探索報告
レン視点です。レンはあらかじめ先生にも、情報をすぐに出さないよう口止めしています。
サトシは毛布の上にトモキをおろし、ヒロトは先生を委員長達に任せると、床に座りこんで寝ちまった。思った以上に疲れていたみたいだ。だいぶ目がバッキバキだったしな。あの蝶のせいだろうか。
「あー、びっくりした」
「私たちのために無理させてしまいましたね。本来守るべき生徒に守られるなんて……」
「はいはい、先生ストップ。もうそれはいいですって」
「気にしてないぞ!」
壁に背中を預けるように座ったさくら先生を囲むようにして、俺たちは集まっている。ユイとエミは2人で固まっているがそそくさと離れ、ショウタはトモキの側にいるようだ。外に出た俺たちの話が気になるのか、他の生徒もこちらの動向は気にしているようだが、話がかろうじて聞こえる位置にいて、それぞれのグループで固まっているという感じ。相変わらずまとまりがないのはこのクラスらしい。
「さくら先生がこんな怪我しているなんて、トモキ君もヒロト君も起きないし、何があったの?」
「ねぇメグ、や、やっぱり外には危ない生き物がいたとか?」
「うーん、なんて言ったらいいんだろうね?」
不安そうにアヤカとヒナの委員長ズが俺たちに尋ねる。ちなみにヒナは副委員長だから委員長ズね。メグはあの2人が離れてからやっとダンマリから戻ったらしい。本当に苦手なんだなぁ。ヒロトは寝ちまってるし、俺のやり方でやらせてもらう。
「ユイとエミ、ショウタと、先生は結構なケガをした。いきなり実戦で使うことになっちまったけど、ポーションである程度回復はしたんだ」
委員長ズはうんうんと頷き、話を遠巻きに聞いている生徒に向けてまずは爆弾をぶち込む。
「さて、誰がという意味では、トモキが4人をボコボコにしちまったんだ」
「ちょっと、レン君!」
「レン! 言い方!」
先生が大声で遮り、メグミもバツが悪そうに大声で止める。ざわっと一瞬したかと思うと、トモキの付近にいた生徒達が一歩離れた。
「まぁ、事実だしな! ちなみにトモキは俺がやったぞ!」
「っとまぁ、トモキが4人に怪我をさせて、それを俺たちが止めたってわけだ」
「えっと……本当?」
委員長が不安そうにメグミと先生を見つめると、こくりとうなづく。認めたことにさらにざわついたり、べったりだったユキとエミが否定しないこと、側から離れていることを見て事実だと浸透する。サトシもちょっと距離を取られたようだが、まぁ仕方はない。ここで、クラスの中で、声が強いことに不安の多かったトモキグループの力を削いでおくことに成功した。それでよしとしよう。
「んで、あくまで検証は必要だが、なんでこうなったかと言うと……」
全員がまじめの話に耳を傾け始めたのを確認し、蝶の幻覚のことを話す。あくまでヒロトからの話であることを強調。同じような幻覚にあったにもかかわらず冷静に対処できていたことを印象づけた。
少なくともこれで、俺たちのグループについていたほうがいいという気持ちが生まれるはずだ。ここでダメ押しだ。ずっと端末であるHMDをつけている俺は、鑑定を常に走らせてある。そこで目についたグループのリーダー格に声をかけた。
「ラヴさんよぉ。なーんかいい情報ないかな。俺から対価も渡せるぜ」
「は? なんであたしなんだよ? しかも対価ってさ、そんな余裕……」
「DPを得る手段も見つけたんだよ。リスクを負って得たポイントだから、タダで対価として渡すってのもなんだからさ。端末調べてて気づいたこととか、有益な情報を得てたら教えて欲っしいんだよな〜」
「……なんでもいいのか?」
「有益と判断したらな〜?」
ラヴはショートのボブカットで前髪にワンポイントのメッシュが入っている。小柄で背は小さいが、面倒見のいい姉御肌であり、年上の彼氏がいる。物怖じしない性格で、若干の男勝りなところが、女子にも男子にも人気がある女番長みたいなものだ。俺がピンポイントで話しかけたのは、仲間のためであれば協力は惜しまないだろう性格を見越してのことだ。俺の端末で、彼女のグループの女子で、体調があまり良くないのがいる。詳しくは言わないが女性には必ずあるあれだ。冷すと良くない。これ以上は言わないぜ。集まって何かないかを話し終えたようで、全体を見回したので、俺は聞かせて構わないとサムズアップで答える。
「うちらのほうで色々試したみたいでさ。端末のほうにもちもんをしまえるみたいだ」
ラヴが水の入ったペットボトルを床におくと、指輪をつけた手をかざす。あれが端末のようだ。ペットボトルはふっと消え、少し間を置いてまたペットボトルが現れた。なるほど。
「インベントリか」
「あー、呼び方はなんでもいいけど。対価くれるんだろ? 毛布くんね?」
「おうよ」
簡易寝具を取り出し、ラヴに対して譲渡を選択する。
『譲渡条件である情報の提供を満たしたと譲渡者が認識しました。譲渡を承認します』
「うぉっ」
「っ……。あたしは、もらえればなんでもいいけどさ」
多分2人だけの頭に響いたのだろうシステム音声のようなもの急に聞こえ思わず声を出してしまった。周囲は怪訝な顔をしている。無償譲渡にも条件がある? ひょんなことから検証が必要なことが増えたようだ。あーめんどくせー。ラヴはサンキュと小さく言うと、グループの方へ行き、体調の悪そうな女子を寝具に寝かせていた。
「んじゃ、他にも有効そうな情報があったら教えてくれるか?」
ほとんどが水と食料を出してしまった中、寝具まで揃えられたやつはほとんどいない。こちらに協力すれば得をする。そうゆう流れをつくり、出し惜しみを防ぐ。このアドバンテージは最初だけだ、今後にも響くように有効利用させてもらうぜ。
一通り話を聞いたあと、全体的な見返りとして、蔦や蝶でDPが獲得できることを話す。元から話すつもりだったが、もったいつけて話したことで少しは恩として売れたはずだ。ヒロトとサトシに身体を張らせちまったからな。こうゆう分野は俺に任せとけ。
弱った女子の弱みにつけ込むレンさん(言い方)。