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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

作者: 壱原 一

寝室の窓の方角に私鉄の線路が走っている。


道を数本はさんだ奥に遮断機と最寄り駅が並んでいて、風向きによって警報機やアナウンスがほの聞こえる。


過日、良く風の通る朝に窓を開け掃除していた折、心地よく吹き抜ける風にカンカンと微かな音が乗り、続いて激しい警笛とブレーキが長く長く虚空をつんざいて、後に複数のサイレンが集った。


その日は1日中意識の片隅が落ち着かず、早めに就寝して目覚めるとまだ夜で窓が開いていた。


線路に面した腰高窓がカーテンも網戸も全開で、遠い街灯の白光がぼんやり点る筒抜けの暗い戸外から、ふわふわ柔らかい夜風がひっそりと行き来していた。


寝起きの心臓がきつく跳ね、じわっと発火した額や手に不快な冷や汗を搔きながら素早く起き上がって閉めた。


ややもすると正にその夜から見ていたのかもしれないが、以来、覚えている限り毎回線路沿いの空き家の夢を見る。


最寄り駅までの道中に実在する小さめで中古の戸建て。遮断機を越えた左手にある駐車場の奥に建ち、長らく売りに出されている。


月極の看板を掲げたライトグリーンのひし形フェンスに、大振りの砂利を敷き詰めた駐車場。端々にタンポポやスギナが茂り、時おり雀や猫がのさばる住宅地然とした敷地の向こうに、優しいオレンジ色をしたレンガ風の外壁の家がある。


塀はない。駐車スペースと僅かな前庭、茶色のアルミドアの玄関が良く見える。玄関脇の立水栓に緑色のホースが束ねて掛けられ、傍らに銀の自転車が前輪を家側へ傾けて窮屈そうに停められている。


全ての雨戸が閉まっている。


良く風の通る朝の光の下、あの家の玄関が少し開き、真っ暗な口を晒す光景を、頻繁に夢に見るようになった。


*


遠くで警笛の音がして、はっとすると窓が開いていた。


うたた寝していたようで、外はすっかり暗く、直前まで見ていた真っ暗な玄関の口が覚醒した目の前に浮かぶ剥き出しの戸外と混線して、一瞬、あの家の前へ居るのかと、身が竦み息が詰まった。


夢に見るあの家の玄関が脳裏に焼き付いてゆく度、その熱にあぶり出されるように浮き上がってくる想念がある。


線路沿いに建っていて、全ての雨戸が閉まっている、優しいオレンジ色をしたレンガ風の外壁の、茶色のアルミドアの売家。


あの朝からあの家に誰か居る。


中に居て玄関を開けている。


少し開けてじっと待っている。



終.

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