九幕 氷の女王と駅
それから電車に揺られて一時間。
こんなに時間がかかってしまったら、もう勇作は同じ場所にはいないだろう、という気が氷の女王にはしてならなかった。あの広くてごみごみした横浜駅周辺を探し回るのは、海に落ちた針を見つけ出すようなものだ。
氷の女王は責任を感じていた。気が重たかった。あんな風に私は振る舞うべきではなかったのだ。もっと対等に、もっと優しくしてやればよかった、そんな後悔が次から次へと湧き出てきた。
ガタ、ゴト、ガタ、ゴト。
電車が揺れる。氷の女王は同じ考えをぐるぐる回り続け、自分を責め続けた。
☆
横浜駅のホームで降りると、人の多さに圧倒された。来たことはたびたびあるが、こんな状況ではない。
けれど、案外あっさりとぼくは見つかった。ホームを下り、中央の改札口が見州する中央通路で、逆方向から歩いてくるぼくと目が合ったのだ。それから、氷の女王は反射的に走った。乗客に何度もぶつかり転びそうになった。やっとのことでぼくの首根っこを掴むと、
――「あんた……なんで逃げるのよ」
――「ごめん……」
――「……私の方こそ、ごめん……」
ぼくの手にぶら下がっていたのはヨドバシカメラの紙袋だった。ヨドバシの場所を知ったのはCMだ、それから、ぼくたちは帰りの電車に乗った。車内でもぼくたちは無言だった。
氷の女王はしばらく気まずそうにしていたが、
――「何買ったの」
――「絵、描くやつ」
――「そっか」
――「高かった」
――「あんた、えらいね」
――「うん」
――「あんた……あんなに友だちいたんだね」
――「うん」
――「最中、余ってるけど、食べる?」
――「食べる」
ナメんな、と言って氷の女王はぼくの頭を小突いた。
こつんと、氷の女王はぼくの額を打った。
了