男子校の姫はどうしても誘惑できない【前編】
「…お帰りなさいませぇー、お嬢様ぁー」
どこか眠たげな目元をした長身の青年、宗田紡は面倒くさそうに客に決まり文句を口にする。
こげ茶のパーマはこの日ばかりは綺麗に整えられ、執事服に身を包めば、怠慢極まりない接客であろうとも他校の女子たちの歓声を腐るほどに浴びていた。
そしてそれを見た同級生の男子たちからは当然のごとく野次が飛ぶ。
カオスである。
宗田紡はこの男子校でもトップクラスのルックスと成績の持ち主だ。
けれども、テンションは常に低空飛行。
いや、それどころか地面すれすれ状態。
いわばダウナー系男子である。
「はーい!次のご案内、どうぞー!お帰りなさいませっ!ご主人様っ!…ってなんで俺ばっかり叫んでんだ!おい宗田、お前も気張って声出せ!」
紡が所属する3年A組は学園祭でメイド&執事喫茶を開催している。
同じく受付を担当するクラス委員の三好がメイドの格好で声を張る中で、紡はずっと無言で立ち続けている。
しかしながら、次の客を見た瞬間、眉間に皺を寄せた。
「おい…、なんでお前が客として並んでんの?」
「ふふっ!紡、驚いた?それと今はお客様だよ、わ・た・し!」
そこに立っていたのはメイド服を着た美少女、もとい美少年。
この男子校の姫である結城薫だ。




