漂浪者
ラーの国の御家騒動……ドランは自らの下剋上の罪を全てレイになすり付けた。
つまり……
『カスガ領のレイ・カスガが、事もあろうに、ラーの国を乗っ取る為、国王であるグランに手をかけた。その非情なる反逆者を、ドランが成敗するために軍を動かす。首謀者であるレイ・カスガを取り逃がしたものの、ラース城を奪還。今後は兄の遺志を継いで、弟であるドランがこの国を担っていく。』
という事だった。
いくらなんでも強引すぎるだろう、と思うが、国王になったドランに逆らえる者がいる筈もなく……というか、カスガ領という、逆らえば国賊にされるという例を表示されていては、逆らう気にもなれないだろう。
無実の罪でラーの国を追われた、レイとアスカがこのサウス地方に辿り着いたのは二年半ほど前。
半年ほどの逃亡生活を経た挙句に海へ投げ出され、この村の南側の海岸に、二人して打ち上げられていた。
それを村娘のアーニャが見つけ、手厚い介護の甲斐あって、発見されてから三日後に、二人は意識を取り戻したのだった。
「……ここ……は……?」
目覚めると知らない天井が目に入ってくる。
「お目覚めですか?」
すっと覗き込んでくる、クリッとした藍色の瞳。肩までかかる金色の髪が零れ落ちてきて、俺の鼻先をくすぐる。
「……可愛い天使に起こされる……ってか……夢だな。」
俺はそう言って目を閉じる。
「可愛いって……ぽっ……って、あっ、あぁぁ……寝ちゃダメ……でもないのかな……あぁんッ、どうすればいいのぉっ。」
枕もとでジタバタ騒がれては落ち着いて眠れやしない。
俺は、少女の腕を掴み、ぐっと抱き寄せ、そのふくよかな胸に顔を埋めてそのまま意識を手放す。
……夢の中で意識を手放すって言うのも変だけどな。
って言うか、この柔らかさ。美少女の胸に顔を埋めて眠る……やるじゃん、俺の夢……。
「えっと、あのっ、あのっ……。……あぁぁん……どうすればいいのぉ!」
少女がジタバタもがくが、しっかりとホールドされていて身動きが取れない。
やがて、暴れるのにも疲れ果てた少女は、「仕方がないなぁ」と呟きながら胸の中のレイの頭を抱え込み、そのまま眠ってしまうのであった。
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「責任、とってもらえますかな?」
今、俺の前には、仏頂面した厳ついオッサンが、俺を睨みつけている。
「責任と言われてもなぁ……。」
俺は困ったように頭をかく。
目が覚めると、知らない女の子に抱きしめられていた……これが俺の知っている限りの現状なのだが……。
「それより、俺と一緒に女の子がいなかったか?」
「……ネコミミのアンコモンの女なら、お主より先に目覚めてな、ウチの娘とお主が同衾しているのを見て『浮気者~!』とか叫んで飛び出していったぞぃ。」
「それを早くいえっ!」
俺は慌てて飛びだそうとして……その場でつんのめる。
少女が俺の裾を掴んでいたからだ。
「責任……。」
その愛くるしい瞳に涙を浮かべながらそう呟く。
「あ~っ、もうっ!責任でもなんでもとってやるから、今は放してくれっ!」
俺はそう言い捨てて立ち上がると、アスカが走っていった方向へと駆け出していった。
◇
「……で、なんでこうなった?」
あれから、ようやくの事でアスカを捕まえ、更にふてくされているアスカの機嫌を取り、ようやく機嫌を直してくれたアスカを伴って先程の家まで戻ると……なぜか、離れへと案内され、そこには三つ指をついて「末永くよろしくお願いします。」と頭を下げる少女……アーニャに出迎えられたのだ。
そして、現在、ベッドに腰掛ける俺の右隣にはアスカが、左隣にはアーニャが、それぞれ俺の腕を抱きかかえ、俺を挟んで睨み合っているのだった。
「ですからっ、今夜は私と旦那様の初夜なのですから、アスカ様にはご遠慮いただきたく……。」
