救出作戦
ドン引きである。俺TUEEEみたいな顔して不良君がこっちを見てるけど、足元に倒れてるのはどう見ても女子2人と先生だ。
「ほらっ! 嘘じゃないだろ!」
「ひどい……」
「許せん!」
「どうするよヒロト? やっこさんやる気満々みたいだぜ?」
「今日日やっこさんなんて聞かねぇな。暴力反対なんだけど」
目は血走ってるし、ちょっと涎垂れてません? 不良から蛮族にクラスチェンジした? レンに軽い口調で返すものの、2人を庇うようにして倒れているさくら先生を見て、恐怖よりも怒りの方が強くなる。拳を握りしめているサトシも一緒のようだ。よし、あれはクラスメイトじゃない蛮族だ。
「どうみても正気じゃなさそうだな。ま、この惨状見て悠長に説得する気にもならないけど」
「成敗!」
「やっておしまいなさい! ってレンとサトシに丸投げしたいんだけど、だめ?」
「ちょっと、ふざけてる場合じゃないでしょ! どうする!?」
「お、俺は逃げてもいいか?」
レンも結構キレてんね。全員キレたら収集つかないから冷静にならんと。逃げようと後退りしているショウタの襟首を掴む。
「レン、メグミ、ショウタは倒れてる3人の確保。動かしても大丈夫かもわからないし、どれぐらい効くかわからんけど、辿り着き次第ポーションぶっかけてくれ」
俺は簡易医療キットを選択、手元に出すとショウタに押し付ける。
「レンとメグミは近くで出した方がいいかも。狙われたり割れたりしたらことだし」
「おっけー。そのあとは?」
「連れて退避できそうだったら退避。だめそうなら自分の安全確保でいいよ。本人達が動けるようならいいけど、脱力している3人を運ぶなんて無謀だ。ポーションの効力次第だ」
「歩けるまでこれで回復できるといいんだけどな」
「俺に任せろ!」
いや、サトシにはまだ何もふってないんだが、返事だけはいいなほんと。先生を片足で踏みつけ、トモキは睨みつけているだけでまだ動かない。挑発のつもりか。
「不本意だが俺とサトシが奴を抑える」
「倒してしまってもかまわんのだろう?」
「それだめなフラグだから! 状況がわからないから無力化できればそれでいい」
「わかった! デストロイだな!」
「ほんとにわかってる!?」
だめだ、サトシは前しか見ていない。まぁ、かなり怒ってるんだろう。その気持ちはわかる。
「っしゃ、いくぞ!」
「おう!」
「がんばれ〜!」
「まぢで気をつけろよ!」
「くっそ、くっそぉ……ともきぃ……」
俺の掛け声にサトシが突っ込みそれに追従する。メグミ、レン、ショウタはゆっくりと迂回するように救助に向かった。まずは引き離さないと救出は困難だ。
「らぁっ!」
「ぐっ……」
手加減を感じられない木の棒での兜割を、サトシは両手で頭を庇うようにして受ける。そのまま痛ぶろうと思ったんだろうトモキの余裕の表情はそこまでだ。
「きかねぇ!」
「うぉぁ!」
怯む、下がる、止まるという言葉はサトシに似合わない。そのまま体当たりを敢行したが、勘がいいのかトモキは飛び退くようにして横に避ける。おかげで先生達から足をどけ、少し遠ざかった。まだ救助に入るには近い。俺は石や枝を拾うと、やたらめったらと投げつけた。
「うぜぇ!」
サトシが掴み掛かろうとしているのをトモキは警戒して避けている。そこに俺が投げた石や枝が、嫌がらせのようにあたりつづけ、案の定ヘイトが俺に向いたようだ。避ける。嫌がらせに石や枝を投げる。避ける。嫌がらせに石や枝を投げる。ある程度攻撃範囲を意識してそこに入らないように動けば、当たることはない。追撃はサトシが牽制してくれている。
「てめぇ! うっぜぇんだよ! 死ね!」
こわっ。殺意の表明は裁判で不利になりますよ〜。業を煮やしたトモキは、チラチラと気にしていたサトシから視線を切った。ここだ。俺は脱兎の如く逃げ出す。後方に視線を送ると、見事に釣れたようだ。木々の間を抜けたりと、先生達からの距離を稼ぐ。
「逃げんじゃねえ!」
正直怖い。目が逝っている。身体能力でいえばトモキのほうが上だろう。徐々に追いつかれるが、1撃目をギリギリで躱す。2撃目は木の後ろに逃げ込み、思い切り振られた木の棒が間一髪阻まれ先が砕けるのが目に入った。殺意が高すぎる。当たったらタダじゃ済まなそうだ。震える足に力をこめるが、動かずつんのめってしまい。慌てて体勢を直そうとした結果、尻餅をついてしまう。なぜか足に、蔦が絡まっていた。まずっ。さっきまで背中を追われる形だったが、俺は今、尻餅をついた状態で、見下ろすように立ったトモキと対面している。
「手間、かけさせやがって」
先ほどまでの怒気を含んだ声が一変。呟くように放った言葉が逆に恐ろしい。逆光で黒く塗りつぶされて、表情が見えない。砕けたことで先が鋭利になった木の棒を逆手に持ち、俺を刺し殺そうと振りかぶりーー何かに轢かれて吹き飛んだ。
何事かと思い目を向けた先には、緑色の化け物。体格の良さから、俗に言うホブゴブリンのようなものが俺の方を見つめていた。あっ、死んだわこれ。