階段発見と新機能
『条件を達成しました。森林階層99階のMAPをアクティベートします』
機械的な声が、新しい端末の機能が解放されたことを告げる。
先生と委員長達に見送られ出発した俺たちは、検証のためにDPを制限まで取得していたこともあり、幻惑蝶や蔦に邪魔されることなく探索を行うことができた。変わり映えのしないこのフロアは、正直進んでいるかもわからず精神的な疲労が募っていたが、機械的な声が告げたとおり、端末に起きた変化にその陰気な気持ちを霧散させていた。
「あったな」
「あぁ、あった。99階だとさ。100階説が濃厚になってきたなー」
「階段もおかしいけどさ。これってまんまいつも使ってるMAPアプリだよね?」
「先は真っ暗だな。見えんぞ!」
俺とレンは天に向かって伸びる階段に向かって思わず顔を合わせ、端末ボイスによって解放されたMAP機能を、メグミがスマホでいじっている。サトシは階段の先に目を凝らしているが真っ暗で何も見えない。
「階層制覇というか、次の階段を発見することで、その階のマップ解放か?」
「どうせなら歩いたところはマッピング機能で解放とかのほうがよかったなぁ。みつけたあと解放されてもな。全解放っていうより、明らかに歩いたところだけマッピングされているみたいだし」
「私たちの拠点の印あるよ? 正直帰り道もあやふやに私はなってたからないよりマシじゃない?」
「俺は覚えていたがな!」
俺とレンはげんなりしていたが、メグミのポジティブな考えに共感もできた。レンが木に傷をつけていたり、野生児サトシが道を記憶してはいたが、道を覚えるのが苦手な俺にとってはMAP機能があるだけでもありがたい。しかし、この機能って居残り組も解放されてるんだろうか? マッピングは共有なのか、個人個人なのかも知りたいところだ。
「なぁ、俺とレンはともかく、メグミとサトシの端末で連絡って出来ない?」
「電話とかメッセージとかの機能はないみたい」
「俺もないな! また解放されるんじゃないか?」
「あー、なるほど。今回みたいにあるかもなぁ、とりま進んでみねぇか?」
「そうだな。機能についても時間的余裕についてもあるかないか進んでみないとわからない……か。よしっ、異常を感じたらすぐに伝える。伝えられる距離から離れない。それでいいな?」
「お〜う」
「はーい」
「任せろ!」
本来の形に近い端末ならと一縷の望みをかけて聞いてみたものの、連絡はできないようだ。しかし、今回の機能開放の件もある。今はできないって考えたほうが確かによさそうだ。気を引き締めるために声をかけてはみたが、三者三様気の抜けた返事が返ってきた。まぁ、これぐらいが俺たちにはちょうどいい。初見殺しだけは勘弁して欲しいものだ。拠点から森へと上がった時と同じように、真っ暗な階段を俺たちはゆっくりと上がって行った。
『森林階層98階層への侵入を確認。拠点維持変動コストを11%に上昇します』
「「は!?」」
「うそっ!?」
「ん!?」
階段を上がると周囲の見た目は99階層と大して変わらない森林だったが、無慈悲な機械的音声に思わず驚愕する。進んでも特典どころかリスク増加とかクソゲーか!? レンも似たようなことを考えていたようで、目が合った俺と同じような見解を口にする。
「多分拠点組にも通知は行ってるな。進めば進むほどリスク上昇。ひたすら進めるやつだけが進むっていう選択肢を潰されてねーか?」
「どどど、どうゆうこと?」
「進んじゃダメなのか!」
レンの言葉にメグミが動揺し、サトシは首を傾げている。このダンジョンのルールを作ったやつはかなり意地が悪いらしい。
「足並みを揃えないとダメなように強制力を持たせてるってことだよ。上へ進まず安全のために拠点維持の最小限でいたいと思う意見と、資源を潤沢に使いたかったり脱出を試みたいグループがいたとするだろ? お互いに影響がなければ勝手にそれぞれ動いてもいいけど、進むことで拠点組にも影響が出るとわかったから、勝手すれば必ず軋轢を生むんだ」
「進まないと帰れないだろう?」
「サトシの言うことはもっともだけど、危ないことはしたくないって女子は多いと思うよ?」
「そそ、そうゆう意見の対立を放って置けないってこと。だろ、ヒロト?」
「あぁ」
これは面倒くさい。ペナルティがはっきりとわからない以上深刻さの度合いが計りかねるが、やる気のないやつを放っておくということがしづらくなった。
「ま、どのみち99階だけじゃ最低DPに届かない上に、徴収されるってことは最低限の資源も確保できなくなるんだから、先遣隊である俺たちの役目はまずこの先の安全を確認するってことだ」
「だな。難しいことはさくら先生や委員長に任せて、俺たちはまずできることやろーぜ」
「うーん、絶対拠点に戻ってからも面倒ごとが待ってる未来しか見えないんですけど」
「とりあえず進むぞ!」
未来の危機より今の危険に目を向けるほうが大事だ自分に言い聞かせ、問題を先送りにすることにした。目下問題となるのは98階のことだ。少し進んだだけで違和感を感じたのは、ほぼ同時だった。
「「「「甘い匂いがする(な)(ね)(ぞ!)」」」」