡く光を放っているます。内部に何か仕掛けがあるのでしょう……一体どんな力を持つのでしょうか。
「あぁ。俺の作った――特殊アーティファクトの一つだ」
特殊アーティファクト……素材の持つ力と関係ない力を発揮する例外アーティファクトと同じでしょうか?
「この箱に入れることで、箱と中に入れたアーティファクトが『一つのアーティファクト』として起動するんだ」
二つのアーティファクトを同時に使うことはできない。けれど、そんな方法が――!
「本人の希望もあって増幅匣、増幅くんと読んでいるが。
入れた物は、この離れ全体に一定時間効果を及ぼす能力を持つ。
普段は電源アーティファクトで明かりが自動で点くようになっているが、今は虫除けアーティファクトを入れたからこの離れの中にいる限り、虫は入ってこない」
晃生さんがその小さな扉を閉じると、箱から出た光が、離れ全体へと移っていきます。
すごい――――




