男子校の姫はどうしても離れられない【その2】
薫がクラシックな調度品が並ぶ重厚な書斎に入ると、父は椅子に座って待っていた。
いつもは優しい父親だが、今日はどこか空気が張り詰めている。
「薫、座ってくれ」
「パパ、どうしたの? なんか雰囲気違くない?…もしかして、お見合い話でも持ってきたとか?」
父親の雰囲気を和らげようとにこにこと冗談めかして言った薫に父は静かに頷いた。
「あぁ、そうだ。だが、見合い話と違って拒否権はない。お前の婚約が決まったよ」
「…はぁ?」
父の顔はいつになく真剣だ。
嘘や冗談の類いでないことが息子の薫には分かってしまう。
「末っ子のお前には兄3人にはさせてやれなかった自由を与えたいと常々思っていた。だが、どうしてもこの婚約だけは受けてほしい」
「絶対に嫌!他のことならなんだってやるから!…だって、俺好きな人がいるのに…」
「今、会社がどうしても必要としている特許があるんだ。そのライセンサーが契約条件としてお前との結婚を提示してきた。我が結城グループの未来、いや、何万人もの従業員の生活がかかっている」
父の言葉が重く胸にのしかかる。
巨大企業を経営する家柄に生まれた者として、会社を、そして社員を守ることがいかに大切かはよく分かっている。
理解ができないわけじゃない。
でも、すぐに納得なんてできるはずもなく。
薫はその場を飛び出し、1人部屋に篭り、一晩中泣き続けた。




