予想し得ない集団転移
興味を持っていただいた方ありがとうございます。
地獄の底から始まる集団転移、略称 ダン底 始まります。
俺たちはいつも通りの日常を教室ですごしていた。仲が良いグループで集まって駄弁り、ほどよい距離感もできた、高校3年のありきたりな日常だ。がらりっ、と教室の扉が開く。
「はぁ〜い。自分の席に戻って〜!」
担任の女教師の言葉に、のそのそとそれぞれの席へと各自が戻り出す。これからいつも通りの1日となるはずだった。突然眩い光が、教室の床に現れた魔法陣のようなものから溢れ出し、俺も含め、全員がざわめき出す。
「な、なんだよこれ!」
「まぶしっ……」
「嘘だろ、これって」
集団転移、脳裏に浮かんだが、その言葉を発する前に、意識は光に飲まれ、視界は暗転した。
おかしい、目が覚めたはずなのに一向に暗闇だ。起き上がるために、床につけた手の感触はざらざらとしており、教室ではないことが伺える。少しづつであるが、周囲も目覚め始めたのか騒めき出した。
「おう! 広人! 無事か!」
「そんなでかい声で叫ばなくても聞こえてるって」
俺の名前を大声で叫んだのは、悟志。陸上部のマッチョマンだ。どうやら声の感じから、気絶前との距離感はあまり変わらないらしい。それぞれ仲が良いグループと近く固まっている可能性が高い。それだけでも僥倖だろう。
「めぐもいるよ! 良かった〜。1人じゃなくって」
「絶対集団転移って思ったんだけどな〜。ここどこよ?」
自分のことをめぐと呼ぶめぐみ。ゲームやラノベ仲間の蓮。休み時間には自然と集まって駄弁っていたグループだ。多分他のグループも似たり寄ったりの会話でもしているだろう。
「少なくとも、謁見の間とかじゃなさそうだよな」
「地下牢とかだったり……?」
「なんで! めぐ達悪いことしてなくない!」
「転移とか謁見とかよくわからんが、牢に入れられるような覚えはないぞ!」
蓮と俺との会話に、めぐみと悟志が不安、片や不満そうな声を荒げる。
「いや、まぁあくまで想像だって、正直なんもわからん」
「ごめんって、とりあえず灯りになるようなもんないか? 誰もスマホとか持ってない?」
「めぐは机にしまってたんだよね〜」
「俺はカバンの中だった」
「にしたって、俺たち意外も手元にないってのは偶然じゃないんだろうな」
正直依存レベルで持ち歩く奴らもいるぐらいだ。授業中だろうがお構いなしにな。そう思えば、スマホがないことに慌てているような声もちらほら聞こえてくる。どうしたものかと思っていると、頼りたいが、頼りのない声が聞こえてきた。
「み、みなさぁ〜ん! 落ち着いてください! 周りの状況もわからないので、そのまま動かずじっとしていてくださいね!」
「だったら早くなんとかしろよ!」
「い、今から考えますからぁ〜……」
担任のさくら先生だ。新人の教師で、一年の頃から跳ねっ返りの多かったクラスで終始オドオドしていた。今はだいぶマシになったとはいえ、不良グループのでかい声に呼びかけは尻すぼみだ。
「うわぁ〜。さくらせんせかわいそ〜」
「態度だけは相変わらずでかいやつらだ。文句を言うぐらいなら自分でなんとかしろ」
「悟志〜聞こえたら面倒だからほっとけって」
偏差値の低いうちの高校は、最初こそ40そこそこいたクラスだったが、離脱者が多く現在20名ぐらいしかいない。残ったのはマシな部類とはいえ、我が物顔で偉ぶる奴は存在する。担任を馬鹿にするような態度や発言も、このような状況でも変わらないらしい。
「とはいえ、どうしたもんかねぇ。これだけ経っても眼が慣れないってことはやばいな」
「まじかー。ラノベでもこんな展開なくね?」
「えっ? えっ? どうゆうこと?」
「たしかに全くと言っていいほど見えん」
そう、少しでも光源があれば、いい加減うっすらとでも視界が確保できるのだが、現状その気配がない。眼は開いている。だが見えない。光源がなければこのままずっと真っ暗闇ということになる。ちなみに声が聞こえるほうにそれぞれが寄りあった結果、コソコソと密談状態である。
その後しばらく動かず待ってみたが、状況は好転しなかった。むしろ悪い。不良グループでさえ最初はイライラとした声を挙げていたが、今はおとなしい。励ますさくら先生の声も涙声だ。
「思った以上に答えるな。真っ暗闇ってさ」
「テレビでやってた洞窟探検とかで言ってたけどさ。時間の感覚とかもなくなるってほんとなんだな」
「な、なんで2人ともそんな冷静なの……」
「む、むぅ」
「いや、下らない話でもしてないと気が狂っちゃうしさ」
「そそ、正直どうすんべって感じだよ」
蓮と俺のマイペースな会話に悟志とめぐみが困惑しているが、正直俺たちだって冷静な訳じゃない。このまま暗闇にいれば、SAN値(正気度)がガンガンに削れていずれ誰かが発狂するだろう。さくら先生が動いているような様子があるが、壁にぶつかったり、生徒とぶつかったりしているような様子があるだけで進展がない。
崖があるかもしれない、何かがいるかもしれない。危険かもしれない。そんな中闇雲に動き回れる勇気があるものはおらず、仮に闇雲に動くことが危険を招くかもしれないのだ。責任感からこの暗闇の中動いているさくら先生だって、余計に精神的に追い詰められているだろう。もし唯一動いているさくら先生に何かが怒ったら崩壊する。限界は近い。
必死に冷静であるように自分に言い聞かせ、見えもしない周囲に目を配る。シクシクと誰かが泣き出すような声も聞こえ始めた頃。俺の目に一瞬だが、ぼんやりとした光が確かに目に入った。