ダンジョンストア
視界の文字が消えると、まるでゲームの画面のようにDPストアという文字がこれでもかと主張していた。視線で選択もできるし、意識を向けても認識されるようだ。周囲のクラスメイトが、それぞれの端末を手に操作を繰り広げているのを目にし、ニヤリと思わず笑みを浮かべる。視界はそのまま確保されているので、メカメカしいレンが、どこか口を引き攣らせながら話しかけてくるのが目に入った。
「お、おい、お前の端末ってもしかして……さ」
「ん? 気づいちゃった?」
「気づいちゃったもなにも……」
「なんだよ? 歯切れ悪いな」
少し戸惑いがちなレンに疑問を思っていると、メグミがギョッとしたような表情で少し身を引いた。
「ヒロト! 目、目! 光ってるんだけど!」
「ぶほっ!」
サトシの奴は俺の顔を見るなり吹き出す。失礼な奴だ。しかし、まじか。そんな副作用があるとは思わなかった。ここまできたら開き直るしかない。一度目を閉じ、五指を開いて顔を軽く覆うと、カッと目を見開く。
「魔眼発動!」
「ヒ、ヒロト?」
「あひゃひゃ! やめれ!」
「ぶはっ!」
香ばしいポーズで輝く俺の目に、サトシとレンはツボに入ったのか笑い。メグミは困り顔でオロオロとしていた。そう、俺の端末は網膜。取り出す手間、紛失の恐れ、覗き見防止等全て考えた結果がこれだ。いい考えだと思ったのだが、光るとは想定外だったよ。
ちなみに、一通り笑い通した2人と、放置されて少し怒ったメグミに眩しいと怒られ。試行錯誤した結果。設定のような項目を見つけ、薄ぼんやり光る程度に収まるようになった。
ほぼ全員が手にした端末を操作し、確認に夢中になっていたため、情報の共有をすることにした。
「先生。確認したいんですが。表示されている内容はどんな感じですか? 俺たちはDPの獲得表記と、DPストアが開けるようになったようなんですが」
俺はあえて、ボーナスDPについてはぼかして質問する。
「あっ、先生としたことが、すみません。そうですね。概ね同じじゃないでしょうか。初期ボーナスDP50Pが付与されて、DPストアがインストールされたとあります。私の場合は、アプリと一緒でタッチすると開けるみたいですね。見れますか?」
さくら先生が、画面が見えるように身を寄せてくる。小柄なので少し見下ろすようになり、意外と大きい胸の谷間にちょっとドキッとしてしまうが、今はそんな場合じゃないと意識を画面に向けると、DP総量以外は同じ内容だった。DPストアの内容はこれだ。
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DPストア 権限 さくら
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・簡易トイレ 50P 0/2
・簡易寝具 40P
・水 15P
・保存食 15P
・簡易調理セット 30P
・簡易医療キット 50P
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DP 50
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「うーん、自分が見る分にはいいんですけど。皆さんにも見せられたら、、、あっ!」
ぶぉんと音がすると、SF映画などの投影昨日のように、スマートウォッチからストアの画面が投影される。本人の意思が鍵のようだ。俺がやったら目から投影されるのだろうか。されるんだろうな…。
3人にも確認したが、権限がそれぞれの端末の持ち主であり、DPもさくら先生とは違う。あらかじめ確認させてもらったが、俺たちは功績達成者ということで100P多いようだ。俺たちは余裕があるが、そのほかが50P だとしたら余裕がない内容だ。緊張から喉が渇いていた者が多く。恐れ知らずに端末を操作した何人かが水を選択。目の前に2リットルほどのペットボトルが現れ、飲んだことを皮切りに、DPストアを利用し初めてしまっている。先生が大声でまだ選択しないように言ったが、従った人数は少ない。
「暗闇のストレスから解放されたばかりだから仕方ないよ。先生。それよりも目下無視できない問題がある」
「この表記ですね」
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必要コスト(個人) ※現在3日間の猶予を付与中
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拠点維持 固定コスト 50DP/日
変動コスト 現在 個人DP 10%/日
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そう、ただ日が立つだけでDPを消費する。このDPが足りなくなったらどうなるかなど不安は尽きない。
「明確に消費量が表示されているので、この3日間の猶予期間中に考えないといけません。維持と書いてある以上。足りなかった時にいいことがあるとは思えませんし」
さくら先生が顎に手をあててウンウンと唸って意見を出す。それに追従するように、俺たちも意見を述べた。
「衣食住の確立には初期ポイントじゃどう考えても足りない。物資の共有ができるかも試してみましょう。全員がトイレや寝具を出す必要はないかもしれないし」
「そうだなー。消費方法は目の前にあるからいいけど、取得方法がわっかんねぇもんな?」
「水とか食事にただでさえ使うのに、何にもしてなくても使うってひどくない?」
「トイレや寝具にもとられるしな。タンパク質も足りない。筋肉の維持が……」
俺たちが今後の方針にあーだこーだと言っているうちに、起こりうるだろうなーと考えていた問題があちらからやってきた。
「ちょっとー、トイレ行きたいんだけど! 誰かトイレ出してよー!」
そう、集団で一つの大部屋。飲み食いすれば必ず起きる生理現象だ。