雪の国のお姫様 その4
「フラムちゃんっていうのね。私はアスカ。よろしくね。」
レギオンの格納庫。アルテーから降りてきたレイに、抱き着きたい衝動をこらえながら、一緒に降りてきた少女にそう言って、フラムの手をぎゅっと握る。
アスカにとって、何よりも大切な人……レイが拾ってきた?女の子なのだから、無下に扱うわけにはいかない。だが興味はある。だから、その視線は、自然とフラムへと向かっていた。
北の雪国で育った少女特有の、透けるように白く、きめ細やかな肌。魔導灯の淡い光を受けて、冷たい雪原を思わせる静かな輝きを放っている。白銀の髪は癖一つなく、背中に流れるように長く伸び、動くたびにさらりと音もなく揺れた。
派手さはない。けれど、その佇まいには不思議と目を引く品がある。
俯きがちな仕草、控えめに揃えられた指先、そして何かを言いたげでありながら決して前に出ないその態度。
(……大人しいお姫様、ね)
アスカは心の中でそう評した。
絵本の中に描かれる、城の奥で静かに暮らしていそうな少女。荒事や争いとは無縁で、本来なら守られる側であるはずの存在――そんな印象が、フラムからは強く滲み出ていた。
「あ、ハイ……よ、よろしく……です。」
オドオドとしながらもフラムはアスカに挨拶を返す。
「とりあえず、ここじゃなんだから、応接室に案内するね……っていうか、それよりもまずお風呂かな?セシルぅ~。」
アスカは近くにいたメイドに声をかけ、フラムの面倒を任せる。
フラムがいなくなり、レイと二人っきりになると、アスカはレイに飛びついた。
「センパイのバカぁっ!心配したんだぞっ!」
「悪かったよ。まぁ、こっちも計算外のことが……って、泣くなよっ!」
ぼろぼろと涙をこぼして縋り付くアスカに、レイは慌てる。
まぁ、目の前で撃墜されたのだ、心配するなっていう方が無理な話だ。
レイは、アスカが落ちつkまで、しばらくの間抱きしめているのだった。
◇
マギアクルーザー・レギオンの応接室は、静かすぎるほど落ち着いた空気に包まれていた。
柔らかな魔導灯の光が円卓を照らし、その中央にはレイに保護された少女――フラムが小さく背を丸めて座っている。指先は膝の上で強く組まれ、視線は伏せたままだ。
「……フローの国へ送るのが、最善だと思うわ」
アスカの言葉に、何人かが黙って頷く。保護と引き渡し、それが最も波風の立たない選択肢だった。
レイも腕を組み、苦い表情で沈黙を守っている。
アスカの言うことが、現状では最も正しい判断だと思う。
だが、レイの心に引っかかるのは、あの謎の新型機の存在だ。
果たして、このままフラムを、フローの首都へと送り届けて大丈夫なのだろうか?と。
その時だった。
応接室の扉が慌ただしく開き、通信を担当しているメイドの一人が息を切らして飛び込んでくる。
「緊急報告です! フローの国が――襲撃を受けています!」
一瞬、時間が止まったように静まり返る。
次の瞬間、空気が一変した。椅子が軋み、誰かが立ち上がる音が重なる。
「襲撃……だと?」
低く漏れたレイの声に、フラムの肩がびくりと跳ねた。伏せていた顔がわずかに上がり、怯えと不安の混じった瞳が揺れる。
フローへ送る――その前提が、音を立てて崩れていく。
応接室には、選択を迫られる緊張と、避けられぬ嵐の予感だけが、重く漂っていた。
◇
ブリッジの自動扉が開くや否や、張り詰めた空気が流れ込んできた。
「状況は!?」
レイの声が、艦内に鋭く響く。
オペレーターたちは既に各席に張り付き、魔導スクリーンには乱れた通信波形と、赤く点滅する警告表示が重なっていた。
「首都フローラが、何者かの奇襲を受けました」
報告役のメイドが即座に答える。声は冷静を保っていたが、その表情は硬い。
「防衛網を突破され、ほぼ抵抗できないまま占拠されています。現在確認できているのは、そこまでです」
ブリッジ中央の大型スクリーンには、フローの国の首都圏を示す地図が映し出されていた。フローラの位置は、警戒色に塗り潰され、すでに“陥落”を示す表示へと切り替わっている。
「詳細は不明です。現在、哨戒機を各方位に展開中」
別のオペレーターが続ける。
「敵勢力、被害規模、占拠状況――すべて、追加報告待ちとなります」
