男子校の姫はどうしても勝てない!
「ねぇ、紡!今日も送ってって!僕、重い荷物持てないから!」
放課後の教室で結城薫は当然のようにそう言って、仁王立ちしている。
この男子校には2人の姫がいる。
1人は茶道の家元の息子である八木護。
もう1人がこの結城薫である。
彼は大企業の御曹司であるとともに、誰もが認める可愛らしい容貌の持ち主だ。
しかし、性格は高飛車かつワガママで、決して良いとはいえない。
「…お前さ、毎日それ言ってるよな?」
足を組みながら椅子に座っていた宗田紡は薫の顔を見ると、面倒くさそうに片眉を上げた。
制服のネクタイも緩く、シャツのボタンは上2つが開けられている。
パーマがかった前髪が目にかかったダウナーなイケメンだ。
「だ、だって、仕方ないでしょ!荷物持てないもん!」
「今、持ってるだろーが」
「なっ!紡のくせに生意気だ!」
薫は唇を尖らせるが、紡は全く聞く耳を持たない。
痺れを切らした薫は紡の手を引っ張る。
その指先は意外と力強い。
「姫ってのは自分で荷物を持って歩かないもんなのか?」
「別に姫だから荷物を持たないんじゃないの!姫には騎士が必要なの!」
「俺はどう見ても騎士ってタイプじゃないだろ…」
ため息混じりにそう言いながらも、紡はゆっくりと立ち上がる。
結局は薫にいつも付き合ってやるのだ。
昇降口へと向かう廊下で自分の荷物を持った紡に腕を絡ませながら、薫は嬉しそうに笑う。
「ふふっー!」
「今日も人に荷物を持たせて楽しそうだな、おい」
「ねぇ、逆にここまでするのになんで僕と付き合わないの?」
「さぁ?」
「…んー、もうっ!紡のそういうところ、めちゃくちゃムカつく!早く僕に好きだって言えばいいのに!本当は高1で恋人作るつもりだったのに!もう高3だよ?しかも護にも先越されちゃったじゃん!」
紡は立ち止まり、横にいる薫を見下げる。
自分の肩ほどの身長の薫のことを密かに紡は愛らしいと思っている。
「…お前、言ったら調子乗るだろ?」
「…僕が乗らないはずがないでしょ?」
ムッとする薫の耳がほんの少し赤いのを目敏い紡は見逃さなかった。
「…じゃあ、まだ言わないでおくわ」
「はぁっ!?ここは愛の告白をするところじゃん!」
「あーうるせぇ。だる」
「本当、紡のくせにムカつく!」
薫はまたもや唇を尖らせながらぷいっとそっぽを向く。
紡は最早伝統芸能たる突き出された唇が可愛い横顔をちらりと見て、小さく口元に微笑みを浮かべた。
「…まぁ、やる気のない俺の隣はこれくらい騒がしい方が良いか」
「え?何か言った?」
「いや?空耳じゃね?」
「もしかして『好き』って言ったのを聞き逃したとか!?」
「それは言ってねぇから大丈夫」
「もうっ!」
紡はまだ薫に好意を伝えるつもりはない。
それでも薫の隣は誰にも譲らないのだ。




