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邂逅 その5

「――具体的な話をするぞ。」

レイのその一言が、和らぎかけていた場の空気を一瞬で引き締めた。

全員の視線が彼に向けられる。

「当面俺達が気にしなければならない問題は、三つだ。順に潰す。」

彼は手元のメモ用端末を叩きながら、要点を口にしていく。

「一つ。旧アスラム王族派の生き残りはいるのか?いるとすればどこに?

 二つ。拠点にできそうな場所が存在するか。

 三つ。戦力、つまり味方がどれほどいるのか、そして――使用可能なマギアグレイヴの有無だ。」

アイシアは頷きつつ、真剣な表情で言葉を継ぐ。

「王族派の有力者の多くは粛清されたと聞いていますが、国外逃亡した者もいるはず。…私の側近だった者が、生きていれば、接触の糸口になるかと。」

「名前は?」とレイが即座に返す。

「アーデルハイト・フォン・レーベン。元近衛隊長。忠誠心は高く、私の脱出にも関わっていました。」

「居場所は分かるか?」

レイの問い掛けにアイシアは首を横に振る。

「現在は……。でも、彼ならばユーロ連合に伝手があると思いますので……。」

レイはアイシアに頷く。


次にルーシーが手をあげて発言を求めてきた。

「拠点についてだけど、ユーロ連合とアスラムの国境沿いに、廃棄された都市がひとつあるよ。物資は乏しいけど、一通りの防衛設備も最低限整ってる。ボクらが潜伏していた時も、見回りすら来なかったから、取り敢えずの拠点には使えるはず。」


「どのあたりだ?」とレイが地図を見ながら聞く。

「“リーヴェル”っていう町……。地図には載ってないけど、大体このあたりかな?」

ルーシーがある一点を指さすと、アイシアも頷く。

頷いたレイは、最後の話題へと移る。


「戦力の話だが……アイシア、お前が動かせる兵は?」

「ゼロです。」

即答。だが、アイシアの目は揺るがない。

「まぁ、そうだろうな。……旧アスラム派を取り込んだとして予測される戦力は?」

「……彼らは着の身着のままで逃げ出したでしょうから当てにならないでしょう。それより、現在中立を貫いている各地の領主を取り込むべきです。一人でも取り込むことが出来れば3000~5000の兵力が得られますし、その領地を拠点として使うことも出来るでしょう。」

アイシアの的確な分析に例は軽く頷いて肯定の意を示す。

「ま、基本その路線だろうな。他には……。」

「はい、はいはいおにいちゃんっ!」

ルーシーが元気よく手をあげる。

「どうした?」

「この間の盗賊団、捕まえようよ。」

「どうしてだ?仕返ししたいのか?」

「それもあるけど、あのリーダー、アイシアの想い人なんだよ。」

「ちょっ、まっ、ルーシーさん、何を言い出すのっ!」

いきなりばらされた事実にアイシアが慌てふためく。

「ルーシー、そこんとこ詳しく!」

アスカが悪乗りしてアイシアを押さえ、ルーシーに事情を話すように言う。

「うん、何でもね……。」

ルーシーに洗いざらいバラされ、アイシアは「いっそ、殺してぇ」と、その場に突っ伏している。

レイは、その様子を眺めながら、「面白いな」と呟く。

レイの中では、すでにその盗賊団と接触することは決定事項になっていた。


「最後にマギアグレイヴに関してだが……」

その瞬間、場の空気が一段と重くなる。レイが視線を走らせる。

「現時点でこちらが所持してるのは「シグルドリーヴァ」ただ一機のみ。一応リックスともう一機あるが、まともな運用は無理だ。」

「そうですね、王家にも、旧式ですが何体か保管されていたはず……奪還できれば戦力になります。」

「奪還できれば、か。逆に言えば丸まる的に回る可能性もあるわけだ。」とレイが即断する。

「えぇ、ですが、わが国では魔装騎兵(マギアナイト)はほとんど存在していませんでしたから……。」

「まぁ、出来ればという所だな。それより……。」


こうして、彼らは一つずつ問題を洗い出し、議論を重ねていく。

「……はぁ。」

アスカがため息を吐く。

「どうした?」

「うん、こうして問題を並べると、無謀なことしてるなぁって。」

「そうか?」

「そうか、って……どう考えても無茶でしょ!小さいって言っても一国が相手よ?それに比べてこっちの戦力はここに居る4人とシグルドリーファ1機。これでどう戦えって言うのよ?」

