拠点への帰路
「すみません。先生がしっかりしないといけないのに……」
「先生が謝ることないですよ。こんなの予想できないですって」
もう何度目かわからないが、さくら先生が暗い顔をして謝罪する。ポーションをぶっかけた結果。3人の細かい擦り傷やアザは消えた。俺のゴブリンに見えちゃう問題が解決して程なくして、目が覚めた3人だったが、女子2人は精神的に消耗し、先生に至っては片方の足首が腫れており、治療キットの包帯にポーションを浸し巻きつけて様子を見ている。先生曰く激痛がやわらいだというのだから、効果はあるんだろう。
「大丈夫か〜?」
「うっさい、早く行ってよ」
「まじ最悪……」
レンが、後方をとぼとぼと歩くユイとエミの様子を見て声をかける。トモキに殴られたのがショックだったようで返事は暗い。身体中が痛いだ歩きたくないだと騒いでいたが、置いていくと言ったら渋々と後ろをついてきた。メグミはあの2人が苦手らしく、周囲の警戒をしてくれているが、口数が少ないというかほとんどない。ショウタはトモキの状態が気になるようだが、付かず離れずでオロオロしている。サトシがトモキをおぶり、俺は先生に肩を貸している状態だ。ゆっくりと歩いていると、足に違和感を感じ、一度停止する。
「うぉっ、まただよ。レン頼む」
「あいよー」
「ああーもう、やだ、さっきからこれなんなの!」
レンが木の棒で払うようにして、俺と、エミの足に絡みついた蔦を外していく。先ほどから度々生きているかのように蔦が足に絡んでくるのだ。明らかにおかしい蔦だったため、鑑定した結果がこれだ。
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足手を纏う蔦
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気づけば忍び寄る生きた蔦だ。
足に絡みついて体力を徐々に奪い取る。
面倒だ。
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うっとおしい蔦だと思ってはいたが、立派なエネミーだったらしい。鑑定分も心なしか辛辣である。力一杯引っ張れば引きちぎれない程ではないが、簡単に剥がせる程ではないという絶妙な強度だ。こいつのせいでトモキに殺されかけたこともあり、甘く見ないほうがいい。
「おっ、やっぱりこいつをちぎると、っていうか倒すとDPが入るみたいだぜ」
「おぉ、貴重な収入源の発見だな!」
「ほ、ほんとうですか! どれぐらい入るんです?」
「えっと、5DPかな」
レンが蔦排除係をしてくれているので、手に入れたDPを確認してくれていた。少しだけ先生の表情も明るくなる。サトシもトモキをおぶっていながら、度々絡みつく蔦を歩きながら引きちぎっているので、DPを手に入れて嬉しそうだ。伊達に趣味が筋トレというだけのことはある。いつもなら騒ぐ2人も、疲れているのか絡まれる度にレンに蔦をとってもらっている。DPが手に入ると聞けば食いつきそうだが、今はそれどころの心境ではないらしい。
ちなみに鱗粉と蝶の羽は余った包帯に包んである。トモキの暴走と、俺に起こった異常の原因はこいつを鑑定することで判明した。
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幻惑蝶の鱗粉
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幻惑を見せて惑わせる蝶の鱗粉
吸うと興奮状態になる
幻惑の効果は無くなっている
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幻惑蝶の羽
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幻惑を見せて惑わせる蝶の羽
???
見つめていると不安になる
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いつの間にか首筋にくっついていたらしい。気絶したトモキの首筋にも鱗粉と蝶の死骸があった。鑑定文を見るに、幻惑蝶が原因で間違いないだろう。鱗粉は吸うと興奮するらしい。これやべぇやつだ。羽に至っては私情入ってませんかね? ???って何もわからないし。気づけばDPが10増えていることから、蝶もエネミーなのだろう。
「なんか思ったんと違う」
「えっ、どうしたんですか?」
「あっ、いやー……」
思わず呟いてしまった愚痴のようなものに、先生が反応する。肩を貸している手前、聞こえてしまったようだ。なんて説明したらよいか分からず、言葉に詰まる。トモキの状態を説明した時も、ゴブリンの話に対してピンとこないようで首を傾げていた。
「よっと、この蔦とか、蝶々とかが敵ってことで。残念がってるんですよ」
「……残念?」
「冒険って感じじゃないなって、なっ?」
レンが蔦を払いながら、俺の心境をだいぶ省略して伝えた。やっぱ不謹慎だよなぁ。怒られるかねぇ。
「あぁ、なるほどぉ、ふふっ……。やっぱり男の子ですねぇ」
予想に反して、先生はくすくすと笑うと、少し表情が明るくなったようだった。こうやって耳元で笑われると、なんだかくすぐったい。それに、子供扱いされたみたいで少し背中もむず痒い。
「あっ、おーい! ちょっと、先生大丈夫!?」
そろそろ階段のところだと思ったあたりで、前方から声が聞こえてきた。あれは委員長だろう。隣でヒナも手を振っている。あまり遠出したわけではないが、色々ありすぎてどっと疲れが出てきた。休みてぇ。みんな同じ気持ちだったんだろう。顔を見合わせると、自然と声が重なった。
「「「「ただいま!」」」」