トイレ問題とレンタル料
「水と食料に使っちゃったからポイントが20Pしかないの! トイレ誰か出して!」
大声で叫び立てているのは、……ユイだったかな。不良グループの1人で、ストラップを大量につけたスマホを握りしめている。短絡的に全員水と保存食を出してしまったようで、他のメンバーはバツが悪そうな顔をしていた。どうしたもんかと考えていると、不良グループのリーダーであるトモキが、名案だとでもいうような表情で叫んだ。
「おいっ! 委員長! クラスメイトが困ってるぞ。とっととトイレだしてくんね?」
ざわついていたところに、妙に自信のある大声。否応なしに全員の視線が委員長……アヤカへと注がれた。
「えっ! なんで私が!」
「クラス委員長だろうが。みんなのために出すのが筋ってもんじゃねぇか?」
筋ってなんの筋なんだろうか。さも当たり前とでもいうかのような物言いにほとほと呆れ果てる。だが、同じようにトイレの不安を抱いていた者もいたようで、期待の眼差しで静観しているものが多数だ。多数の視線というのは、それだけで重圧となる。はぁ……仕方がない。ちょうど試したいこともあったしな。
「なぁ、俺が--」
「私が出すよ! それでいいでしょ?」
「め、メグ……いいの?」
俺の言葉を遮るようにして、メグミが前に出て涙目の委員長に名乗り出る。チラリと俺に視線を送ったメグミは、軽くへたくそなウィンクした。まったく、かなわねぇなぁ。
「誰でもいいから早く出してよ!」
「言質はとったかんな。今更やめたとか言うなよ?」
貴重なポイントを使わせるというのに、まるで悪びれず当たり前であるように急かすユイとトモキにイラっとするが、ここで揉めても仕方がないので、ぐっと我慢して静観する。
メグミがスマホを操作すると、画面が見えるように俺のほうへと寄ってくる。
「ねぇこれってさ? ここに実際に配置されるってことだよね? やっぱり角かな?」
「うん? あーなんかARみたいだなこれ」
スマホの画面には、カメラで写した風景が写っており、ARのように配置される予定であろう簡易トイレが映し出されている。少し安心したのは、薄そうであるが仕切りで中は見え無さそうな建物だ。指でスマホで操作することで向きや配置場所を変更できるようだ。
「男と女は分けるだろうし、物がものだから距離もとったほうがいいだろうしな。それぞれ角に男トイレと女トイレでいいんじゃないか?」
「おっけー」
決めてしまえばサクサクと進む。こういうところはメグミと俺は馬が合うと言えるだろう。流れに乗って俺も自分のDPストアから簡易トイレを反対側の角へと設置した。俺の場合は視線で全てが完了するので、角に歩いて行ったと思ったら、突然簡易トイレが設置されたため、数人が驚いていた。へぇ、こんな簡単に無から有を作るとか、オーバーテクノロジーだなぁ。
「おい、ヒロト!」
「ん?」
「いいのかよ。取得条件とかわかる前にポイント使っちまって?」
レンが心配そうに俺に小声で話しかけてきたので、俺は努めて楽観的に答えた。
「いいのいいの、いずれは必要なんだし。ところでだ。そろそろトイレ行きたくないか?」
「うん? あー、そうだな。使わせてもらおうかなー!」
少し大声でトイレのことを強調すると、察したレンが、わざとらしく大きい声で答え、トイレに入ろうとする。察しのいい友は大好きだぜこの野郎。サトシは仏頂面で首を傾げているが、お前はそのままでいい。
「うぉい、入れねぇ! 設置者のアクセス許可を申請中って端末に出てるぞ?」
まるで見えない壁にでもぶつかったかのようにレンが簡易トイレの周囲をペタペタと触っている。俺の画面にも、主張するようにチカチカとメッセージが流れていた。
『設置者以外の使用意図を確認しました。権限の一時貸与に対し、最低10%から徴収DPを設定できます。設定してください』
とりあえず最低値の10%に設定し、許可を行う。
「おっ、入れた。それでは失礼して……うわ、ぼっとんかよ。洋式なのが救いだな……」
「まじかー。簡易ってあるもんなぁ」
レンのトイレレビューを聞き流しながら、ポイントの動向を見ていると、100Pから105Pに増加していた。
「あっ、5P減ったわ」
「俺の方は5P増えた。設置必要DPを基準にレンタル料を徴収できるみたいだな。最低値が10%だからこれ以上はまけられんぞ」
「ちぇー。おっと、残尿感が。もう一回失礼」
「おまっ、それはどっちの意味でも早すぎるだろう」
草が生えそうなやりとりをしているが、きちんとDPは確認。今度は増えない。レンのほうも減らなかったようだ。回数ではなく日数や時間でのレンタル料のようだ。ちなみに、わざとでかい声で全員に聞こえるようにやっている。まぁ、俺とレンはいつもバカやっているから違和感はないだろう。
水と保存食にDPを使っていたとしても、20Pは余っているはずだから、トイレ問題はある程度解決したと言ってもいい。
ふざけんなとか、ずるいとか不良グループから見当違いな声が聞こえてもくるが、リスクを背負ってリターンを得ただけなので、知ったこっちゃねぇである。結局我慢していた何人かがトイレを使用し始めると、仕方なしと使用し始めた。
DPが入ると知って何人かが建てようとしたようだが、設置上限数に達したと表記が出て、建てられなかったらしい。右側の数字が限界建築数ってことだろう。数字が変化して赤くなっている。
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DPストア 権限 ヒロト
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・簡易トイレ 50P 2/2
・簡易寝具 40P
・水 15P
・保存食 15P
・簡易調理セット 30P
・簡易医療キット 50P
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思わぬところで俺とメグミは利益を享受することができたのだった。
※AR 拡張現実
マスのあるところに建物をぼんって置く感じです。スマホとかの画面で仮表示して、決定押したら現実になります。SIMSとかFalloutの建築のイメージ。くどくなるし端折ってますが、保存食や水なども同じ感じで出してます。他のクラスメイトはすでに出していたりしますが、ヒロト達はまだ出していなかったのでこれどうやるん?ってなってます。