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氷の女王  作者: 中川 篤
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一幕 氷の女王といちごフラぺ



 姉ちゃんの話をしよう。

 姉ちゃんはぼくたちにとって保護者のようなもので、仲間内じゃ『氷の女王』なんていう名前(ぼくは死ぬほど嫌だったけど)を頂戴していた。誰かが勝手に言い出したことなんだが。

 彼女――氷の女王は、そのことを最近になるまで知らなかったらしいが、友人から聞かされて知ったときには割と取り乱して、顔を真っ赤にしていた。


 氷の女王(名前は本人の希望で伏せるが)が町を歩くと、いつでもうわさ話にぶつかる。


――病院……親の介護……バカ……テストがヤバい……。


 確認してみる気も起きないが、こういう断片的な言葉はいつでも自分のことを喋っているように聞こえる。氷の女王はバカだが頭脳はとびきり明晰だったから、ぼくたちが思うようなことより、一歩踏み込んだことをそこから導き出していたんだと思う。



 もうこんなことには慣れっこだった。ハエは放っておくに限る。

 それでも背中でもぶつかってきたら、そいつに地獄を見せてやろうと氷の女王は身構えた。が、自分の背後に三グループはある噂をペラペラしゃべっている集団は、つかず離れず、客一人分の距離を置いて、こちらを見ていないようなふりをしながらスタバの行列にならんでいる。


――「だから田舎は嫌なんだ」氷の女王は思う。「こんなとこ、ホントは用ないくせに」


 彼女が「氷の女王」といわれる所以。

 心配そうな顔を浮かべるスタバの店員から(別に何もありませんよ?)みたいな平然をよそおい、新作のいちごフラぺを受け取ると、通りすがりざま連中を一瞥する。

 心底いやそうな、軽蔑しきった眼――氷の眼(ブリザード・アイ)で。


 (死ねッ!)


 一瞬、辺りが静まり返った。シーンという擬音がつきそうだった。集団は胸をわしづかみにされたように押し黙ってしまい、氷の女王は彼らを完全に無視して、奥の人気のいない通路側の席に陣取った。


       ☆


 言葉の波が引いたのはだが一瞬だった。氷の女王が見えない席に移動すると、すぐさま声が追っかけてきた。

 彼女の態度に反感を起こしているらしい。さっきまでの声と違い、今度のはとても分かりやすい反応だった。

――「何あれ……」

――「ヤバ……」

 氷の女王も一介の女の子なのでもちろん傷つく。でも相手は低俗な奴らだし、どっからどう見ても自分が正しい、悪くない、それに心に受けた傷より腹立ちが勝っていた。だが、


 (ほんとに、自分のことだったのかな?)


 というような気持ちが少しだけ芽生え、氷の女王は素早くそれを抹殺した。そして、

――「バカじゃないの」と、ハッキリ言った。




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