「フーッ!にゃにふじゃけたこと言ってるにょよっ!センパイはわたしゃにゃいかりゃねっ!」
フーッっと威嚇しているアスカのろれつが回っていないのは、先程迄飲み過ぎていたからだ。
戻ってきた俺達を出迎えた後、通された離れの食堂には、かなり無理をしたと思われる豪勢な食事が並んでいた。
どういう理由の歓待なのかはわからなかったが、自分たちの事を一応歓迎してくれている事は理解できたので、勧められるがままに料理を戴き酒を口にした。
そして夜も更けて、そろそろ休もう、となったところで、今の状況である。
「ですからっ、何度も言いますが、今夜は私と旦那様の初夜なのですから、アスカ様にはご遠慮いただきたく……。」
アーニャの凛とした声が部屋に響いた。彼女の真剣なまなざしと、まっすぐな言葉に、一瞬場の空気が張り詰めた。
が、その空気をあっさりと打ち砕いたのは、やや呂律の回らない、しかし威勢だけは一人前の明日香だった。
「フーッ! にゃにふじゃけたこと言ってるにょよっ! センパイはわたしにょもにょにゃのっ!」
猫のように背を丸めて威嚇するアスカ。頬は赤く、目は少し潤んでいて、さっきまで空けていたシャンパンボトルのせいだろう。おかげで語尾がすべて崩壊している。
「にゃにが"初夜"よっ、センパイはそんなの、にょぞんでにゃいんだからっ!」
「いえ、私は旦那様に“責任を取ってもらう”のです。旦那様もそうおっしゃられました。ですから、当然の流れですわ」
「そ、それは酔って言っただけにゃのよっ! ね? センパイっ!」
2人の視線が一斉に俺に突き刺さる。片方は真剣そのものの覚悟、もう片方は潤んだ目での上目遣い――しかも威嚇つきだ。
……俺は、今、何をどう答えればいいのか、まるでわからない。
まるで修羅場という名のアリ地獄に、無抵抗のまま放り込まれた気分だった。
責任? 初夜? そんなワードが現実感を伴って俺の耳に届くたびに、理性がふらつく。酔ってるのは俺のほうじゃないかって疑いたくなるほどだ。
「えっと、あのさ……とりあえず、二人とも、落ち着こうか?」
その一言が、どちらにとっても“敵”の言葉に聞こえたのかもしれない。次の瞬間、二人の間に再び火花が散る。
お願いだから誰か、俺をこの部屋から脱出させてくれ――。
「落ち着こうか」なんて言葉が、どれほど無意味だったか。今の俺なら、過去の俺を全力で止めに行ける。
「センパイは……わたしゃのこと、昔からかわいいって言ってたにゃ……♡」
アスカがふらふらとした足取りで、俺の腕にすり寄る。頬をぴったりと寄せながら、甘えるように見上げてくるその瞳は、どこか挑発的ですらあった。
「そのような過去の曖昧な記憶に頼らなくても、旦那様は私に"責任を取る"とおっしゃったのです。具体的な言葉で。」
アーニャは静かに、しかし確信に満ちた声でそう言うと、俺の反対側に座り直し、両手をそっと俺の手に重ねた。透き通るような瞳が、まっすぐに俺を見つめている。
「ねぇセンパイ、どっちがいい? 私とにゃら、こんなことも、あんなことも……ふふっ♡」
「いえ、私のほうがより真剣です。旦那様には、一晩中後悔させない自信がありますわ」
――これは、もはや争いというより、誘惑合戦だった。
左右から押し寄せる熱。甘い吐息、柔らかな感触、甘やかな声と、淡い香り。
逃げ場はどこにもなかった。心臓の鼓動がうるさくて、自分の呼吸すら掻き消されるほどだ。
「お、俺は……っ」
必死に何かを言いかけたその瞬間、二人は顔を見合わせ、何かを察したようにニヤリと笑った。
「……じゃあ、決めてもらいましょうか、センパイが一番欲しくなった方を」
「そう、選んで? センパイ♡」
瞬間、アスカの手が俺の首筋を撫で、アーニャの指先が胸元のボタンに触れる。
俺の手が二人に誘導され、その胸元に伸びていく。
手のひらに感じる柔らかな膨らみ……。
思考が、溶けていく。抗うには、あまりにも……心地よすぎた。
そして――
・