そういう明日香の頭を零は優しく撫でる。

「心配するな。明日香とルーシーが頑張ってくれたおかげで、戦力についてはある程度目途が立ってるから。」

零の言葉に、明日香はキョトンと不思議そうに小首を傾げるのだった。



再び盗賊団のリーダー”ライオット”と対峙するアイシア。

「ライオット、お願い、私達に力を貸して」

しかしライオットは腕を組み、冷たい視線をアイシアに向けたまま動かない。

「俺に頭を下げるほど追い詰められたってわけか? お姫様がずいぶんと落ちぶれたもんだ」

その嘲笑を受け、アイシアの拳がわずかに震える。それでも彼女は口を噤んだまま、頭を下げ続けた。

そんな彼女の肩越しに、レイが一歩、前に出る。

「……俺が代わろう。」

ライオットの目がレイに向けられる。すぐに見下すような笑みが浮かぶ。

「お前は……誰だ?流れ者にしちゃぁ、少しは度胸が据わっているようだが?」

「今はただの流れ者だよ。でも、拗ねて八つ当たりをして満足している小さい奴らよりはマシだと思ってるよ。」

煽るようなレイの言葉に、ライオットが睨みつける。

「あぁん、何が言いたい?」

「……お前は、アイシアを護りたかったんじゃなかったのか?」

その一言に、空気が凍る。

ライオットの目が、わずかに細められる。

レイは構わず、静かに、だが鋭く言葉を重ねる。

「それができなかったから、今のお前は、拗ねてこんなところで弱い者いじめをしてるんだろ?」

ライオットの指がピクリと動いた。わずかな反応。しかし、それだけで十分だった。

レイは一歩、さらに近づき、真っ直ぐに言い放つ。

「――アイシアは、もう俺のモノだ。アイシアからこの身を捧げるって言ってきたぜ?」

その瞬間、ライオットの目が鋭く光る。

レイはその視線を真正面から受け止め、さらに一撃を加えるように続ける。

「守るべき時に、守るべきものを護れなかった男に――今さら何ができる?」

「……っ!」

ライオットが無言で剣を抜き振りぬく。

しかし、すでに例はバックステップでその場から離れている。

「アイシアは、お前の力を借りたいって言ってるが、俺にしてみれば、信念も何もないいじけた男の力は必要ない。俺が必要としているのは、何があっても立ち向かう気持ちだけは捨てない、芯の通った心を持つ者だけだ。」

レイはそう言いながらアイシアをライオットに見せつけるように抱き寄せる。


「……どうする?ここでもしっぽを撒いて逃げるか?」

レイの言葉にライオットはただただにらみつけるだけで動かない。

「……立てよ、ライオット。自分が失ったものを、取り戻すチャンスが目の前にあるんだ。俺の下で、アイシアを――未来を、護れ!」

ライオットの拳が音を立てて握り締められた。

「……出来ないというなら……ここまでだ。二度と顔を合わせることはないだろう。」

レイがアイシアを抱き上げ立ち去ろうとする。


「待て。」

ライオットは顔を逸らしながら、低く唸るように言う。

「……てめぇの言い方が気に食わねぇ。てめぇの存在が気に食わねぇ……だが――アイシアは俺のモンだ。俺がアイシアを護るって決めたんだっ!」

アイシアが驚いたように顔を上げる。ライオットは、鼻で笑いながら、強気の態度を崩さずに言う。

「いいだろう。お前の下で働いてやる。だが、一つだけ勘違いすんなよ、レイ。俺はお前のために動くわけじゃねぇ。アイシアのために、だ。」

そういうライオットに、レイはフンッと鼻を鳴らして答える。

「動機なんかどうでもいいさ。しっかり働いてくれるならな。まぁ、お前の活躍次第では、論功行賞でアイシアを下げ渡すことも出来るだろうさ。」

だから頑張れよ、とレイは言う。


それから、盗賊団のメンバーたちが、急いで移動をする準備を始める。彼らには先行してリーヴェルに移動してもらう事になっている。

お前らだけで大丈夫か?とレイが割とまじめに聞くと、ライオットがバカにするなと答える。

何でも、隠し持ったマギアグレイヴが数機あるとの事。

それなら大丈夫か、と、レイはライオットたちを見送る。


「これで20人の戦力がプラスされましたね。一気に6倍ですよ6倍。これは私の功績と言っていいのではないでしょうか?」

ドヤ顔をするアイシアをレイは優しく小突く。

「ばぁか、たった24人で何が出来るっていうんだよ。」

「それは、レイ様が考えることですよ?」

であった時とは違い、全幅の信頼を寄せる笑顔がそこにはあった。

レイは頭を掻きながら、「しょうがねぇなぁ」と呟き、帰路に至るのだった。



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