一筋の光
「先生! 何か見えた気がするんで、そっちに向かって動いてみます!」
「えっ! あ、危ないから、その方向だけでも教えてもらって……」
「無理です先生! お互いが見えない以上、見えた俺が行くしかありません!」
「う、うぅぅ……」
俺は大声で、先生に聞こえるように宣言。一瞬見えただけだし、周囲の反応が何もない以上。見えたのは俺だけである可能性が高い。このタイミングで動かなければジリ貧でしかない。
「お、おいっ。ほんとに何か見えたのかよ?」
「あぁ、ほんの一瞬だけどぼんやりと光った。ま、思った以上に俺が狂ってきてる可能性もあるけどさ」
「話すために集まっているからな。見えているのはお互いの背中側と考えると、広人しか見えなかったということはありえるのか」
「こ、この中をほんとにいくつもり?」
「あぁ、動ける元気がある内に動いたほうがいいだろ。じゃ、いってくるわ」
正直脱落者第一号になりそうで怖い。だが、じわじわと終わりに向かっていくぐらいなら、俺は手を、足を伸ばそうと決めた。わざとらしく軽そうに言って歩き出した俺の決意は重い。予想以上に重い足取りだったが、心は逆に軽くなった。それはなぜか、俺の後ろに答えがある。
「おいっ」
「えっ?」
「ん?」
「お?」
馬鹿3人の声が俺の後ろから聞こえる。歩いていたはずなのにだ。それはなぜか。服の裾をそれぞれが掴み、つまみ、握り。雛鳥のようについてきていたからだ。
「馬鹿なの? ⚪︎ぬの?」
「そっくりそのまま返すぜ」
「1人にされるよりマシよ!」
「じっとしてるのは性分じゃない」
はぁ、全くこいつらは。おかげでSAN値が少し回復しちまったよ。くっくっと笑うと、後ろからも似たような反応を感じる。幸い他の生徒とぶつかることなく壁につきあたり、壁沿いに伝いながら光の出所と思われる方向に向かっていく。勘違いだったかと焦りもあったが、途中幾らか近づいた光が見え、後ろの3人からも見えたという言質を取る。近いようで遠いその光に向かって、一歩一歩確実に歩みを進めていった。
足先が地面に触れるのを確認しながら進むため、進みが遅い。時間の感覚もなく、視野すら確保できない状況。永遠につかないのではないかと不安が襲うが、後ろから感じる確かな存在感が俺を鼓舞してくれた。最初こそ軽口を叩いてた俺たちも、いつの間にか無言となり、ただただ前を目指していた。チラチラと見える光が、確実に視認できるような距離まで辿り着く。その薄ぼんやりとした光を浴びて、どれぐらいぶりかもわからない自分たちの姿がうっすらとだが確認することができ、ホッと胸を撫で下ろした。
「はは、なんだか光があるってだけで安心するのなんでだろうな」
「災害のときにスマホがあるだけで違うって言うもんね」
「体力や腕力で解決できない問題は御免被りたいな」
「んで、これってなによ?」
蓮が疑問を投げかけた先には薄ぼんやりと光るブロック。周囲は壁で、左から右へとゆっくりと光が明滅している。ぼんやりとはいえ、暗闇で光に飢えていた眼には少し眩しく、光の塊にしか見えていなかったが、慣れてくることで文字のようなものであるとそれぞれが認識するのに時間はかからなかった。
情報に飢えていた俺たちが起こした行動は一致。その文章を読み上げることだった。
「「「「絶望から立ち上がり、希望を見つけた者よ。パンドラの箱の、一筋の希望とならんことを」」」」
俺たちが図らずも声を揃えて文章を読み上げた瞬間。頭の中に声が響いた。
『生体反応を確認。パンドラシステムを再起動します。功績の達成者を確認。。。。エラー。該当者が複数存在します。該当者に、均等に功績値を振り分けます。その他未達成者には、初期値ボーナスを振り分けます。初回起動ボーナスとして、3日間の個人DP徴収猶予を付与、環境保護値のDP消費を免除します。急激な光源の確保による、網膜の刺激に備えてください』
「ちょっ、なんだこれ、情報が多すぎる!」
「頭の中になんか声が響いてるよ! なんか気持ち悪い!」
「光源ってことは見えるようになるのか?」
「網膜の刺激、、、ってやばい! みんな目を潰れー!」
数秒後、⚪︎スカ大佐の名言?が、周囲から叫び声となって響き渡った。