レイは歯噛みするように拳を握りしめ、スクリーンを睨みつけた。
成す術もなく落とされた首都。
そして、正体すら掴めない敵。
ブリッジには、次の判断を急かすような緊迫感だけが、重く満ちていた。
しばらく待つと、哨戒機からの追加報告が、ブリッジに静かに流れた。
「……王族を含む主要人物の安否は不明。ただし、処刑が行われた形跡は確認できません」
その一文だけが、重く残る。
生きている可能性――それは希望であると同時に、より厄介な状況を意味していた。
「警戒は想定以上です」
オペレーターが続ける。
「これ以上の情報を得るには、首都内部へ踏み込む必要があります」
ブリッジの空気が、さらに張り詰める。
誰もが、その先の言葉を理解していた。踏み込みは即ち、干渉。正体不明の勢力とはいえ、他国への武力的接触は、今の不安定な世情では即座に戦争の火種となる。
沈黙の中、レイはゆっくりと息を吐いた。
拳を開き、閉じ、覚悟を固めるように前へ出る。
「……これ以上は無理だ」
その声は低く、しかし明確だった。
「最小限の哨戒だけを残す。全クルーに、帰還命令を出せ」
一瞬のためらいの後、
「了解」
短い応答がブリッジに連なり、各哨戒機へと帰還信号が送信されていく。
スクリーン上の光点が、ひとつ、またひとつと引き返していくのを、レイは黙って見つめていた。
レイにとって、フローの国というのは、単なる地図上の存在でしかなかった……昨日までは。
しかし、偶然にも、助けた人物がフローの国のお姫様。そして、その国の首都が、何者かによって占拠された。
本来であれば、まだ関わりのない国の出来事。
しかし、その国の主要人物の一人を保護しているという事実。
新生アスラム連邦の、足元もまだおぼつかないこの時期に、舞い込んできた厄介ごと。
フローの国とどうかかわるか?フラムの処遇をどうするか?
レイの決断が、皆を巻き込む……。
ブリッジには、決断の重さだけが、静かに沈殿していた。
◇
レイの執務室――同時に私室でもあるその空間は、ブリッジとは違い、静寂に包まれていた。
ソファーに深く身を沈めたレイは、外套も脱がぬまま天井を仰ぎ、珍しく完全に力を抜いている。
「……実際のところ、どうなさるおつもりで?」
控えめな声とともに、ケイトが湯気の立つカップを差し出した。香草茶の穏やかな香りが、張り詰めていた空気をわずかに和らげる。レイはゆっくりと上体を起こし、無言でそれを受け取った。
フラムの処遇。
その選択次第で、正体不明の敵と戦火を交える可能性がある。だが、自国はまだ盤石とは言えず、この時期に新たな敵を作るのは、あまりにも無謀だ。
それでも――行き場を失った少女を、このまま放り出すという選択が、人として許されるのか。
レイの沈黙が、その葛藤を雄弁に物語っていた。
ケイトはその横顔を見つめ、胸の内で静かに思う。
どんな決断を下すにせよ、それが彼にとって苦しいものであることに違いはない、と。
だからこそ、せめて今だけは。
彼女はそっと距離を詰め、ソファーの傍らに腰を下ろした。肩が触れ合うほどの近さで、何も言わずに寄り添う。
香草茶の湯気が、二人の間を静かに漂う。
言葉はなくとも、その温もりだけが、重い選択に向き合う主の心を、ほんのわずかでも癒そうとしていた。
大変遅くなって申し訳ないっす!!
続きを~~~~~と思いながら、別作品に手を出し、リアルで忙しくしていたら年が明けてしまいました。ごめんなさい。
でお、ちゃんと続きを書きますよ。
まだだ、まだ終わらんよっ!
で、続きを執筆するにあたり、読み返してみました。
誤字どころか、キャラの名前まで間違ってるじゃねぇかっ!
ヒロインの名前が、別作品のキャラ名になっている……誰だよこいつ!
全部修正しました……丸一日かかりました。
現在連載中の「魔王様のハーレムダンジョン」(https://ncode.syosetu.com/n7047ll/)の合間に書いていきますので、不定期ではありますが、気長に応援していただければ幸いです。
マギアグレイヴ、夢はアニメ化&スパロボ参戦!
だったら、はよ書けやっ!
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