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荒廃の魔装騎士《マギア・グレイヴ》  作者: Red/春日玲音


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邂逅 その3

リックスまで、あとわずか。

その銀の装甲が、戦火の中でもなお美しく輝いていた。ルーシーは駆ける。振り返る暇もない。ただ、アイシアを守るという意志だけで、全身を突き動かしていた。

だが――


ゴォォォォォッ!!


突如、頭上から炎が降り注ぐ。爆発ではない。まるで意思を持ったかのような、抉るような火柱。

マギアグレイヴの武装、フレイムランスの攻撃だろう。

ルーシーは思わず足を止める。アイシアを庇いながら、炎の隙間から睨みつけるようにその先を見た。


見た事のないマギアグレイヴ……。

黒ずんだ装甲、赤く染まったセンサー。そこから発せられた声にルーシーは戸惑う。

「リックスは渡さないよ――」

ルーシーの目が大きく見開かれる。何故リックスを知っている?

しかし戸惑う間もなく彼女の口からも、同じ言葉が漏れた。

「リックスは……ボクのモノだっ!誰にも渡さないっ!」


意識の奥底から浮かび上がる記憶。痛み、喪失、誓い……そして、リックスという存在が彼女にとって何であったか。

「――っ、アイシア、しっかり掴まって!」

ルーシーはアイシアを抱えると、意を決して炎の中へと飛び込んだ。迫りくる炎を交わし、リックスの本体へと手を伸ばす。火傷など恐れていない。その先にあるのは、彼女の魂と繋がった唯一の存在。

コックピットに飛び込むと、アイシアを奥へ押しやり、ルーシーの手が操作盤に触れる。

「リックス……!起きて……目を覚まして……!」

しかし何の反応も起きない。

「リックス!ボクだ!ルーシーだよ!

パネルが淡く発光し始める。機体が、彼女の声に反応する。


その瞬間――ルーシーは、叫んだ。


「ご主人様より受け継がれし、ルーシーが命じるっ!リックス!チャージアップ!」


ヴゥウウン……!


轟音と共に、リックスの全身が光を纏い始める。蒼白のエネルギーラインが装甲を走り、赤く燃え上がる瞳が再起動の証を示す。

アイシアはその光景に目を見張りながらも、どこか懐かしいものを見るような微笑を浮かべた。

「ルーシー……ほんとに……魔装騎士(マギアナイト)だったんだ。」

ルーシーの信じてないわけではなかった。しかし、ただの言葉と、実際に目にすることでは重みが違う。この光景を目の当たりにして、アイシアは心が震えるのを間道に打ち震えるのを止めることが出来なかった。


リックスが咆哮する。背部ブースターが展開し、重力を蹴り上げる。


これが、反撃の始まりだった――!