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朝日がゆっくりとカーテン越しに差し込み、柔らかな光がベッドの上を照らしていた。
意識が浮かび上がると同時に、温もりに包まれていることに気づく。
「……んん……センパイ……♡」
俺の胸元に顔をすり寄せながら、明日香が甘えた声を漏らす。
昨夜の酔いはすっかり抜けているらしいが、その瞳はどこか潤んでいて、まるで子猫のようだった。
「やっぱ……センパイは、わたしゃのものだにゃ……絶対、離してあげにゃい……♡」
彼女の腕がぎゅっと俺の首に回され、逃げ道を封じられる。
その後ろから、アーニャが穏やかな微笑みを浮かべて身を寄せてくる。
「おはようございます、旦那様。……昨夜は、とても……嬉しかったですわ♡」
いつも通りの丁寧な口調、けれどその声色はひどく甘やかで、吐息が耳に触れるたび、心臓が跳ねた。
アーニャは俺の肩に頬を乗せ、繊細な指先で髪を梳いてくれる。
「……責任、取ってくださいね。 ふふ……もう離しませんから」
「ねぇねぇ、今日もずーっと一緒にいて? 朝ごはんとか、いらにゃい。センパイとぬくぬくしてたいの……」
俺の左右には、まるで天使と悪魔のように甘える二人。
けれどどちらも、優しさと愛しさに満ちていて――幸せの形が、こういうものだと初めて知った気がした。
「……まいったな、こんなの、逃げられないだろ……」
そう呟いた俺の言葉に、二人は同時に微笑む。
「逃がしませんわ。だって、もう……私たちの“旦那様”ですから」
「にゃふふ……センパイは、もうわたしゃたちのものだもん♡」
そのまま、三人で朝の光に包まれながら、ゆっくりと目を閉じた。
今日も、甘くてとろけるような一日が始まる――。
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「……センパイ、もう妄想タイムは終わった?」
明日香がジト目で見ながらそう聞いてくる。
「え?……今の夢?」
「夢というか妄想?……センパイのロリコン。」
「あ、いや、その……。」
確かに、この家の娘のアーニャは可愛い。
彼女に俺達が助けられたことも確かなのだが……。
こんな妄想していたのも訳がある。
先程の宴会の後、アーニャに呼び出されて「これからもずっと一緒に居て欲しい」と言われたのである。
ただ、その場にはアスカもいたので、色っぽい話ではなく、俺とアスカにずっと村にいて欲しい、という事なのだとは思うが。
そして俺としても、さっきほどの妄想のように、何も考えず、ただこの平和な時間を貪りたい、という思いがある……それがかなわぬ夢だとしても。
……叶わぬ夢だからこそ、そんな妄想をしたのかもしれない。
「で、どうするの?」
明日香がそう訊ねてくる。その瞳は不安で揺れ動いている。
「まぁ、潮時だよな。」
俺は隠しておいた資料に目を通しながら呟く。
そこには、特殊な素材の流れや、各地の盗賊の動き、経済状況などが書かれている。
一見すると、なんてことのない資料ではあるが、あることを知っているものが注目すればわかることもある。
「明日、この村を出るよ。」
俺がそういうと、明日香の瞳が揺れる。
「悪いな。もし何なら明日香だけでも……。」
俺の言葉を明日香が、自らの唇で塞ぐことで封じる。
「ウウン、この3年近く、私はセンパイとイチャイチャできたからね。そろそろ独占はお終いにしないと。」
「……そういう問題か?」
「うん、そういう問題だよ。」
明日香がそう言って、再びキスをしてくる。
俺達は、しばらくの間そのままでいるのだった。
第二部は明日香とのイチャラブからです。
この後、しばらくイチャラブお預けになりそうなので。
次回、異国のお姫様が登場します……多分。
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