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遭遇

トモキサイドです。

 時は少し遡る。 


 トモキはイライラを抑えられずにいた。高校に入ってからは、クラスは彼の天下だった。地元で名の知れた族に入って喧嘩で負け知らず。バイトをせずともカツアゲをして、金には困らない。気に入らないと思った相手は、少し脅していびってやることで辞めさせていった。今残っているクラスメイトは、なんだかんだとその対象から外れたり、関わりをもたなかったり、多少の脅しやいびりにも耐えてきた者達だった。内心ではそのクラスメイトに対して、舐められていると腹を立ててはいたが、何をするにも、退学にならない微妙なラインを守っていた。


「くそっ、ふざけてやがる」


 乱暴に内ポケットに手が伸びるが、目的のタバコもライターもない。ヤニ切れが余計にイライラを増長させていく。100階層なのではないかという話にも聞き耳を立てていたが、階段を登って森に出たことで、思考はタバコを確保することに染まり足を早めさせていた。ふと、すすめども変わり映えのしない景色に我にかえり、チラリと後ろに視線を向けると、ついてきていたであろう誰もいない。


「ヤニもないなら……そうだな。ユイあたりとやって発散するか」


 完全に1人となったことで、冷静さを取り戻した彼が考えたことは、手軽な欲が満たせないのなら、違う欲を満たそうと言う短絡的な思考だった。


「少し戻るか?」


 いつの間にか茂った草が増えてきていて視界も悪い。つぶやいてはみたものの、彼はあわせるのではなく、周りにあわせさせてきた。周囲はどうも思わないだろうが、自分が相手に合わせる、してやることなどないという思考だ。まかり間違ってビビって戻ったなどと思われたらと思うと、眉間に皺がよった。待っていてやったという体が必要な彼は、どかっと近場の木に背を預け腰掛けると、ぼっと来た道を睨みつけていた。


 ガサガサとした足音に、やっときたかと腰を上げると、木の影から顔を出したのは、小柄な緑色のバケモノだった。みるからに醜悪な顔に、友好的な雰囲気は見られない。早口なクラスメイトが、ゴブ……がどうとか言っていたやつだろうと頭によぎる。普通なら後退りの一つもしようものだが、びびったら負けが染みついた彼は自然と威嚇を敢行した。


「あん!? なめんじゃねぇぞ! やんのかこらぁ!」

「とfdさfきどうふぁfだsfファふぁdよ! おふぁdふぁsだっfdさ!!」


 威嚇されるとは思わなかったのか、緑色の化物は少し後ずさるが、訳のわからない金切り声を上げながら近づいてきた。


「ちっ、んっだこらぁ!?」

「うfさわljfぁsdふぁ!?」


 先手必勝と足を出そうとしたところで、蔦が足に絡みついており、出鼻を挫かれる。それを目の前の化物の攻撃と判断した彼は、ぶちぶちと蔦を無理やりと振り解き、近づいてきた化け物に殴りかかった。


 見た目の割に弱く、何回か殴りつけると、這い這いの体で逃げ去っていく。追い打ちをかけようとするが、新手が2匹現れ、痛めつけた化け物がぶつかると、何事か言い争いをしながら逃げていく。


「仇打ちでも頼まれたか? あん?」


 数的優位にも怯まない彼に恐れをなしたのか、新手の2匹は固まって動けずにいる。目は血走り、歯をくだかんばかりに噛み締める彼に、腰のひけた化け物の1匹が、杖のように使っていた木の棒を思わず向けた。その瞬間ーースイッチが入ったかのようにトモキは襲いかかっていった。



「はぁ……はぁ……ザコが!」


 ぼこぼこにしていた途中から追加で現れ、2匹を庇うようにした化け物を蹴り上げる。くぐもった声をあげるが、もう立ち上がりそうにない。最初の2匹も足にしがみついてきたりとしつこかったが、いつまでも2匹の前からどこうとしない姿に、イライラが募りつい力が入ってしまった。さすがに殺すのは気が咎めたが、手や足を集中的に痛めつけたので、脅威にはならないだろうと追撃を止めた。相手から取り上げた木の棒で一方的に殴りつけたため、息切れはしたが拳はそこまで痛めなかったようだ。


 見た目から想像できないぐらいに弱かった化け物に、唾をはきかけると、イライラとしていた気持ちが少しすっきりとしていることに気づく。


「気分転換ぐらいにはなったか? 俺が強すぎるだけかもしれねぇけどな。 んっ?」


 彼の耳は新たに捉えた。こちらに向かってくる足音を。現れたのは最初に撃退した化け物だったが、こちらを指差し、驚いたような表情をした追加の4匹を引き連れている。


「仲間を呼びにいってたってか? いいぜ、今無性に暴れたい気分だ、相手してやるよ!」


 彼は獰猛に笑うと、木の棒を肩に担ぎ、ぎゃーぎゃーと騒ぐ化け物たちを睨みつけた。

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