011. ライカを託して
「晃生さん!」
私はライカを手に飛び起きて、晃生さんを起こしに行きました。
私が動くと室内の電気が自動で点き、何だか違和感を感じました。が、人感センサーでもついているのだろうと思い、ソファで眠る晃生さんの両肩を掴んで揺さぶります。
「起きてください、龍石が大変です!」
「……んん……なんだって……?」
眩しそうに、ぎゅっと目の周りに皺を寄せて晃生さんが言いました。
「龍石から連絡が来ました。晃生さんと私に来てほしいと――龍石を狙う者が神域に侵入してくるそうです!」
「――なんだって⁉︎」
晃生さんは寝ぼけまなこで起き上がると、棚の中をあさりながら言います。
「連絡が来たって、どういうふうにだ?」
「どういうふうにって――」
“夢の中で”としか言いようのないその現象。もし逆の立場だったなら、絶対に訝しがると思って、私は言い淀んでしまいました。ですが――
「夢で――」
ふと見ると、ライカの光が何かを心配するようにゆらゆらとしています。
「そうか――トウマ、お前に扱えるかはわからんが、コレを持っていけ」
そう言いながら、晃生さんは棚から出したアーティファクトの一つを私に渡しました。
手の上に乗せられたソレは、まるでシャボン玉のようなツヤのある半球のついたキーホルダー。
「身を守る結界を張ることができる。火、水、風、あらゆる攻撃を防いでくれる」
角度を変えて見ると、中の方に何かが入っているようだけれど、ハッキリとは確認ができません。
「――物理的なものは?」
「拳程度なら。刀は避けるのが正解だ」
「了解しました」
「虫にも有効だから、道中にでも試してみてくれ」
「はい」
私はキーホルダーをポケットに入れ、ライカを首から下げました。
「冷えるから上着を着ていけよ」
棚から出した子達を懐に入れながら晃生さんが言います。
「わかりました」
急ぎ布団のところに戻り上着を羽織ると、枕元に置いていた自分のリュックが目に入りました。
もしかしたらあの子達も何かの力になるかもしれない――
私はリュックから、持ってきていた作品たちの入ったポーチを出して肩から掛け、虫よけマントを被った晃生さんと共に、龍石神社へと向かいました。
まだ暗い山の中の坂道。
晃生さんのスピードについて行くことは無理だと感じて、私は言います。
「晃生さん――私のことは気にしないで先に行ってください!」
「だが――」
小屋から出て数分。情けないかな、すでに私の息は上がっていました。
「場所は――わかります。ここからでも龍石神社の光が見えるので――!」
森の向こうの空に、ぼんやりと光るモノが見えていた私は、その方角を見ながら言いました。
「いや、そうじゃない。トウマに何かあったらどうするんだ!」
「――――」
今狙われているのは龍石で、私は自分に危険が迫るかもしれない――などという想像は全くしていませんでした。
晃生さんに言われた今も、全く危機感など感じず――
「――私の事は心配いりません、今危険が迫ってるのは龍石だけです」
「何故そう言い切れる?」
こればっかりは私にも説明ができないんですが――。
「信じてもらうほかないんですが――勘です!」
説明できないにもこれは酷すぎる。私は自分の口から出た言葉に一人苦笑しました。
すると、晃生さんが立ち止まって言います。
「結界は張れるか?」
そうだ、試してみないと――
私は肩で息をしながらポケットからその子を取り出し、心の中で語りかけます。
(お願い、晃生さんに安心してもらうためにも、今あなたの力を貸して――!)
すると、私を包み込むように淡い光が出現し、木々のざわめきが遠のいて静寂に包まれました。
「――!――」
光が収まると音は戻り、少し白っぽい虹色の膜がドーム状に私を包んでいました。
すごい! まるでシャボン玉の中にいるかのような……そして綺麗――――
膜で晃生さんの表情は確認できませんが、これで少しは安心してもらえたでしょうか……?
「――わかった。ならば先に行くが……気をつけてこいよ!」
「はい。晃生さんライカを持って行ってください。龍石が少しでも早く自由に動けるように――」
私はライカを首から外して晃生さんに差し出しました。
「善処する」
そう言ってライカを受け取ると、晃生さんの纏うアーティファクトの光が変化しました。淡い緑色から赤い光へと。
そして、さっきの倍以上のスピードで走っていく晃生さんは、あっという間に見えなくなりました。
「あの赤い光がバフ系の能力のアーティファクトなら……色で、大体の能力が判断できるんでしょうか……?」
だとしたら面白い。
もっと……もっとアーティファクトのことを知りたいです――――!
研究好きな自分の性が気持ちの上に出てきて、私は苦笑しました。
私が行って、役に立てるのかはわかりませんが、急がなければ――。
数回深呼吸をして、私は晃生さんの後を追いました。先ほどより少し速度を落として。
龍石神社がゴールじゃない。到着して、その後に起こるコトに対処するのが目的なのだから――!