ぶつかり合うマギアグレイヴ。轟音と火花の中、ルーシーの目が見開かれる。

「……この動き、まさか……」

初めて見る機体、けれど、剣の振り上げ方、間合いの詰め方、重力を逸らすような滑り。

まるで、かつて――


「そんなはずはない……でも……まさかっ……!」

ルーシーの心に、懐かしい名前がよぎる。


一方、マギアグレイヴ「アルテナΔ」の操縦席では、カナミが冷や汗を滲ませていた。

「……どういうこと?リックスがあの状態で、動いてる……?!」

本来なら、あの状態のリックスは反応しない。

誰が修復したのか、いや、そもそも、これは――

「でも、、まさか……。」

壊れかけとはいってもマギアドライヴとマギアコンバーターは動いている。

だとするならば、リックスの動きを熟知しているものが、強く願えば、マギアドライブは反応する……「そして、この動き……まさかっ!」

カナミが操る「シグルドリーヴァ」の拳がリックスを捕らえる。

リックスが腕をクロスにしてそれを受け止める。


カナミとルーシーの声が重なる

「「あなたは――誰なの!?」」


ぶつかり合うマギアグレイヴの拳と拳。衝撃が空気を震わせ、地面が裂ける。


その最中、遠くから――重々しい何かが迫る音が聞こえ始める。


カナミが一瞬周囲を見て、リックスの腕を引いた。


「とりあえず、ここから離れるわよっ!」


ルーシーはそれに逆らわなかった。

――いや、逆らえなかった。


マギアグレイヴの外骨格を通して音の振動が伝わる……そして聞こえてきた声。

あまりにも懐かしく、あまりにも温かくて、そして……忘れられるはずのない声。

「カナミ……お姉ちゃん……」

その瞬間、ルーシーの体から力が抜け落ちる。

リックスもまた、まるで彼女の想いに応じるように、その動きを止めた。

カナミは、動かなくなった機体をそっと抱えるように――

まるで、壊れた時間をかき集めるかのように――その場を後にした。


◇ ◇ ◇


深い森の中腹。霧に紛れるように隠された、盗賊団のアジト。

カナミはリックスの足跡を辿り、ついにその場所を突き止めた。

「ここに……リックスが……!」

だが、アジトを遠望した彼女はすぐに察する。

数と装備、地の利――どれをとっても、単独での突入は無謀だ。

「……このままじゃ、無理」

けれど、カナミの目には迷いはなかった。

彼女には、まだ切っていない“最後のカード”がある。

「仕方ないか……センパイも、同じ状況だったら使うよね?」

静かに、深く息を吸い込む。

「シグルドリーヴァ――出番よ!」

カナミの声に呼応するようにブレスレットが光り、重厚なフォルムを持つマギアグレイヴが姿を現す。

彼方の“アルテー”とカナミ自身の“シュヴァルツ”をベースに、独自に改装を重ねた、戦場を駆ける白き刃――「アルテナシリーズΔ個体名:シグルドリーヴァ」。

鋼が軋む音とともに、アルテナのコアが淡く輝く。

「リーヴァ……リックスを取り戻すわよっ!」

カナミは()()に声を掛け、その笑みが、戦意と覚悟に染まる。

アルテナが森の上空を疾風のように駆けていく。

その歩みは、まるで雷鳴――盗賊団に迫る、静かなる破滅の足音だった。


そして、リックスを見つけ……。



「後は、まぁ、ルーシーの知っての通りよ。」

焚火に薪をくべながらカナミはルーシーにそう告げる。

「そっか、ご主人様も近くにいるんだ。……むぎゅっ!」

嬉しそうな顔をしたルーシーをアイシアがギュッと抱きしめる。

今、ルーシー-はアイシアに抱きかかえられるようにして焚火の前にいた。

この場所に着いた時、ルーシーが気を失っていたため、互いに見知らぬカナミとアイシアの間で一触即発の雰囲気が漂っていたのだが、ルーシーを護ろうとするアイシアの様子を見て、カナミから先に折れたのだ。「ルーシーを助けてくれてありがとう」と。

そして、ルーシーが目覚めた後、カナミがルーシーに抱きつき、もみくちゃにしたため、アイシアがルーシーを庇う様に、こうして抱きとめているというわけだった。


「それで、そっちはそっちでややこしいことになっているみたいね?」

カナミがルーシーに言う。

ルーシーが気を失っている間に、大体の事はアイシアから話を聞いていた。

「うん。ボクはアイシアに力を貸したいと思うんだ。」

ルーシーがだめかな?という顔でカナミを見る。

「えっと、アイシアさん。」

カナミはアイシアの眼をじっと見つめる。

「……すぐには無理よ」

ルーシーが目を丸くする。だが、カナミの声はどこか優しかった。

「何をするにしても、力を蓄えなきゃ話にならない。敵はただの反乱軍じゃない。しかもラーの国と同盟を結ぼうとしている……一撃を入れるにせよ、国を取り戻すにせよ、本格的に動くには――時間がかかるわ」


カナミはもう一度アイシアを真っ直ぐに見据える。

「それまで、耐え忍べる? 踏み潰されそうな現実の中で、何もできない日々を抱えながら」

アイシアは静かに頷いた。

「……耐えてみせるわ。その先に、未来があるなら……私は私の正義を貫くの。」

その言葉に、ルーシーもまた小さく、でも強く頷いた。


「はぁ……じゃぁ、とりあえず街に戻ろっか。センパイも心配してると思うしね。」

「うん、ご主人様に久しぶりに会える。」

「ルーシー、言っておくけど、センパイは私のだからねっ!」

「えぇ……ボクもご主人様といちゃつきたいよぉ。ご主人様だってそう思ってるよぉ。」

「ぐぅ……それは否定できないぉ……。」

カナミに甘えながら、年相応の柄がをを見せるルーシーを見て、少しだけ羨ましく思うアイシアだった。



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