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氷の女王  作者: 中川 篤
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五幕 氷の女王と客人たち



 その日は、桜おばさんの元居た会社の人がやってくる日だったので、氷の女王は早めに帰途についた。「会社」のひとは週に何度か家にやってきて彼女たちの世話を焼いてくれる。


 その皆川さんは、もともとは定期的に桜おばさんの描いた絵を取りに来たり、催促をしに来る間柄だった。

 けれど桜おばさんが病気にかかって失明して絵筆を握れなくなってからは、言葉使いもずっとフランクになり、これまでにはなかった栗まんじゅうやシュークリームを差し入れに持ってきてくれるようになった。


 そのことが氷の女王には嬉しくて仕方がない。


 (おばさん……好かれてたんだな)


 と、思えるからだ。


――「元気、きよちゃん? どう、桜さんの調子は」

――「あ、はい……いつもありがとうございます……いつも、こんなにしてもらって」

――「いーのいーの、それよりさ、桜ちゃんいる?」


 と言いながら、皆川さんは一歩踏み込んで、


――「オーイ、来たぞ! さしいれ!」

――「今、……ちょっと寝てるみたいです」

――「そう? 仕方ないな。太るぞって言っといてよ。これ最中。先週、弘明寺で買ったやつ。おいしいからあとで皆で食べて」


 騒ぎを聞きつけ、二階からswitchを放りだして、ぼくは下におりた。眼が上気して、輝いていた。最後の段を下るところで盛大にずっこけ、すごい音を立てて滑り落ちるように階段を踏み外した。


――「だいじょうぶ⁈」

 皆川さんが悲鳴をあげる。氷の女王はにわかに活気づいて、

――「あ~何やってるのよ! ケガない?」

――「だいじょうぶだよ」

――「駄目。しっぷ取って来るから。貼っときなさい。そこで待ってて」

 そう言って、救急箱を取りに向かった。皆川さんはくすくす笑い、

――「いい、お姉さんだね」

――「そんなことないよ。最悪だよ」

――「いつも見てるけど、きよちゃんはやさしい子だよ」

――「ええ~」

 重たそうな救急箱を持ってきて、氷の女王は玄関口の床にそれをドカッと置いた。「見せて」という。

――「自分でやる」

――「じゃあやんな」


 なにかを思い出したように、ピンと反応すると、皆川さんが口を開いた。


――「じゃボクは会社に行くから。……実は今『作品』を作ってるんだけど、よかったら、見てよ。きっといいものになると思うんだ」

――「見るよっ!」

 自分でもビックリするような声が出た。

――「いつも本当にありがとうございます……あの」

――「いいっていいって~。もっと砕けてよ~。その方がボクもうれしいよ。パンフレットお菓子の箱にいれとくから、見てね! じゃっ!」

 皆川さんがドアを閉めると、二人はしばらくそこに立っていて、会社のワゴンが次の目的地に向かう音を聞いた。それから思いだしたように桜おばさんがリビングのソファから起きあがって玄関にやって来た。

――「今、皆川さんが来てたよ」と、氷の女王は言った。もらったお菓子を食べるためにリビングに向かった。


       ☆


 四時ころ、友だちがやって来た。変わりものの集まりといった感じのグループで、ぼくはその中で結構生き生きしていた。

 夜になってささいなことで喧嘩して、次の日の朝、氷の女王は、ぼくは学校へ行ったものだと思った。その日のお昼ごろ、校内のベンチにいるとき、取り乱した桜おばさんから電話がかかってきた。

――「勇作が、学校に行ってないって」




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