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023. 爪弾きの理由

 もし私が口を開けば。何を言っていたかわかりません――。


 私は終始にこやかな表情で、お母様が部屋から出ていくのを見送りました。


 すすすっと襖が閉められると、晃生さんがこちらを向いて申し訳なさそうな顔をして言います。


「すまないな……離れで一緒に寝泊まりすることになって……」


 そんな些細なこと――


「それは全く問題ありません」


 即答した私を驚いた顔で見てくる晃生さん。


「それよりも、お聞きしたいことがあります」

「……なんだ……?」

「晃生さんは新しい作品を……アーティファクトを作るな、と言われているのですか?」


 私は晃生さんの瞳を見つめながら言いました。


「――あぁ……独自の、これまでにない物を作るな、と言われている――。

 けどな、しょうがないんだ……」


 晃生さんは真剣で、けれど少し悲しそうに続けます。


「あれは五歳くらいの時だったかな……そこら辺で拾った綺麗な石を磨いて、家紋の彫りを入れてペンダントにしたんだ。母の日にプレゼントしようと思って――」


 そんな子供の頃から物作り好きな一面が。


「出来上がって、渡す日までバレないようにと肌身離さず懐に忍ばせていたんだが……。

 その頃、近辺では停電が多発していたんだが、家だけは停電になることがなく。不思議に思った本家の人間が調べたんだ」


 電力――も、アーティファクトで賄っているのでしょうね、この話を聞く限り。

 どんな仕組みなのか気になりますが、今は晃生さんの話に集中です。


「すると、そのペンダントが仲介となって電力を家に引き込んでいたことが判ったんだ」

「すごい力のアーティファクトじゃないですか」


 褒められ、もてはやされ、次々と製作依頼がくる――ようなものだったんじゃないのでしょうか。


「そうなんだが、な……その拾った石というのがな…………」


 一気に表情が曇って晃生さんは下を向いて言いました。


「電気仲介用アーティファクトの一部だったんだよ……。

 停電の原因を作ったのは、アーティファクトを盗み、闇市で売り捌く犯罪組織で。拾った石はその組織の落とし物――電気石と呼ばれる物で、盗まれた電力仲介アーティファクトの一部だったんだよ……」


 なんと……まぁ……


「でも……五歳の子供にそんなこと――」

「それは楕円で少し平べったい形の黒い石だったんだが……仮にもアーティファクトの一部だった物。もしアーティファクトの光が見えたのなら、そういう物だと判ったはずなんだ……」

「そんな――」


 そんな理不尽な……!


「それからだな。目に見えて俺への当たりが強くなったのは……。まぁ当然なんだが」

「当然――なんかじゃないです! 視える視えないで言ったら、視えない人たちもいるのでしょう⁈」

「ははっ……ありがとうな――」


 乾いた笑い声。晃生さんは少し顔を上げて言いました。


「一族の催し物や公式のものも、それ以来参加させてもらえなくなったし、視る力がないため、当主からの教えも受けることかなわず。

 だからこの本家で……この宮司の一族で、祈祷やお祓いができないのは俺だけだ」


 宮司の一族――それがそこまで特別なことなのでしょうか――――。

 宮司とは、この世界では――


「視えないとできない仕事、なんですか――?」

「――視えたら対処がしやすい、職ではあるな」

「それなら晃生さんだって――」


 アーティファクト達の声が聞こえているじゃないですか、と、続けようとしたところ――


「失礼します、朝食をお持ちしました」


 お手伝いさんが食事を運んできてくれたようです。


 朝食のお膳が運び込まれると、部屋には魚の焼けた香ばしい香りと、心落ち着く味噌汁の香りが広がります。


「ありがとうございます」


 向かい合うように設置されたお膳と座布団。

 私たちは、ひとまず食事を済ませることにしました。


 そして食後――――




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