010. 助けになりたい
「一般的なアーティファクトは、使われている資材で力の方向性が決まる。
現在ではその性質を活かして、効果を狙って作られるのが主流となっているが――特に“オリジナル”と呼ばれる古代アーティファクトにおいては、イレギュラーが散見されている。
その原因が“作り手の想い”だ」
「なんだか……ややこしいんですね――」
でも確かに……ライカは内包物が無いタイプのレジン作品です。レジンがこの世界でどのような力を持つのかは知りませんが……作り手の想いが力に反映される、というのは理解できる気がします。
なぜなら……その見た目と、写真から受けたイメージを全て反映するように作っていましたから――。
けれどそれと同時に“このままではただの模倣作品。もっと何か手を加えて、自分の作品として胸を張れるようにするんだ”と思ってもいました。
「ライカは……ドラゴンの名を持つ作品で、浄化の力を持つことから――龍石の力になることができた、ということでしょうか……」
「だろうな。“浄化”が悪い状態を軽減することに繋がっているんだろう――」
悪い状態の軽減――。それは少しでも龍石の寿命を伸ばすことに繋がるのでしょうか……?
「なぁトウマ……根本的な問題解決にはならないが――ライカをもう一つ作ることは可能か?」
「それは――」
最低限の制作資材は持っています。
何故なら京都に来る道中、よってきたお店でお『お買い得セール』となっていた資材を買ってしまったので。
荷物になるし、旅行でだいぶ資金を消費してしまうので、悩んだのですが……購入して、リュックサックに入れたままになっています。
ただ――硬化するためのライトがありません。太陽光を利用するなら――
「お天気次第になりますが……二、三日ほどいただければ――。
龍石の力になれるのなら喜んで……!」
「ありがとうな――」
それから私達は、私が不審者ではないと周りの者に証明しておくため、明日は母屋の方へ行くことを決めました。
「すまないな、うちは一応神職に携わる家系でな……俺は長男なんだが、視る力がなくて跡目からは外されていて。こうやって一人気楽に暮らさせてもらっているが――」
なるほど。それで神主さんのような服装なんですね。
「母屋の連中が厄介でな。事情を通しておかないと、トウマに危険が及ぶかもしれんから……」
「……いえ、ここにおいていただけるだけでもありがたいので……」
お家騒動、とかいうやつでしょうか……?
できるだけ晃生さんの迷惑にならないようにしなくては――。
その後、晃生さんが用意していた夕食を分けていただき、晃生さんは応接用ソファで、私は引いてあった布団をお借りして眠りにつきました。
「私がソファで良かったのに……」
私の身長ならすっぽり収まるから、私がソファで寝ますと言ったのに、晃生さんは「客人をソファで寝かすような真似は出来ん」と言ってそれを頑なに拒否して。
「状況的には客人じゃなくて居候だと思うんですけど」
そう呟きながら目を閉じると、ふわりと感じる畳の香り。
大変な状況……帰る方法がわからないことに変わりないのに、不安感がだいぶ薄れている気がします……。
くるりと横を向いて薄く目を開くと、枕の横に置いたライカがふわふわとした光を放っていました。
晃生さんと、あなたのおかげでしょうか……
「――ありがとう――」
再び目を閉じると、私はいつの間にか眠りについていました。
『――おい、お主。聞こえておるか? おい――』
どれくらい寝たいたのでしょう、遠くから聞こえる声に、私は薄目を開きました。
靄のかかる森の中……? 木と土の香りが漂って――
この香りは……つい最近どこかで――――
『おい、聞いてくれ。
我の力を狙って神域に侵入しようとしている者がいる。なんとか阻止してくれ――晃生とお主、それにお主の首飾りならそれが可能なはずじゃ。
頼む――!』
この声は――!
私は一気に覚醒し体を起こしました。
目をしっかり開くとあたりは暗く……鼻に香るのは畳の香り――
「夢――?」
私は目を擦り、もう一度暗い室内を見回します。すると――
枕元に置いているライカの纏う光が、リズム良く点滅していることに気づきました。
「ライカ……もしかして――」
あの夢は本当に――⁉︎
「ライカ、龍石に危険が迫っているんですか?」
手に取り話しかけると、ライカの光はリズム良く三回点滅しました。
イエス――――!